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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                              労災補償・脳・心臓疾患(含む過労死)



1.ポイント



(1)「業務上の疾病」の業務起因性を判断する場合、

特定の職業性疾病例示疾病とも呼ぶ)に関しては、

被災労働者が特定の業務に従事していて、

かつ、

特定の職業病に罹った事実があれば、

そのことにより業務起因性が推定される。



(2)脳・心臓疾患(脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、心筋梗塞など、

さらに(過労死も含む)に

関しては、

これらの疾病の発症には

被災労働者の素因・基礎疾患生活習慣等の影響も大きく、

その業務起因性の判断は容易ではない




(3)「業務上の疾病」は、

労基法施行規則によって定められている(35条、別表1の2)。

それは、

@災害性疾病(1号「業務上の負傷に起因する疾病」)、

A例示疾病(2‐7号、

B大臣指定疾病(8号)および

C包括規定疾病(9号「その他業務に起因することの明らかな疾病」)の

四つに大別できる。



(4)「脳・心臓疾患」は、

業務上の疾病の中で例示された職業病等には該当しないため、

9号の包括規定疾病に当たるか否かで、

労災補償の対象とされるかどうかが決められる。

脳・心臓疾患における業務起因性の判断基準に関しては、

一定の行政解釈が示されている。



(5)平成13年通達は、業務による明らかな過重負荷を受けた

ことにより脳・心臓疾患を発症したことを業務起因性の認定要件としている。




2.モデル裁判例


  横浜南労基署長(東京海上横浜支店)事件 最一小判平12.7.17 労判785‐6





(1)事件のあらまし
 支店長付きの運転手として自動車運転業務に従事していた

第一審原告X( 当時54歳) は、昭和59年5月11日早朝、運行前点検を

した後、支店長を出迎えにいくため運転中にくも膜下出血を発症した。

Xは休業することとなり、労災保険の休業補償の請求をしたが、

第一審被告である労基署長Yは、業務起因性を欠くことを理由に

不支給の決定をした。Xはこの処分の取消しを求め提訴した。

第一審(横浜地判平5.3.23 労判628‐44) ではXが勝訴してYが

控訴。原審(東京高判平7.5.30 労判683‐73) は、「Xの・・・ 疾病は、

加齢とともに自然増悪した脳動脈瘤破裂が、たまたまXが従事していた・・・

業務の遂行過程において発症したもの」であり、業務起因性は認められない



として一審判決を取消した。これに対しXが上告。

(2)判決の内容


労働者側勝訴(原判決破棄)


 Xの業務は、その性質上精神的緊張を伴うものであったうえ、

業務のあり様も不規則でかつ早朝から深夜に及ぶなど拘束時間が

極めて長く、労働密度も決して低くはなかった。Xは本件くも膜下出血

発症に至るまで相当長期にわたってこのような業務に従事してきた。

特に、その発症の約半年前からは1日平均の時間外労働が7時間を

上回っており、このような勤務の継続がXに慢性的な疲労をもたらしていた。

しかも、その発症の前月及び発症直前10日間には時間外労働に加えて

1日平均の走行距離も長く、また、発症前日のXの睡眠時間はわずか

3時間半程度であった。Xには、くも膜下出血発症の基礎となりうる疾患

(脳動脈瘤)が存した可能性が高いものの、治療の必要がない程度のもの

であり、他に健康に悪影響を及ぼすような嗜好も特には認められなかった。

これらのことを踏まえると、「Xが[その] 発症前に従事した業務による過重な

精神的、身体的負荷がXの[有していた] 基礎疾患をその自然の経過を超えて

増悪させ、[その]発症に至ったものとみるのが相当で」あり、「その間に相当因果


関係の存在を肯定することができる」。



3.解 説

(1)業務上疾病における業務上・外認定


 業務上疾病、特にいわゆる過労死までも含めた脳・心臓疾患に

おいては、被災労働者の素因・基礎疾患や生活習慣等の影響も大きい

ため、業務上外認定を行うこと、すなわち実質的には業務起因性の

有無を判断することは容易ではない。このため法律により、一定の疾病が

職業病として定められ(例えば、じん肺や白ろう病など)、特定の業務に従事

していた者がそのような疾病を発症した場合には業務起因性を推定することと

された(労基法施行規則35条別表1の2)。しかし、脳・心臓疾患等(脳血管疾患や

虚血性心疾患等) は、職業病として規定されていないため、「その他業務に起因

することの明らかな疾病」(同別表9号)に該当するか否かで、その業務上・外認定が

なされる。



(2)脳・心臓疾患等に関する行政通達


 行政機関がこのような認定を行いやすくするため、これまでに一連の行政通達

(認定基準)が出されている。このうち平成13年通達(平成13.12.12基発1063号)は

平成7年に出された「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。) の

認定基準について」(平成7.2.1基発38号、ただし平成8.1.22基発30号による追加あり)

と題する通達を改正したものである。この改正は、長期間にわたる過労の蓄積を過重

負荷として認めた点で大きな意義を有している。また、業務の過重性を判断するに当たり、

労働時間の評価の目安を示し、さらに、労働時間、不規則な勤務、作業環境、及び、

精神的緊張を伴う業務などの具体的負荷要因等を示した点で特徴がある。もっとも、

これらの改正は先行する裁判例・判例および学説を追認する形で行われたものである。


 モデル裁判例は、業務の過重性判断においてXの勤務形態や実際の時間外労働

時間などを重視し、くも膜下出血発症に至るまでの相当長期間にわたる慢性的な

疲労を考慮に入れたうえで、Xの過重な精神的、身体的負荷が基礎疾患をその

自然的経過を超えて増悪させ発症に至ったものと判断し、相当因果関係を認めている。

長期にわたる慢性的な疲労(過重業務) を認めた最高裁判決として大きな意義を有し、

また、平成13年通達への改正に影響を与えた重要な判決でもある。




(3)脳・心臓疾患等に関するその他の問題点、及び、最近の裁判例 

業務の過重性の判断基準(対象者) に関しては、平成13年通達では、

「当該労働者と同程度の年齢、経験等を有し、基礎疾患を有していたとしても、

日常業務を支障なく遂行できる者」と改訂されている。学説・裁判例上は、

当該労働者本人を基準にするべきであるとする説などもあるが、見解が

分かれている。


 脳・心臓疾患等に関する最近の裁判例としては、国内外における連続出張後の

急性心筋梗塞発症による死亡のケースにつき

中央労基署長(三井東圧化学)事件
(東京高判平14.3.26 労判828‐51)、

及び、脳動脈瘤破裂によりくも膜下出血を発症して死亡したケースにつき

栃木労基署長(レンゴー)事件
( 宇都宮地判平15.8.28 労判861‐27、判時1849‐113)

等がある。その他、

名古屋南労基署長(矢作電設)事件
(名古屋高判平8.11.26 労判707‐27)、

大館労基署長(四戸電気工事店)事件
(最三小判平9.4.25 労判722‐13)及び

西宮労基署長(大阪淡路交通)事件
(最一小判平12.7.17 労判786‐14)等が

参考となろう。



 なお、過労死もしくは過労自殺につき使用者の安全配慮義務違反等を

認めたうえで損害賠償請求を認容した裁判例としては、

電通事件
( 最二小判平12.3.24 民集54‐3‐1155、労判779‐13、(64)

[労災補償]参照)、

システムコンサルタント事件
(最二小決平12.10.13 労判791‐6)、

関西医科大学研修医(過労死損害賠償)事件(大阪地判平14.2.25 労判827‐133)、

及び、

榎並工務店(脳梗塞死損害賠償)事件
(大阪高判平15.5.29 労判858‐93)等

がある。







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