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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                                    年次有給休暇を取る目的



1.ポイント



(1)年休を取った日をどのように使うかは労働者の自由である。


(2)所属する職場の事業の正常な運営を害する目的で取る年休は、

会社の業務が正常に行われることを前提に給与を得て休む

という年休の趣旨に反するので、成立しない


(3)所属の職場以外での活動に参加するための年休の時季指定

対して、年休を取った日の利用目的を理由として、年休取得時季を

変更することは違法である。


(4)所属の職場での活動に参加するための年休の時季指定でも、

年休を取った労働者の担当業務などから考えて、

事業の正常な運営を害さない年休の時季指定可能である。


(5)特定の業務を拒否するための年休の時季指定違法である。







2.モデル裁判例




  道立夕張南高校事件 最一小判昭61.12.18 労判487‐14

(1)事件のあらまし


 北海道教職員組合Aの組合員である第一審原告高校教諭Xらは、

総評が春闘などに伴って全国行動を行うのにあわせて、Aが企画した

集会などに参加することにした。Aは、組合員の3割を動員して集会など

に参加させることとし、参加する組合員には所定の様式に従った休暇届を

提出するよう指示した。しかし、年休の時季変更が適法になされた場合にも、

各職場の組合員の3割の者が、敢えて職場を離れて集会に参加することを

指示したものではなかった。XらはAの指示に従い、集会のある日の午後1時

以降半日について年休の時季を指定し、当日午後に担当する予定の授業について、

あらかじめ授業の振替、自習課題の配布および指導を他の教諭に依頼するなどの

手当をした上で集会に参加した。



 所属高校の校長Bは、Xらの年休を認めず、年休の時季指定に対して時季

変更をしたが、Xらは集会当日の午後、Bの時季変更にもかかわらず職場を

離脱した。そのため、第一審被告の北海道教育委員会Yは、Xらを戒告処分(将来を戒めるために行う注意。以下同じ)にした。


 Xらは、戒告処分の取消を求めて訴えを起こした。一審二審ともBの時季

変更は不適法で、年休は有効に成立しているから、YのXらに対する戒告処分は

いずれも違法であるとして、Xらの請求を認めた。そこで、Yが上告したのがこの

裁判例である。



(2)判決の内容


労働者側勝訴


 教育委員会が行った教諭らへの戒告処分を無効とした。


 Aの指示は、適法な時季変更があった場合にこれを無視して集会に

参加することまでを指示したものではなかった。また、Xらの年休取得は、

各職場の事業の正常な運営を害する目的であったとはいえない。従って、

XらがAの指示に従って集会に参加するために年休の時季指定をして職務に

就かなかったことを、年休と称したストライキとは言えない。また、労働基準法

(以下、労基法)39条3項但書(現在は4項但書:筆者注)の「事業の正常な

運営を妨げる」事情が認められないことから、集会当日の午後半日について

行った年休の時季指定に対する校長の時季変更は適法ではなかった。

そうであれば、その半日についてXらの年休は成立し、働く義務はなかった

ことになる。従って、Xらが就労しなかったことは、地方公務員法に違反せず、

戒告処分はその前提を欠いて違法である。



3.解 説

(1)ストライキを目的とした年休の取得―― 所属の職場かどうか?


 最高裁判所は、年休の利用目的について労基法は関知しないので、

年休をどのように利用するかは使用者の干渉を許さない労働者の自由で

あると述べている。その上で、労働者が所属する職場で、そこの業務の正常な

運営の阻害を目的として一斉に休暇届を提出して職場を放棄・離脱することは、

実質的に年休という名目のストライキであり、本来の年休権の行使ではないので、

これに対する使用者の時季変更権の行使もありえず、一斉休暇の名の下に

ストライキをした労働者全員の賃金請求権が発生しない、と述べている

林野庁白石営林署事件 最二小判昭48.3.2 民集27‐2‐191)。


 つまり、最高裁判所は、年休の利用の仕方は労働者の自由であることを

前提に、労働者が所属する職場の事業の正常な運営を害する目的で取る

年休は、年休を取る前提を欠くために成立しない、と言っているのである。


 モデル裁判例では、この最高裁判決に従って、所属職場以外の職場で

行われる組合活動への参加を目的とした年休取得を適法なものとし、これに

対する使用者の時季変更権の行使を適法ではないとした。その後も、成田空港

闘争への参加を目的とする年休取得に対する時季変更権の行使は適法では

ないとしている

(例えば、

電電公社近畿電通局事件
 最一小判昭62.7.2 労判504‐10)。




(2)所属の職場でのストライキを目的とした年休の取得ではなかったが・・・


 では、年休を申請して認められたが、その後、偶然にも、所属の職場で

ストライキが行われ、年休で休みを取っていた労働者がそのストライキに

参加した場合はどうなるのだろうか。このような希な問題について、最高

裁判所は、おおよそ次のように述べて、年休は成立しないと述べた。労働者が、

たまたま先に取得した年休を会社が認めているのをいいことに、年休をそのまま

取得し続け、所属する職場の正常な業務の運営を阻害する目的をもってストライキに

参加したことは、業務を運営するための正常な勤務体制が整っていることを

前提に休むことを認める、という年休の趣旨に反する

国鉄津田沼電車区事件 最三小判平3.11.19 民集45‐8‐1236)。


 しかし、最高裁判所は一方で、年休を取得して、所属の職場で時限ストと

並行して行われた職場集会に参加し、司会・演説した労働者らについて、

担当業務の点で事業の正常な運営を妨げておらず、勤務時間外になされた

行為であることなどを理由に、正当な年休取得ではないとの会社側の主張を

認めなかった

国鉄直方自動車営業所事件 最二小判平8.9.13 労判702‐23)。




(3)特定業務を拒否するための年休の取得


 最近では、ストライキ以外でも、利用目的によっては年休の取得が違法と

されている事件がある。ある事件では、タクシー会社の運転手が、深夜乗務を

拒否するために取った年休について判断された。裁判所は、深夜乗務は、

深夜のタクシー不足解消や労働時間の短縮という社会的・政策的要請を理由と

するものであり、深夜乗務を行う必要性は高いので、深夜乗務を拒否するための

年休の時季指定は違法である、としている

日本交通事件 東京高判平11.4.20 判時1682‐135)。







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