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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                                年次有給休暇の意義



1.ポイント



(1)労働基準法39条の必要事項

6ヵ月間継続勤務」し「全労働日」の「8割以上に出勤」)を充たした場合、

労働者は法定日数の年次有給休暇を取る権利を得る。


(2)労働者が年次有給休暇を取る権利を得た場合

会社は労働者の指定した時季」に年次有給休暇を与えなくてはならない



(3)労働者が年次有給休暇を取ることにより、

事業の正常な運営を妨げる」として

会社が年次有給休暇を取る時季を変更しない限り

年次有給休暇を取った日の労働者の働く義務がなくなる


(4)「年次有給休暇の請求は事前に行う」と

会社が定めることは可能である。


(5)労働者に半日単位の年次有給休暇

与える義務は、会社にはない


(6)仕事を休んだことを、

事後的に年次有給休暇として振り替えることは、

会社の判断に委ねられている。



2.モデル裁判例



  林野庁白石営林署事件 最二小判昭48.3.2 民集27‐2‐191

(1)事件のあらまし

 第一審の原告である労働者Xは、

帰る間際に、翌日と翌々日に年次有給休暇(以下、年休) を取る

ことを休暇簿記載した。

そして、Xは、その両日に出勤しないで、他の営林署で行われた

ストライキ支援活動に参加した。

Xの上司であるA署長は、Xの年次有給休暇を認めず

欠勤扱いとして、2日分の賃金を差し引いて賃金を支払った。

そこでXは、第一審被告である国Yに対して、

差し引かれた分の賃金の支払いなどを求めた

一審二審ともXが勝訴し、Yが上告したのがこの裁判例である。



(2)判決の内容


労働者側勝訴


 年休権は有効に成立しているとして、

労働者の未払い賃金請求が認められた。


 労働基準法(以下、労基法)39条1項2項の要件(労働者が

「6ヵ月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤」したこと) が

満たされた時は、労働者は、法律上当然に所定日数の年休権を

得るので、会社は労働者に年休を与える義務がある。


 労働者が持つ休暇日数の範囲内で、休暇の具体的な始まりの

時季と終わりの時季を特定して「時季指定」をした時は、

労基法39条3項但し書き(現在は4項但書:筆者注) の理由

(「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な

運営を妨げる場合」) が客観的にあり、これを理由に会社が労働者の

年休を取る時季を変更( 時季変更権を行使しない限り、労働者の

時季指定によって年休が成立し、時季指定された日に労働者が働く

義務がなくなる



3.解 説

 

年休をめぐる労働者の権利と使用者の義務はモデル裁判例に見る通りである。

行政の考え方も、この最高裁判所の判決に従っている(昭48.3.6基発110号)。

以下では、モデル裁判例に出てきた、年休権の成立に必要な事柄や、年休を取る

手続きなどにかかわる問題を見る。



(1)全労働日


 全労働日とは「労働者が労働契約上労働義務を課せられている日

(働く義務のある日)」をいう

エス・ウント・エー事件 最三小判平4.2.18 労判609‐12)。

全労働日には、年休を取った日(昭22.9.13基発17号)、仕事に関連してけがを

したり病気になったりして休んだ日、育児休業や介護休業を取った日、産前産後に

仕事を休んだ日も含まれる(労基法39条7項)。


 働く義務がある日であっても、会社側の理由で休みを取らざるを得なかった日

(昭63.3.14基発150号)、生理休暇を取った日(昭23.7.31基収2675号)、慶弔

休暇を取った日、正当なストライキのために働かなかった日(昭33.2.13基発90号) は

「全労働日」に含まれない(働く義務のあった日ではないということ)。


 ある事件では、会社の就業規則で、休日とは別個に定められた一般休暇日

(「労働義務があるが欠勤として差し支えない日」とされ、休んだ場合は「要出勤日数」と

され、労働者が不利益を受けることになる日)が「全労働日」に含まれるかが争われた。

最高裁判所は、「全労働日」とは「労働者が労働契約上労働義務を課せられている日」を

指すが、この事件の一般休暇日は、働く義務のない日なので、「全労働日」には

含まれないと述べた

(前掲エス・ウント・エー事件)。



(2)継続勤務


 「継続勤務」とは、会社に在籍している期間のことをいい、「継続勤務」かどうかは、

勤務の実態を見て判断される。例えば、定年退職後に嘱託として勤務していること、

短期の契約を更新して勤務していること、臨時労働者が正社員に採用されたこと、

在籍出向などは「継続勤務」となる(昭63.3.14基発150号)。


 ある事件では、1年単位の労働契約を数年にわたって更新した場合は「継続勤務」に

当たるとされている(国際協力事業団( 年休) 事件 東京地判平9.12.1 労判729‐26)。

また、別の事件では、就業規則で、雇われている期間が仕事のある時だけに限られ、

労働契約を結んでいない期間があるからといって、労働契約が実態として同一性が

ないと考えるのは妥当ではない、と判断されている

日本中央競馬会事件 東京高判平11.9.30 労判780‐80)。


 しかし、また別の事件では、常勤の正規職員が定年退職の後、翌日から非常勤

嘱託職員として月18日間(週4日相当) の勤務となった場合、両者の勤務関係は

実質的には別個であって、「継続勤務」ではない、と判断されている

東京芝浦食肉事業公社事件 東京地判平2.9.25 労判569‐28)。

「継続勤務」になるかどうかは事件ごとに違うので、判断は難しい。




(3)一定期日前までの年休の申し出

 最高裁判所は、年休を取得した人の代わりの人を確保するために、

就業規則で年休の請求は前々日までに行うと定めることは、労基法に

違反せず、有効であると述べている

電電公社此花電報電話局事件 最一小判昭57.3.18 民集36‐3‐366)。



(4)半日年休・時間年休


 年休は、一労働日(つまり1日) が一つの単位なので、労働者が半日の

年休を請求しても、会社は半日の年休を労働者に与える義務はない

(昭24.7.7基収1428号)。時間単位の年休請求も同じである。

しかし、会社が自らの判断で、半日や時間単位で年休を与えるのは違法ではない

高宮学園事件 東京地判平7.6.19 労判678‐18 では半日年休が、

東京国際郵便局事件 東京地判平5.12.8 労判640‐15では1 時間の年休が

認められている)。



(5)事後請求・事後振替


 年休の事後請求は、本来、成立しないが、仕事を休んだことを事後的に

年休に振り替えることは、使用者の判断に委ねられている

東京貯金事務センター事件 東京高判平6.3.24 労民集45‐1・2‐118)。

但し、事後請求の理由として労働者が申し出た事情を考慮して、その休みを

年休として処理することが妥当なのに年休を与えない場合、違法になる

(前掲東京貯金事務センター事件)。










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