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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                            年休取得時季の変更と会社の配慮




1.ポイント



(1)労働者の年休の時季指定に対して、

会社は、「事業の正常な運営を妨げる場合」に限って

年休取得の時季を変更「時季変更権」を行使)できる。


(2)しかし、会社はその前に、労働者が指定した時季に

年休が取れるように「配慮」することが求められる


(3)「事業の正常な運営を妨げる場合」とは、

年休を取る日の仕事が、労働者の担当している業務

所属する部・課・係など、一定範囲の業務運営に不可欠であり、

代わりの労働者を確保することが困難な状態を指す。


(4)「配慮」とは、代わりに勤務する者の確保

勤務予定の変更をいう。




このような努力をしないで時季変更権を行使することは認められない。





2.モデル裁判例


  弘前電報電話局事件 最二小判昭62.7.10 民集41‐5‐1229


(1)事件のあらまし



 第一審原告の労働者Xは、電報電話局施設部機械課に勤めていた。

Xは、最低人員配置が2名と決められていた(これを「勤務割」という)日曜日の

勤務について、年次休暇の時季指定をした。これに対して、Xの上司である

機械課長Aは、労働者の日頃の言動などから、Xは年休の時季指定をした日に

成田空港反対現地集会に参加して違法な行為を行う可能性があると考えた。

そして、Xの年休取得を阻止しようと、Xに代わって勤務を申し出ていたBを説得

して、申し出を撤回させた。その上で、年休の時季指定日にXが出勤しなければ

最低配置人員を欠くことになるとして、年休取得の時季を変更した。しかし、

Xは出勤せず、違法行為にはおよばなかったものの、集会に参加した。そのため、

Xの使用者である第一審被告Y(電電公社)は、Xを戒告処分(将来を戒めて注意

すること。以下同じ) にし、出勤しなかった日の賃金を差し引いた。これに対し、

Xは、時季変更の違法性を争い、差し引かれた賃金の支払と、戒告処分の無効

確認などを求めて訴えを起こした。一審は、Aの時季変更を違法としたが、



二審は違法ではないとした。そこで、Xが上告したのがこの裁判例である。



(2)判決の内容


労働者側勝訴


 一審における労働者の請求が認められた。


 この裁判例に即して労働基準法(以下、労基法)39条3項(現4項)

但書の「事業の正常な運営を妨げる場合」を考えると、次のようになる。

勤務割にしたがった勤務体制が取られている職場では、会社として通常の

配慮をすれば、勤務割を変更して代わりの者を配置できる客観的な状況が

あるにもかかわらず、会社が労働者に年休を取得させるために配慮をしない

ことで代わりの者が配置されないときは、必要人員を欠くとして事業の正常な

運営を妨げる、とは言えない。


 また、労基法は、年休の利用目的について関知していない。

だから、勤務割を変更して、代わりの者を配置するのが可能であるにも

かかわらず、年休の利用目的によって年休を取得させるための配慮を

せずに時季変更することは、利用目的を考慮して年休を与えないのと同じ

であって認められない。


 したがって、この事件における時季変更は、事業の正常な運営を妨げる場合に

当たらないので違法である。



3.解 説

 労働者の年休の時季指定に対して、

会社は、「事業の正常な運営を妨げる場合」に限って、年休の取得時季を変更

(「時季変更権」を行使)できる。しかし、会社は、その前に、労働者の指定した

時季に年休が取れるように「配慮」することが求められる。


 以下、「事業の正常な運営を妨げる場合」、「配慮」の意味、

時季変更権行使の方法に関して見ていく。




(1)「事業の正常な運営を妨げる場合」


 「事業の正常な運営を妨げる場合」とは、労働者が年休を取得しようと

する日の仕事が、その労働者の担当している業務や、所属する部・課・係など、

一定範囲の業務運営に不可欠であり、代わりの労働者を確保することが困難な

状態を指す

新潟鉄道郵便局事件 最二小判昭60.3.11 労判452‐13、

千葉中郵便局事件 最一小判昭62.2.19 労判493‐6)。



 結果的には何とか事業の正常な運営が確保されたとしても、業務運営の

定員が決められていることなどから、事前の判断で、事業の正常な運営が

妨げられると考えられる場合、会社は、年休取得時季を変更(「時季変更権」を

行使) することができる

電電公社此花電報電話局事件 最一小判昭57.3.18 民集36‐3‐366)。


 労働者が年休の申請をした時季が、年休として指定した期間の始まりの

時季に極めて接近していたために、会社には年休時季を変更するかどうかを

事前に判断する時間的余裕がなかった場合、客観的に年休時季を変更できる

理由があり、さらに、変更が速やかになされたのであれば、年休が始まってから、

あるいはすでに年休の期間が過ぎてから、会社が年休時季を変更した場合で

あっても、適法な時季変更権の行使である

(前掲電電公社此花電報電話局事件)。




(2)使用者の「配慮」


 勤務割によって勤務予定が定められている職場では、年休を取る者に

代わって勤務する者を確保するなどして、勤務割の変更を検討することが

求められる(モデル裁判例・

弘前電報電話局事件横手統制電話中継所事件 最三小判昭62.9.22 労判503‐6)。
 

具体的には、

@職場の勤務割変更の方法とその頻度、

A年休の時季指定に対する会社の今までの対応、

B年休を申請した労働者の作業内容や性質

C休みの労働者の仕事をサポートする者の作業の繁閑からみて、

代わりに勤務することが可能であったか、

D年休の時季指定は、会社が代わりの勤務者を確保できる時間的余裕の

ある時期になされたか、E週休制の運用がどのようになされてきたか、

に照らして判断される

電電公社関東電気通信局事件 最三小判平元.7.4 民集43‐7‐767)。

(3)「長期の連続した時季指定」に対する時季変更権


 休日を含めて約1ヵ月の年休時季指定に対する時季変更権の

行使について、最高裁判所は、おおよそ次のように述べている。


 @労働者の担当業務は専門性が高く、長期に代わりの者を確保する

ことは相当に困難である

、A 労働者は約1ヵ月の長期の連続した時季指定を、会社と十分な調整を

しないで行った、B労働者の上司は、代わりの者を配置する余裕がなく、

業務に支障を来すとして、2週間ずつ2回に分けて休暇を取って欲しいと

告げたうえで、後半2週間の勤務日についてのみ時季変更権を行使している、

といった事情から、労働者の時季指定に対して会社は相当の配慮をしている。


 以上から、時季変更権の行使は、労基法39条の趣旨に

反する不合理なものとはいえない


時事通信社事件 最三小判平4.6.23 民集46‐4‐306)。







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