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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                                       職務発明と報酬



1.ポイント


 職務上の発明に対する報酬が、

特許法35条3項にいう

相当の対価」の額に満たない場合、

労働者は差額金の支払を使用者に請求することができる



2.モデル裁判例



  オリンパス光学工業事件 最三小判平15.4.22 労判846‐5



(1)事件のあらまし


 一審被告Yは、写真機器など光学機械の製造販売会社であり、

一審原告Xは、Yの元従業員である。


 XはYに在職中の昭和52年にビデオディスク装置のピックアップ装置に

関する職務発明をした。

Yはその発明考案取扱規定により、この発明の特許を受ける権利を

Xから受け継ぎ、その規定に基づいて、

Xに対して、昭和53年に出願補償3,000円、平成元年に登録補償8,000円、

平成4年に工業所有権収入取得時補償20万円の合計21万1,000円を支払った。


 しかしXは、

@この職務発明はCD装置に必要不可欠の装置にかかわるものであり、

国内すべてのCD装置に使用されている、

AYはこの発明を含むライセンス契約により利益を得ている、

Bこれらを理由に、発明考案取扱規定により支払われた補償金では

額が不足している、と主張して、

特許法35条3項に基づき、

相当の対価の額として2億円の支払いをYに求めた。


 Xの主張に対して、

Yは、職務発明にかかる相当の対価の額は勤務規則等における事前の

定めに従って処理することができるとして

、同規定による既払い額は相当の対価と認められると反論している。



 一審(東京地判平11.4.16 労判812‐34) は、発明者である従業員が、

使用者の一方的に定めた発明考案取扱規定の相当の対価額に拘束される

理由はなく、従業員は、報償額が特許法の定める相当の対価額に満たないときは、

会社に対して不足額を請求することができるとしてXの請求を一部認めた



これに対し、XとYの双方が控訴し、

二審(東京高判平13.5.22  労判812‐21) は

一審判決を支持し、双方の控訴を棄却した。


そこでYが上告した。

(2)判決の内容


労働者側勝訴


 特許法35条によれば、

使用者は、職務発明にかかる特許権などの受け継ぎについて、

勤務規則などにより定めて、対価を支払うこと、その額や支払時期を

定めることができる。

しかし、職務発明がなされる前や、特許を受ける権利の内容や価値が

具体化する前に、予め確定的な額を定めることはできない。

予め定めた額が特許法35条3項4項の相当の対価の一部に当たることは

もちろんだが、このことが直ちに相当の対価の全部であると考えることは

できず、対価の額が4項の趣旨・内容に当てはまった場合に初めて、

3項4項にいう相当の対価にあたると言える。

したがって、職務発明をした労働者は、予め定められていた対価の額が

4項の対価の額に満たない時には、3項の規定に基づいて不足額に

相当する対価の支払を求めることができる。


 なおこの判決は、この発明からYが受ける利益額を5,000 万円

Yの貢献度を95%とし、その上で、X がこの職務発明から受けるべき

相当の対価の額250万円から、すでに支払った額21万1,000 円

差し引いた残額、228万9,000 円を支払額であると判断している。

(なお、特許権実施料収入額66億円

⇒会社が受けるべき利益5,000 万円

⇒うち5%の250万円が相当の対価の額)




3.解 説

(1)職務発明の意義


 労働者の発明が「職務発明」となるのは、

@労働者の職務の性質からみて使用者の業務の範囲として発明が行われ、

A発明に至る行為が労働者の現在または過去の職務に属する場合である

(特許法35条1項(以下、「法」) 。

この条件に当てはまらない発明は、使用者の業務に属さない

「自由発明」か、使用者の業務に属するが上の条件を満たさない

「業務発明」とされ、法的効果が職務発明と異なる。



(2)職務発明の法的効果


 ある発明が職務発明であれば、次の法的効果が生じる。


 @使用者は、労働者の職務発明にかかる特許権を実施する権利を

取得する(法35条1項)。この場合、使用者は無償で特許を実施する

ことができる。また、労働者への対価の支払いは不要である

(法35条3項「従業者等は、契約、勤務規則その他の定により、

職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を

承継させ、又は使用者等のため専用実施権を設定したときは、相当の

対価の支払いを受ける権利を有する。」という規定の反対解釈)。



 A使用者は、勤務規則等により、予め特許権等の権利を取得できる

(法35条2項「従業者等がした発明については、その発明が職務発明

である場合を除き(「自由発明」「業務発明」の場合)、あらかじめ

使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ、

又は使用者等のため専用実施権を設定することを定めた契約、

勤務規則その他の定の条項は、無効とする。」という規定の反対解釈)。



 B勤務規則等に基づいて使用者が特許権を受け継がせるなどした場合、

使用者は発明者である労働者に相当の対価を支払わなければならない

(法35条3項)。もっとも、その対価額は、その発明によって使用者が

受けた利益と発明に対する使用者の貢献度が考慮される

(特許法35条4項「前項(前掲35条3項)の対価の額は、その発明により

使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用者等が

貢献した程度を考慮して定めなければならない。」)。



(3)発明者である労働者による対価請求


 法35条3項は、この規定に反する取り決めを認めないという趣旨の

定めなので、職務発明に対する相当の対価の額が予め定められていても、

同条項が想定する額に満たない額しか支払われなかった場合、発明者で

ある労働者は不足分を請求できる(モデル裁判例)。


 相当の対価の額は、職務発明から使用者が受ける利益と使用者の

貢献度を考慮して算定される(法105条の3「特許権又は専用実施権の

侵害に係る訴訟において、損害が生じたことが認められる場合において、

損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上

極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの

結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。」)。


 しかし、その算定は、前提となる特許権から使用者が得た利益の額や

発明の技術的個性など、認定判断の難しい側面があるが、おおむね以下の

ような裁判例が参考となろう。


 @日立金属(発明対価請求)事件(東京地判平15.8.29  労判863‐35)


 特許権実施料収入額1億2,324万8,637円⇒うち会社の貢献度は90%で

会社が受けるべき利益の額は1億1,092万3,773円

⇒残り10%の1,232万5,000 円が相当の対価の額


 A日立製作所(職務発明補償金請求)事件(東京高判平16.1.29  労判869‐15)


 主たる発明について会社の受けるべき利益の額は11億7,974万5,000 円

⇒うち会社の貢献度は80%で残りの20%が発明者の貢献度

⇒ うち30%が共同発明者の貢献度で残り70%が原告労働者の貢献度

⇒相当の対価の額は1億6,516万4,300円


 B日亜化学工業(終局判決)事件(東京地判平16.1.30  労判870‐10)


 売上高合計額1兆2,086億0127万円

⇒うち特許権の実施を認めていれば得られたであろう

売上高は2分の1の6,043億63万円

⇒ うち会社の利益として得られる実施料率は少なくとも20%で1,208億6,012万円

⇒貧弱な研究環境の中で労働者個人の能力と発想によって

世界的発明をしたという稀な事例ゆえ労働者の貢献度は50%

⇒相当の対価の額は604億3,006万円(この事件では

そのうち一部のみを請求したので実際の支払額は200億円

なお、高等裁判所で8億4,000万円余和解


 C味の素(特許権)事件(東京地判平16.2.24  労判871‐35)


 会社が受けるべき利益の額は79億7,400万円

⇒会社の貢献度は95%で残りの5%が発明者の貢献

⇒ うち共同発明者6人における原告労働者の貢献度は50%

⇒ 原告労働者が受けるべき相当の対価の額は1億9,935万円








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