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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                                 労災補償・通勤災害



1.ポイント



(1)現在、労働者が通勤の途上で災害を被った場合、

通勤災害として労災保険法に基づく保険給付がなされうる

通勤災害保護制度)。




(2)通勤災害における給付内容は、

業務災害に準じたものとなっている。

ただし、通勤災害は業務外の災害であるため、

休業給付につき最初の3日間の待期中における

使用者の補償義務はなく

また、労基法19条に基づ

解雇制限の適用がないなどの相違がある。



(3)労災保険法上、「労働者の通勤による負傷、

通勤災害」とは、疾病障害又は死亡」(7条1項2号)のことをいう。



(4)労働者の通勤災害が認定されるためには、

通勤に該当する行為の存在

(通勤遂行性、および、当該通勤により災害が発生したこと

(通勤起因性)が必要となる。



2.モデル裁判例


  札幌中央労基署長(札幌市農業センター)事件 札幌高判平元.5.8 労判541‐27

(1)事件のあらまし


 女性労働者Aは、B市農業センター臨時的任用職員として勤務していたが、

就業終了後徒歩で帰宅途中、国道との交差点に至った折、

食の材料等を購入するため、自宅とは反対方向約140メートルの地点

ある商店へ向かっている最中、同交差点から約40メートルの地点で

自動車に追突されて即死した。

Aの夫および子(3名、いずれも18歳未満) である第一審原告Xらは、

本件事故が労災保険法上の通勤災害に該当するとして労災保険給付

請求したが、

第一審被告Y労基署長は合理的経路を逸脱中の事故であるとして

不支給決定をした。

その後の審査請求および再審査請求ともに棄却されたため、

Xらは当該処分の取消を求めて訴えを提起したが、

原審(札幌地判昭63.2.12 労判515‐49)も同様の理由で棄却した。

Xらが控訴。



(2)判決の内容


遺族側敗訴(控訴棄却)


 当時の労災保険法7条2項にいう「合理的な経路とは

、労働者の住居と就業の場所との間を往復する場合に一般に労働者が

採ると認められる経路をいう」と解され、同条3項にいう往復経路の逸脱とは

「通勤の途中において就業又は通勤と関係のない目的で[この]

合理的経路をそれること」、また、往復の中断とは「通勤の経路上において

通勤とは関係のない行為をすること」をいう。



 認定事実によれば、Aが食事材料等の購入を目的に就業場所と住居との間の

通常の経路をそれたことは否定できず

そのような行為は「住居と就業の場所との間の往復に通常伴いうる

些細な行為の域を出ており」通勤とはいえない。

そうすると、Aに生じた災害は、同条3項にいう往復の経路を逸脱した間に

生じたものと認めざるをえない。

また、この逸脱がAの日常生活上の必要に基づくことが窺われたとしても、

同条3項の文理上、労災保険法上の通勤には該当しない

したがって、このような災害は通勤災害には該当しない。




3.解 説

(1)通勤災害保護制度

 労働者が通勤の途上で災害を被った場合、業務災害が認定され

労災補償が行われるべきであるとの社会的要請が昭和40年頃から

強くなり始めた。労働者が通勤中は使用者の直接的な支配管理下に

あるとはいえず、したがって、通勤災害を業務災害の一種として捉える

ことはできないが、他方、高度経済成長期以降のわが国の通勤実態等、

及び、通勤が労働者にとって労務提供に不可欠なものであること等を考えて

みた場合、社会的見地からもはやその途上における災害を放置しておくことも

できなくなった。このため昭和48年に労災保険法が改正され、業務災害とは

全く別枠で、通勤災害も保険給付の対象とされることになった(これを通勤

災害保護制度という)。ただし、通勤途上であっても業務を行っていると

考えられる場合の災害については、業務上の災害になると解されることから

十和田労基署長事件 最三小判昭59.5.29 労判431‐52等)、通勤災害には該当しない。



(2)通勤災害の認定


 通勤災害の認定においては、通勤遂行性と通勤起因性の有無が

問題とされる。まず、通勤遂行性の有無は、労災保険法7条2項に

定められた「通勤」の定義に照らして判断される。特に、?就業関連性、

?「住居」・「就業の場所」の意義、?「合理的な経路及び方法」による往復

、?合理的な往復経路の逸脱・中断がないこと(ただし、一定の日常生活上

必要な行為等をやむを得ない事由により行うための最小限度の逸脱・中断が

なされた場合は、当該逸脱・中断後の往復につき通勤とされる)、及び、

?業務の性質を有していないこと、といった各要件の意味内容が重要となってくる。

次に、「通勤起因性」の有無は、通勤と負傷・疾病等との間に相当因果関係があるか

否かで判断される。換言すれば、通勤に内在する危険が現実化したといえるか

どうかで決定される(行政解釈)。




 モデル裁判例では、通勤遂行性の有無、とりわけ合理的な往復経路の逸脱・

中断が争点となった事案を取り上げている。労働者が通勤途上で、例えば、

経路上の売店でタバコや雑誌を購入したり、経路の近くにある公衆便所を利用

したりするなどの「些細な行為」は、逸脱・中断とはされないが、モデル裁判例では、

夕食の材料等を購入するため合理的経路をそれて交差点から自宅と反対方向に

歩んだ行為が、この些細な行為に当たらないと判断されている。女性労働者で

あるAが日常生活上必要とされる夕食材料の購入を目的としていたことを考えると

、この点で若干の疑問なしとはいえないが、この判決のように些細な行為に該当

しないと判断するかぎりは、Aの事故は合理的経路を逸脱している間に起きたもの

であって、通勤災害とは認められないことになろう。




(3)通勤災害に関する裁判例



 通勤災害に関するその他の裁判例として、就業関連性および

「住居・就業の場所」の意義が争点となった

能代労基署長(日動建設)事件
(秋田地判平12.11.10 労判800‐49)がある。

この事件は単身赴任者の週末帰宅型通勤の事案であったが、単身赴任者の

就業の場所と家族の住む自宅との間の往復行為に反復・継続性が

認められれば、自宅を「住居」として取扱うという通達(平7.2.1基発39号) を

前提に、各要件を緩やかに解したうえで通勤災害が認定されている。

また、通勤経路上における往復の中断の存否が、帰宅途上における

飲酒行為の有無との関連で争点となった

立川労基署長(通勤災害)事件
(東京地判平14.8.21 労判840‐94

(要旨))がある。この事件では、通勤経路上において通勤と無関係な

飲酒行為が行われたと認定され、そのことにより往復の中断が存したと

判断され、通勤遂行性が否定されている。さらに、通勤災害が第三者に

よる計画的犯罪によって引き起こされたケースで、通勤がその犯罪にとって

単なる機会を提供したにすぎないことから通勤起因性が否定された

大阪南労基署長(オウム通勤災害)事件
(最二小決平12.12.22 労判798‐5) なども


ある。







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