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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ




                                                 労災補償・過労自殺

1.ポイント

(1)労働者が

過重な業務等により精神障害に罹患して自殺するに至った場合

過労自殺)、

その労働者の遺族が業務上の災害として

労働基準法又は労災保険法に基づく労災補償

又は労災保険給付を求めたり、

あるいは、

使用者に対して損害賠償を請求したりできるのかが問題となる。




(2)過労自殺の業務上・外認定について、

一般には、自殺した労働者が従事していた業務自殺との間

相当因果関係が存するか否か、

より厳密に言えば、

業務と精神障害の発病との間、及び、その発病と自殺との間に

それぞれ相当因果関係が存在するか否かが

判断の基準となる。

また、損害賠償請求の認否についても、

この相当因果関係が存することを前提に、

その他の要件を満たしているかどうかが判断基準となる。





2.モデル裁判例



  電通事件 最二小判平12.3.24 民集54‐3‐1155、労判779‐13

(1)事件のあらまし


 大手広告代理店である使用者Yに勤務していた労働者A

(大学卒の新入社員) は、長時間に及ぶ時間外労働を恒常的に

行っていて、うつ病に罹患し、入社約1 年5ヵ月後に自殺した。

第一審原告であるAの両親Xらは、Aの自殺はYにより長時間労働を

強いられた結果であるとして、Yに対し、民法415条又は709条に基づき

約2億2,260万円の損害賠償を請求した。

第一審(東京地判平8.3.28 労判692‐13) 及び

原審(東京高判平9.9.26 労判724‐13) 判決はともに、

Aの長時間労働とうつ病、及び、うつ病とAの自殺による死亡との間の

相当因果関係を認めた。また、Y側の過失の有無につき、Yの履行補助者

(Aの上司ら) による安全配慮義務違反の存在を肯定した。

第一審はYに約1億2,600万円の損害賠償の支払いを命じたが、

原審は過失相殺を行い、損害額の7割をYに負担させるのが相当と

して減額した(約8,910万円)。Y、Xらともに上告。



(2)判決の内容


遺族側勝訴(なお、原審の過失相殺判断における遺族側敗訴部分に

ついても破棄差戻し)



 使用者は「業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して

労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」。

それゆえ、使用者の履行補助者である上司等は、このような注意義務の

内容に従って労働者に対し業務上の指揮監督権限を行使するべきである。

原審は、Aの常日頃からの長時間にわたる残業実態、疲労の蓄積に伴う

健康状態の悪化、これに対しAの上司らが何らの措置も採っていないこと、

及び、うつ病に関する医学的知見を考慮に入れている。そのうえで、Aの業務

遂行とそのうつ病罹患による自殺との間には相当因果関係が存在するとし、

Aの上司らがAの健康状態の悪化等を認識しながら、その負担軽減措置を

採らなかったことにつき過失があったとして、Yの民法715条に基づく損害賠償

責任を肯定した。このような原審の判断は正当であり是認できる。



3.解 説



(1)過労自殺等の業務上・外認定


 過労自殺とは、労働者が日々の長時間労働や業務上の精神的負荷

(ストレス)等によりうつ病などの心因性精神障害を発病し、その後自殺

するに至ること等をいう。労働者が過労自殺した場合、その遺族が労災

認定を求めたり、使用者に対して損害賠償を請求したりすることがあるが、

このような認定や請求が認められるかどうかが問題となる。そもそも、自殺は、

本人の自由意思に基づいて行われると考えられることにより、通常は労災

保険法12条の2の2第1項にいう「労働者の故意による死亡」に当たり、労災

保険給付の支給対象とはなしえないからである。加えて、過労自殺の業務上・

外認定は、脳・心臓疾患の場合に個々の労働者の素因や基礎疾患等が介在

してくるため困難を極めるのと同様、労働者個人の事情や要因等も影響を与える

ことから容易ではない。


 現在、この問題については旧労働省により、「心理的負荷による精神障害等に

係る業務上外の判断指針について」( 平11・9 ・14基発544号) 及び「精神障害等に

よる自殺の取り扱いについて」( 平11・9 ・14基発545号) という二つの行政通達が

出されている。これは「心神喪失の状態」を自殺の業務上認定の要件としてきた

従来の行政解釈の取扱いを大きく改め、その要件を緩和している。この新しい

行政解釈は、自殺願望が現れる可能性の高い一定の精神障害を定め、業務に

よる心理的負荷によってその精神障害を発病したと認められる者が自殺した場合、

精神障害によって正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、又は自殺行為を

思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたものと

推定し、原則として業務起因性を認めることとしている。すなわち、このような場合には

自殺を労働者の「故意」によるものとは考えないで、業務上のものと認定し、保険給付を

行うということである。また、損害賠償請求の認否においても、労災認定の場合と

同様に、業務と自殺との間の相当因果関係の存否が重要な判断基準となってくる。

なお、厚生労働省は、業務による心理的負荷を原因とする精神障害の後遺障害に

係る請求の増加を予想して、平成15年に「神経系統の機能又は精神の障害に

関する障害等級認定基準について」(平15・8・8基発0808002号)を出している。





(2)過労自殺等についての使用者の責任



 モデル裁判例は、過酷な勤務条件による過労の蓄積(業務上の過重負担)、

うつ病の発症、自殺の間にそれぞれ相当因果関係を肯定し、使用者の損害賠償

責任を認めた初めての最高裁判決として大きな意義を有している。労働者Aの

常軌を逸した長時間労働を認定したうえで、Aの自殺を業務上のものであると

判断し、さらに、使用者YがAの負担軽減措置等を採らなかったことから、安全配慮

義務の不履行(過失) を認め、Yの民法715条(不法行為における使用者責任) に

基づく損害賠償責任を肯定している。Aは新入社員にもかかわらず異常なまでの


長時間労働が常態化しており、それに伴う疲労の蓄積等を原因にうつ病に罹り、

その状態が深まったなかで突発的に自殺したわけで、これらの事実認定を前提と

するかぎり、Yの責任を認めた判決は妥当なものといえよう。


 過労自殺などが問題となる裁判例には、まず、その遺族が使用者の安全配慮

義務違反等に基づき損害賠償請求を行う場合がある。例えば、川崎製鉄(水島

製鉄所) 事件

(岡山地倉敷支判平10.2.23 労判733‐13)、

オタフクソース事件(広島地判平12.5.18 労判783‐15)及び

三洋電機サービス事件
(東京高判平14.7.23 労判852‐73)等がある。

次に、労災認定を求める場合(行政訴訟)として、

大町労基署長(サンコー)事件
( 長野地判平11.3.12 労判764‐43)、

豊田労基署長(トヨタ自動車)事件(名古屋高判平15.7.8 労判856‐14)及び

地公災基金神戸市支部長(長田消防署)事件(大阪高判平15.12.11 労判869‐59)等がある。



(3)過失相殺


 なお、モデル裁判例の原審は、Yの賠償すべき額の決定に当たり、

民法722条2項を適用又は類推適用して、弁護士費用を除く損害額のうち

3割を減じる過失相殺を行っている。しかし、最高裁は、「ある業務に従事する

特定の労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして

通常想定される範囲を外れるものでない」場合には、その労働者の性格及び

これに基づく業務遂行の態様等を、心因的要因として斟酌することはできないと

一般論として述べている。そしてこの事案において、原審が、労働者の性格及び

これに基づく業務遂行の態様等、並びに、Aと同居していたXらの落ち度(Aの勤務

状況を改善する具体的措置を採らなかったこと)を斟酌した点で、法令の解釈適用を

誤った違法があると判断している。








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