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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                厚生

               企業が労働者にかける生命保険



1.ポイント

(1)企業の福利厚生制度の一つに、

企業が保険契約者及び保険金受取人となり、

従業員を被保険者とする保険契約

生命保険会社(保険者)と締結する団体定期保険というものがある

(いわゆる「他人の生命の保険契約」に当たるものである)。


(2)使用者が保険金の受取人となっている団体定期保険Aグループ保険)に

おいては、従業員の死亡等により使用者が多額の保険金を受領しながら、

遺族にはその保険金を支払わず、又は、わずかな金額しか支払っていない等

問題が発生している。


2.モデル裁判例


  住友軽金属工業(団体定期保険第2)事件 名古屋地判平13.3.6 労判808‐30

3.解 説

(1)団体定期保険及びその目的


 団体定期保険(Aグループ保険) とは、企業が保険契約者となり、従業員を一括して

被保険者とし、保険料を全額負担し、従業員の死亡など契約所定の事由が生じた場合

には保険金を受け取るというものである。

他方、団体定期保険(Bグループ保険)とは、従業員がそれぞれ保険に加入するか

否かを決定し、企業が加入従業員分を一括して保険契約を締結するものであり、

保険料従業員各自の給与から天引きされるが、保険金自体従業員もしくは

その遺族受け取るというものである。

このうち前者のAグループ保険は、いわゆる他人の生命の保険契約(商法674条)で

あるが、犯罪誘発の危険性や人格権侵害の危険性、使用者による不労の利得の

可能性などがあり、実際にも死亡した従業員の遺族には全く保険金が支払われて

いないなどの事態
が生じ、社会的にも大きな問題となってきた。

平成8年11月以降、総合福祉団体定期保険(主契約及びヒューマンバリュー特約等

から成る) なるものが考案され、実務上はかなり改善されてきているとはいうものの、

この面での法整備はなされておらず課題はなお残されている。


 団体定期保険は、本来、従業員の死亡や高度障害の事態に備えた福利厚生

ないし遺族の生活保障の措置として、障害給付金、退職金及び弔慰金等の支払を

目的とした制度であり、それゆえに支払保険料についても損金処理が許されるなど

税務上の特典も認められており、保険料も個別の保険契約よりも割安になるなど

の特質を有しているのであって、企業の損失の補填.や従業員に対する求償権の

賠償を目的として流用すべき制度ではない




住友レーザー事件 大阪地判平12.12.22 労判803‐85 (要旨))。

(2)遺族に対する保険金の支払い


 企業が従業員や取締役を被保険者として生命保険に加入し、その従業員の死亡等に

より保険金を受領したとき、その保険金を遺族へ引き渡すのを拒む場合がある。

平成7年頃から遺族が企業に対し保険金の支払い等を求めて裁判を起こすケースが

目立ちだした。裁判例によると、遺族の請求が認められるか否か、及び、遺族に

支払われるべき保険金の金額に関しては、被保険者(従業員)の同意を前提に

(商法674条1項)、各保険契約における付保規定の趣旨目的、保険契約締結の

経緯、被保険者の勤続年数・給与額・企業への貢献度、保険料の負担関係、

受領した保険金の総額及び税制上の取扱い、その企業における退職金・弔慰金

規程の有無・内容など、諸般の事情を総合的に考慮し、社会通念や公平の観点から

判断するという枠組みが定着してきている。


 遺族の保険金に関する請求が認められた裁判例では、団体定期保険契約を締結

する際の労働者の同意、及び、その保険契約の趣旨目的等により、使用者が保険金を

受領した場合、遺族に対しその全部又は相当部分を退職金・弔慰金等として支払う旨の

合意又は黙示の合意があったものと推定ないしは判断されている。例えば、

東映視覚事件
( 青森地弘前支判平8.4.26 労判703‐65)、個人保険に関する

パリス観光事件
(広島高判平10.12.14 労判758‐50)、

秋田運輸事件
(名古屋高判平11.5.31労判764‐20)、及び、

住友軽金属工業(団体定期保険第1)事件(名古屋地判平13.2.5労判808‐62)

等がある。他方、保険金支払の合意等が認められないとして遺族側の請求が棄却

された裁判例に、

祥風会事件
( 浦和地判平10.2.20 労判787‐76) 及び成和化成事件(東京

地判平11.2.26 労判767‐89(要旨))等がある。


 なお、倉持(総合福祉団体生命保険) 事件( 東京地判平14.10.21 労判842‐68)

では、団体生命保険についてはヒューマンバリュー特約が付されていなかったことより、

役員死亡保険金の全額を遺族に支払うよう命じられたが、生命保険(事業保険)に

ついては遺族への引渡合意等は存在していないとして、遺族の請求が棄却されている。



(3)その他


 モデル裁判例に関してはその後、控訴審判決(名古屋高判平14.4.24 労判829‐38)

が出されているが、控訴審も第一審の判断をほぼ是認している。モデル裁判例は、

「第三者のためにする契約」という構成を採り、遺族の請求を認めた点に特徴がある。

本稿では省略したが、この事案は、被保険者の同意の態様や性格、保険金の使途に

関する問題など、その他様々な点にも言及しており、団体定期保険契約の問題を

考察していくうえで大いに参考となる。


 なお、団体交通事故傷害保険に関する最近の事案である

御船運輸事件
(大阪高判平15.11.27 労判865‐13)も参考となろう。









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