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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                             労災補償・法定内補償



1.ポイント



(1)わが国では労働者が

労働災害によって被った損害補償する制度として、

@労災補償制度

労基法上の災害補償制度および労災保険法に基づく労災保険制度)と、

A被災労働者等が使用者に対して行う

損害賠償制度労災民事訴訟制度)とがある。

前者の労災補償制度に基づく補償を法定内補償

これに対して

後者の損害賠償制度による補償や使用者による上積補償等を

法定外補償という(なお、「損害賠償」については(62)[労災補償]参照)。



(2)労働者が労災保険給付等を受給するためには、

業務災害ないし通勤災害にあったことが要件となる((61)[労災補償]も参照)。



(3)業務上の負傷・死亡に関して、

@事業場内で業務に従事中の災害については、

業務遂行性が認められ、原則として業務起因性も推定される。

A事業場内にいても業務に従事していない休憩中等の災害については、

業務遂行性は認められるものの、作業環境や企業施設の不備等に

よるものでないかぎり、業務起因性は認められない。

B事業場外であっても業務従事中出張中の災害については、

業務遂行性が認められ、かつ、積極的な私的行為がないかぎり

業務起因性も広く認められる。

なお、業務上の疾病に関しては(63)[労災補償]参照。



2.モデル裁判例


  大分労基署長(大分放送)事件 福岡高判平5.4.28 労判648‐82

(1)事件のあらまし

 第一審原告Xの夫である労働者Aは、

出張先で業務終了後同行者らと飲酒を伴う夕食をとった。

その後、宿泊施設内の階段を歩行中に転倒し、頭部を打撲するなどし、

このことが原因でAは約4週間後に急性硬膜外血腫で死亡した。

Xは、Aの死亡が業務上の理由によるものであるとして、

労災法に基づく療養補償給付等の支給を第一審被告Y労基署長に請求した

が、Yは業務災害に該当しないとして不支給処分をした。

Xは、Yのこの処分を不服として、審査請求、再審査請求をしたが

いずれも棄却されたため、当該処分の取消を求めて訴えを提起した。

原審(大分地判平3.4.2 労判613‐63) では、本

件転倒事故の業務起因性が否定され、Xの請求が棄却されたため、

Xは控訴した。

(2)判決の内容


遺族側勝訴(原判決取消)


 Aらの飲酒行為は、宿泊を伴う出張において通常随伴する行為

いえないことはなく、宿泊中の出張者が使用者に対して負う出張業務全般に

ついての責任を放棄ないし逸脱した態様のものに至っていたとは

認められないことより、業務遂行性は失われておらず

本件事故当時にも業務遂行性はあったと認められる。

そして、本件事故は、Aが業務と全く関連のない私的行為や

恣意的行為あるいは業務遂行から逸脱した行為によって

自ら招いた事故ではなく、業務起因性を否定すべき事実関係はない。

したがって、Aの死亡は労災法上の業務上の事由による死亡に

当たるというべきである。



3.解 説

(1)労災補償制度


 労働災害が発生した場合、労働者は使用者に対して、

不法行為ないしは債務不履行に基づいて損害賠償を請求する

ことにより補償を受けることができる。

ただ、これだけでは労働者の保護に不十分であることにより、

労働基準法および労災保険法に基づく労災補償制度が

設けられている。現在では、戦後間もなく労基法上の災害補償責任を

補完する形で創られた労災保険法上の労災保険制度が発展し、

労災補償の中心的な役割を担っている。この労災保険の給付を受ける

ためには、労働者に生じた負傷・疾病等が「業務上の事由」によること、

又は、「通勤」によることが必要となる(労災法7条1項、なお本項目では

業務災害についてのみ検討していく)。したがって、労災保険の給付内容が

他の社会保険と比べて充実していることをも考えると、業務災害に当たるか

否かを判定する「業務上・外認定」は、被災労働者やその遺族にとって、

受給のいかんを決定する非常に重要な判断となる。




(2)業務上・外認定


 労災保険法でいう「業務上」の概念は、労基法上のものと同様と

考えられているが(労災法12条の8第2項)、労基法にもその定義規定等は

置かれていない。行政解釈や裁判例では、この「業務上」について、

業務遂行性と業務起因性なる概念を用いて説明されており、

業務遂行性とは、労働契約に基づき労働者が使用者の支配・管理下に

あることを、また、業務起因性とは、業務と負傷・疾病等との間に経験則上、

相当因果関係があること(換言すれば、その負傷等が業務に内在または

随伴する危険の現実化したものと評価できること)を意味していると

考えられている。さらに、行政解釈によれば、業務遂行性は業務起因性の

第一次的な判断基準とされている。



 業務上の災害による負傷・死亡に関しては、ポイントで述べたように

三つの場合に分けて考えることができるが、その他に、宴会や社内の

運動会などの行事に参加・出席中に災害を被った場合等が考えられる。

この場合、当該行事等への参加が業務命令によるものであるなど、

企業により強制されているときは別として、一般に業務遂行性は認められない

福井労基署長事件 名古屋高金沢支判昭58.9.21 労民集34‐5 ・6‐809)。

研修旅行参加中の航空機事故による死亡の事案として

多治見労基署長(日東製陶)事件
(岐阜地判平13.11.1 労判818‐17)がある。


 なお、就業中に部下から暴行を受け負傷したケース

(他人の暴行等による災害)につき、業務上と判断した裁判例に

新潟労基署長(中野建設工業)事件(新潟地判平15.7.25 労判858‐170

(要旨))等がある。




(3)出張中の労働災害



 労働災害を被った場合に法定内補償を受けるための重要な要件である

「業務上」の概念を考察するため、モデル裁判例では、

出張中の災害において業務上・外認定が争点となったケースを

取り上げている。出張中については、自宅と出張先との間の往復や

宿泊先での時間も含め、出張過程全般について労働者は使用者の

支配下にあると考えられることより、まず業務遂行性が認められる。

次に、労働者が出張先との往復につき合理的な経路・方法を採っている場合、

積極的な私的行為等を原因とした災害でないかぎりは、一般に業務起因性が

認められる。そして、モデル裁判例のように、出張先で業務終了後に慰労と

懇親の趣旨で行われた飲食行為は、一般に出張に通常伴うものと考えられる

ことから、業務遂行性が肯定される(一審判決でも業務遂行性は認められている)。

したがって、その飲食行為により業務遂行性が中断されたとはいえないことにより、

飲食行為後の転倒事故時においても業務遂行性は認められる。

問題は業務起因性が認められるか否かであるが、原審判決は、

この事故が労働者Aの飲酒による酩酊のために発生したものと捉え

業務起因性を否定した。しかし、モデル裁判例の控訴審判決では、

Aが業務と全く関連のない私的行為や恣意的行為あるいは業務逸脱行為に

より自ら招いた事故ではなく、業務起因性を否定すべき事実関係は存しないと

判断されていることも注意すべきであろう。



 出張中における業務上・外認定が問題となった裁判例として、

鳴門労基署長(松浦商店) 事件( 徳島地判平14.1.25 労判821‐81( 要旨)、

判タ1111‐146) や

立川労基署長(東芝エンジニアリング)事件
(東京地判平11.8.9 労判767‐22)

等がある。

前者事件は、海外(中国)出張中に宿泊先ホテルにおいて、

第三者の加害行為により殺害された(強盗・殺人) ケースであり、

業務起因性の有無が争点となったが、その殺害事件は業務に内在する

危険性が現実化したものと考えられ、業務上死亡した場合に当たると


判断されている。







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