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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                               労災補償・損害賠償



1.ポイント


(1)労働者が労働災害により被った損害カバーする制度としては、

労働基準法および労災保険法に基づく労災補償制度とともに、

被災労働者又はその遺族が使用者に対して行う損害賠償制度

労災民事訴訟制度)が併存している。



(2)労災民事訴訟制度では、

被災労働者又はその遺族は、

精神的損害慰謝料)や逸失利益などを含む

全損害の賠償を求めることができる。



(3)労災民事訴訟の方法として、

かつては使用者等の不法行為責任

問う形のものが主流であったが、

現在は

使用者等の債務不履行責任安全配慮義務違反)を問う形のものが


中心となっている。




2.モデル裁判例



  陸上自衛隊八戸車両整備工場事件 最三小判昭50.2.25  民集29‐2‐143 、労判222‐13

(1)事件のあらまし


 自衛隊員Aは作業中に後進してきた同僚自衛隊員Bの運転する

大型自動車に轢かれ即死した。

Aの両親である第一審原告Xらは、国家公務員災害補償法に基づく

補償金を支給されたが、その額には不満であった。

その後、XらはAの使用者である第一審被告Y( 国) に対して

自賠法3条に基づき損害賠償を請求した。

第一審(東京地判昭46.10.30 民集29‐2‐160、労判222‐13) は、

Yの消滅時効の援用を認めて、Xらの請求を棄却した。

Xらは、Yの安全保護義務の不履行を追加主張し控訴したが、

控訴審(東京高判昭48.1.31 民集29‐2‐165、労判222‐22) は、

この債務不履行に基づく損害賠償請求を、

Aが特別権力関係に基づきYのために服務していたことを理由に、

棄却した。

Xらが上告。



(2)判決の内容


遺族側勝訴(破棄差戻し)


 国は、公務員に対し、公務遂行のために必要となる施設や器具等の

設置管理にあたって、又は、公務員が国あるいは上司の指示のもとに

遂行する公務の管理にあたって、

「公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務

(以下『安全配慮義務』という。)を負っているもの」と考えられる。


 このような「安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な

社会的接触の関係に入った当事者間において、

その法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が

相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきもの」

であり、公務員に関しても、職務専念義務および法令・上司の命令に

従うべき義務を誠実に履行するためには、

国が公務員に対し安全配慮義務を負い、その義務を尽くすことが必要

不可欠である。


3.解 説

(1)労災民事訴訟


 労働災害が発生した場合、被災労働者又はその遺族は労災補償を

受けることができるが、同時に使用者に対して損害賠償請求を行うことも

可能である。労災補償制度による補償には、精神的損害(慰謝料)や

逸失利益などが含まれておらず、これらも含め実損害の全ての回復を

図るためには、被災労働者等は労災民事訴訟を提起しなければならない。



従来は、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条、715条[ 使用者責任]、

717条[ 土地工作物責任])が中心であったが、被災労働者等が使用者等の

故意・過失を立証しなければならず、それは非常に困難を極めるものであった。

1970年代に入って、下級審裁判例において、

労働契約等に基づく使用者の安全保護義務ないしは安全保障義務の概念が

認められるに至り、債務不履行責任(民法415条)に基づく損害賠償請求が

可能となり始めた。この方法によれば、裁判における立証責任が使用者側に

転換される(使用者側に安全保護義務違反がなかったこと等の立証責任を

負わせる) 点で、また、時効期間が不法行為に比べて長く、10年である

(同167条1項)という点でも、被災労働者等にとってはより有利であった。

ただし、後に最高裁は、「安全配慮義務の内容を特定し、かつ、同義務違反に

該当する事実を主張・立証する責任は」被災労働者等にある

航空自衛隊航空救難郡芦屋分遣隊事件 最二小判昭56.2.16 民集35‐1‐56)

と述べたこと等から、債務不履行に基づく責任追及を行っても挙証責任の

転換の意義はあまりないとの見解も存する。





(2)安全配慮義務


 モデル裁判例は、国と公務員との間の法律関係についてではあるが、

使用者(国)が安全配慮義務を負うことを明言した初めての

最高裁判決として重要な意義を有する。この判決は、判旨で述べたように、

使用者の安全配慮義務を認め、その義務の妥当範囲と根拠とを明確に

論じたうえで、このような安全配慮義務の具体的内容については、

「公務員の職種、地位及び安全配慮義務が問題となる[それぞれの]

具体的状況等によって異なるべきもの」と捉えている。この安全配慮義務に

ついては、その後、民間企業における労働契約関係についても認められるに

至った

川義事件 最三小判昭59.4.10 民集38‐6‐557、労判429‐12)。

また、元請企業と下請企業の従業員間においても認められている

鹿島建設・大石塗装事件 最一小判昭55.12.18 民集34‐7‐888)。



 安全配慮義務の内容(特にその範囲と程度)について、

判例上は、結果債務としてではなく、労働者の業務遂行が安全に

行われるよう、労災事故等の発生を防止するために、使用者が支配

管理する人的・物的な環境を整える義務と把握する立場が採られている

陸上自衛隊三三一会計隊事件 最二小判昭58.5.27 民集37‐4‐477等)。

なお、同義務の内容をより具体的に、

@「物的環境を整備する義務」、

A「人的配備を適切に行う義務」、

B「安全教育・適切な業務指示を行う義務」、及び、

?「安全衛生法令を実行する義務」というように類型化する

見解もある(保原・山口・西村編『労災保険・安全衛生のすべて』298頁〔中嶋士元也執筆部分〕

( 有斐閣、平成10年))。



(3)損害賠償の認定


 労災民事訴訟において被災労働者等が損害賠償請求権が

認められるためには、その労働者に生じた負傷・疾病等とその

労働者が従事していた業務との間に相当因果関係[注: 業務と負傷等

との間に認められる相当な程度の原因と結果の関係をいい、業務が

なければ負傷等もなかったという条件関係とは異なるものである]が

存することが必要であり、さらに、使用者による安全配慮義務違反または

過失の存在など、債務不履行責任ないしは不法行為責任を問うための

その他の要件を充足している必要がある。この相当因果関係は、労災


保険給付が支給されるために必要とされる「業務起因性」という概念と

類似している。そのため、特に疾病等が問題となる場合には相当因果

関係の存否を判断するのが非常に困難となるが、相当因果関係を肯定

したうえで、健康注意義務違反等により使用者の不法行為法上の損害

賠償責任を認めた裁判例として

電通事件(最二小判平12.3.24 民集54‐3‐1155、労判779‐13、(64)

[労災補償]参照)等がある。




 その他、使用者の安全配慮義務違反等に基づく損害賠償請求を認めた

最近の裁判例に、


セイシン企業事件
( 東京高判平13.3.29 労判831‐78) 及び

宮崎刑務所職員(損害賠償)事件
(宮崎地判平14.4.18 労判840‐79)等があり、

また、シルバー人材センターに関する事案で、「健康保護義務」という文言を

用いてはいるが、綾瀬市シルバー人材センター(I 工業所) 事件


( 横浜地判平15.5.13 労判850‐12) 等がある。







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