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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                            労務提供と賃金請求権



1.ポイント



(1)労務の提供

労働契約の内容に従って誠実に履行しなければ、

賃金請求権は生じない


(2)労働契約において

職務や業務の内容が特定されていない場合

病気や障害などによりそれまでの業務を完全に遂行できないときは、

それまでと異なる労務の提供およびその申し出を行い、

実際には配置可能な業務がある場合には、

労務の提供があったものとみなし

これを受領しなかった使用者に対する賃金請求権は失われない



2.モデル裁判例


  片山組事件 最一小判平10.4.9 労判736-15

(1)事件のあらまし

 原告Xは昭和45年3月被告Yに雇用され、

建設工事現場における現場監督業務に従事していた。

平成2年夏、Xは、バセドウ病にり患している旨の診断を受け、

以後通院治療を受けながら、平成3年2月まで現場監督業務を続け、

その後、次の現場監督業務が生ずるまでの間、

臨時的、一時的業務として、Yの工務管理部において

図面の作成など事務作業に従事していた。

Xは、平成3年8月から現場監督業務に従事すべき旨の業務命令を受けたが、

病気のため現場作業に従事できないこと、

残業は1時間に限り可能なこと、

日曜日・休日の勤務は不可能であることなどを申し出、

Yの要請に応じて診断書を提出した。

そこで、Yは平成3年9年30日付の指示書で、

Xに対し10月1日から当分の間自宅で病気治療すべき旨の

命令を発した。

これに対して、Xは事務作業を行うことはできるとして

主治医の診断書を提出したが、

現場監督業務の従事しうる旨の記載がないことから、

Yは自宅治療命令を持続した。

その後、平成4年2月5日に現場監督業務に復帰するまで期間中、

YはXを欠勤扱いとし、その間の賃金を支給せず

平成3年12月の賞与も減額した。

そこで、Xは欠勤扱い期間中の賃金と12月賞与の減額分を

Yに請求して提訴した。



(2)判決の内容


労働者側勝訴

 労働者が職種や業務内容を特定しないで労働契約を締結した場合

実際に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が完全には

できないとしても、労働者の能力、経験、地位、企業の規模、業種、

労働者の配置・異動の実情や難易度等に照らして、

その労働者を配置する現実的可能性があると認められる他の業務に

ついて労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、

労働契約に従った労務の提供をしているといえる。

Xは21年以上にわたり現場監督業務に従事してきたが、

労働契約上その職種や業務内容が現場監督に限定されていたとは

認定されていないし、Xは事務作業に従事することができ、本にも

事務作業をすることを申し出ていた。そうすると、Xが労働契約に

従って労務の提供をしていなかったと断定することはできないので、

Xが配置される現実的可能性のある業務が他にあったかどうかを、

第二審裁判所で再度検討すべきである。

差戻審判決(東京高判平11.4.27労判759-15)は、

Xに遂行可能な事務作業がありこれに配置する現実的可能性が

あったとして賃金請求権を認めた

(最三小決平12.6.27労判784-14の上告不受理により確定)。




3.解 説



(1)労務提供義務


 労務の提供は、労働契約で定められたとおりに誠実に履行しなければならない。

したがって、労働契約の内容がどのように合意されているかが問題となる。

日本の雇用慣行では、職種や業務を特定せずに雇用することが多く、

その意味で、使用者は、労働契約の枠内で労働者が行う労働の種類・場所・

遂行方法などを決定し、必要な指揮監督を行う(指揮命令権)。これに対して、

トラック運転手や航空機の客室乗務員、特定科目の高校教師のように、労働

契約において業務の内容が特定されている場合もある。賃金請求権の有無の

判断にあたって、労務提供義務の内容がどのように合意されているかを考える

必要があるが、日本では、特定のない場合が多いため、判例は「業務の特定」を

認めることには消極的である。



(2)業務内容の特定がある場合



 業務内容がトラック運転手に特定されていた事案

(カントラ事件 大阪高判平14.6.19労判839-47)では、

労働者がそれまでの業務を通常の程度に遂行することができなくなった場合には、

原則として、特定された職種の職務に応じた労務の提供をできない状況にあるものと

解されるが、他の配置可能な業務が存在し、会社の経営上もその業務を担当させる

ことにそれほど問題がないときは、労務の提供ができない状況にあるとはいえないと

判断している。そして、慢性腎不全のため2年近く休職した労働者が復職を申し出た

場合、業務を「加減」した運転者としての業務を遂行できる状況になっていたときから、

労働契約に従った労務の提供を認めることができるとした。業務内容が特定されて

いる場合であっても、労働者の労務遂行能力や会社の規模・経営状況に応じた

配慮が求められる。ただし、賃金について、基本給や住宅手当、下車勤務手当は

認められたが、運転者という業務に伴う手当(乗務手当など)や残業手当などに

ついては、減額または不支給とした。



(3)業務内容の特定がない場合


 モデル裁判例のように、労働契約で職種や業務が特定されていない場合、

病気や障害などによりそれまでの業務を完全に遂行できないときは、それまでと

異なる労務の提供およびその申し出を行い、実際には配置可能な業務がある場合

には、労務の提供があったものとみなすことができる。その結果、労働者は賃金

請求権を失わないことになる。なぜなら、労働者が、事務作業や現場作業など

幅広く配転される可能性があるにもかかわらず、たまたま現場作業に従事していた

期間に病気や障害により業務遂行ができなくなったために、賃金請求権を失う

のでは不合理だからである。また、これは、判例が、使用者に広範な配転命令権を

承認していることとの関係で

(東亜ペイント事件 最二小判昭1.7.14 労判477-6、(35)参照)、

労働者の都合によって使用者は配置可能な範囲で適切な処遇を行うことを

求めているともいえる。




(4)使用者の責任で労働できない場合


 使用者の責任で労働ができない場合には、民法536条2項を適用して、

労働者は賃金請求権を失わない。例えば、一時帰休実施により労働者は

賃金の一部カットとなり不利益を受けるので、就業規則の不利益変更に準じて

一時帰休制の合理性判断を行い、合理性が認められない場合には賃金請求権を

失わない

(池貝事件 横浜地判平12.12.14 労判802-27)。また、合理的理由が

なく解雇された労働者は、解雇以降の賃金について請求権を有する。

ただし、使用者が労務の受領を拒否している場合でも、労働者が客観的に

就労する意思と能力を有していることを証明しなければならず、例えば、就労する意思があることを告げて従事すべき職務について指示を求めるなどしなければならないと

するものがある

(ペンション経営研究所事件 東京地判平9.8.26 労判734-75)。

また、すでに別会社で就労していることから、元の会社での就労意思を喪失して

いるものとして賃金請求権を否定したものもある

(ユニ・フレックス事件 東京地判平10.6.5 労判748-117)。





(5)組合活動


 賃金請求権の有無が問題となったものとして、

これまでは組合活動をめぐるものが中心であった。

つまり、労働者が通常とは異なる態様で労務の提供を行ったり、

使用者の指示に反する行動をとった場合である。

例えば、出張や外勤を拒否し内勤のみに従事する組合活動について、

労働契約に従った労務の適用とはいえず

使用者はあらかじめ受領を拒否したといえるので、

賃金請求権は生じない

(水道機工事件 最一小判昭60.3.7 労判449-49)。

また、新幹線運転士による減速闘争について同様の判断をしたもの

(JR東海事件 東京地判平10.2.26 労判737-51)などがある。







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