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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ
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賃金・減額・変更
1.ポイント
(1)賃金は、労働契約の重要な要素であり、
これを一方的に減額することは許されない。
(2)職能資格制度において、
労働者に対する人事評価を行い、資格等級・号俸を格付けることは、
使用者の人事権の行使であり、
就業規則や労働契約に根拠があるか
労働者の同意がある限り、
原則として自由である。
(3)ただし、こうした使用者の人事権も、
就業規則や労働契約、労働者の同意の趣旨に反して、
客観的に著しく不合理に行使される場合には、
権利の濫用となる。
(4)就業規則を変更することにより、
制度的に賃金を減額することもできるが、
こうした変更には
高度の必要性と内容の合理性がなければならない。
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2.モデル裁判例
イセキ開発工機(賃金減額)事件 東京地判平15.12.12 労判869-35
(1)事件のあらまし
原告Xは被告Yの従業員であり、
平成11年10月時点でのXの賃金は合計35万7300円であった。
同月7日、Yは、
「給与制度改定について」と題する文書によって、
従業員に対して、給与規定(就業規則)を同年11月分から変更することを通達した。
そして、その通達のなかで、変更にあたり各人の給与水準について、
年齢や福利厚生は考慮せず、職責(職務内容)や職務遂行能力・実績・意欲等を
総合的に再評価して、
新基本給の格付けを行うこと、
給与が上がる者も下がる者もでてくること、
下がる者には旧賃金と新賃金の差額の一部について調整金を支給することなどの
内容が記載されていた。
これに対して、Xを含む従業員らは、同月13日までに「通達の内容を理解し、
新給与制度を平成11年11月より実施することに同意する」旨の同意書に署名
押印してYに提出した。
そして、同年11月10日、Xに給与辞令が交付され、
Xは新たな格付けにより、基本給が24万5000円(約31%減)となったが、
基本給の差額分の約45%に相当する調整金が支払われた。
Xは平成14年1月までYに勤務した後、
同月から関連会社に出向し、
同年7月に整理解雇された。
そこで、Xは、Yに対して、変更前の賃金と新制度により減額された賃金
(調整金を含む)との差額および大幅な賃金減額による精神的苦痛に対する
慰謝料の支払を求めて提訴した。
(2)判決の内容
労働者側勝訴
(基本給の差額合計から調整金を差し引いた額と慰謝料50万円の支払が認められた)
職能資格制度において、労働者に対する人事評価を行い、その評価に
従って資格等級、号俸を格付けることは、使用者の総合的裁量的判断としての
人事権の行使であり、就業規則や労働契約に根拠がある限り、
原則として自由である。
ただし、権利の濫用や差別的取扱いと認められる場合には無効となる。
今回の格付けにあたっては、
就業規則だけでなくXの同意(同意書)に基づいて人事権を行使する場合で
あるから、Yが行使できる降格及び賃金減額の権限は新規則の趣旨だけでなく、
Xの同意の趣旨にも反してはならない。
新就業規則はXにも適用されるが、
減額が著しいこと、
能力評価には様々な意見がありうることなどを
考慮すると、本件格付けは、
労働契約上付与された降格権限を逸脱するものとして
合理性を欠き、権利の濫用であり無効というべきである。
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3.解 説
使用者による減額措置が認められるかどうかは、
減額措置をとる必要性の有無や程度によって決まるものではなく、
減額措置をとる法的な根拠の有無によって決まる。
(1)賃金の一方的減額
賃金は、労働契約の重要な要素であり、使用者が一方的に
引き下げることはできない。経営不振や高年齢者の賃金抑制などを
目的として、賃金の一方的引き下げを行う事例があるが、
裁判所はこれを否定するものが多い
(京都広告事件 大阪高判平3.12.25 労判621-80、
東豊観光事件 大阪地判平13.10.24 労判817-21、
一橋出版事件 東京地判平15.4.21 労判850-38)。
経営合理化の一環として一方的な降格によって減額することも
認められないとしたものもある
(チェース・マンハッタン銀行事件 東京地判平6.9.14 労判656-17)。
(2)同意に基づく減額
労働者の明確な同意がある場合には、
就業規則や労働協約に反しない限り、賃金の切り下げも認められる。
では、異議をとどめずに一方的に減額された賃金を受領した場合に
黙示の同意が認められるか。
光和商事事件(大阪地判平14.7.19労判833-22)では、
歩合制導入に伴い基本給額が引き下げられたが、
賃金制度変更に一定の合理的理由を認めた上で、
基本給減額について黙示の承諾があったとされた。
しかし、
日本ニューホランド事件(札幌地判平13.8.23 労判815-46)、
東京アメリカンクラブ事件(東京地判平11.11.26 労判778-40)、
ヤマゲンパツケージ事件(大阪地決平9.11.4 労判738-55)では
黙示の合意の成立には慎重な姿勢をとり、これを否定した。また、
北海道国際空港事件(最一小判平15.12.18 労判866-14)や
更生会社三井埠頭事件(東京高判平12.12.27 労判809-82)、
アーク証券(本訴)事件(東京地判平12.1.31 労判785-45)では、
賃金の減額に対する労働者の同意について、賃金債権の放棄に関する
シンガー・ソーイング・メシーン・カムパニー事件(最二小判昭48.1.19 民集27-1-27
、(11)参照)の判断枠組を用いて、
労働者の自由な意思に基づいていると認められる合理的理由が存在
している場合に限り有効と解している。
(3)制度的変更による減額
就業規則や労働協約などを通じて賃金制度そのものを改定し、
賃金の減額を行うこともある。この場合、労働条件の集合的な処理と
いう観点から、個別労働者の同意を経ることなく変更でき、就業規則や
労働協約の不利益変更の合理性の問題として扱われることになる
(労働条件の変更参照)。特に、賃金などの重要な労働条件を不利益に
変更する場合、不利益を労働者に及ぼすことが認められるだけの高度の
必要性に基づいた合理的な内容でなければならない
(大曲市農協事件 最三小判昭63.2.16 労判512-7)。
また、不利益を緩和するための代償措置や経過措置をとることが
望ましい。最近の事例で、能力主義・成果主義的賃金制度の導入に
ついて合理性を肯定したものとして
ハクスイテック事件(大阪地判平12.2.28 労判781-43)、能力評価制の
導入と諸手当の減額という賃金制度の変更について合理性がないと
されたものとして前掲
アーク証券(本訴)事件がある。
(4)格付け変更による減額
一般に、降格を含めた使用者の人事権の行使は非常に広範に
認められているが、職能資格制度の下においては、職能資格・等級の
変更が賃金の変更につながるため、人事権を基礎付ける法的根拠
(就業規則・労働契約・合意)に基づく一定の制約を受けると解される。
モデル裁判例では、事前に通知され同意書を提出していることから、
変更された新就業規則がXに適用されることを認めた上で、人事権の
行使としての格付けもその根拠である就業規則や労働者の同意の趣旨に
反してはならないとして制約的な理解をしている。格付けを新たに行う
場合や変更して賃金などの処遇に不利益が生じるような場合、
その可能性が予定されその権限が使用者に根拠付けられていることが
必要となる(同様の判断を示すものとして
アーク証券事件 東京地決平8.12.11 労判711-57がある)。
また、降格を伴う営業職から営業事務職への配転命令の効力が
争われた
日本ガイダント仙台営業所事件(仙台地決平14.11.14 労判842-56)では、
業務内容の変更と賃金等級の降格を内包する配転で賃金減少の幅が
大きい場合(同事件ではおよそ半減)には、賃金減少を相当とする客観的
合理的事情がない限り、その降格は無効と解すべきであるとする
(デイエフアイ西友事件 東京地決平9.1.24 労判719-87も参照)。
そして、その減給の程度が認められるためには、適切な考課に基づいた
合理的範囲内にあると評価できることが必要である
(日本ドナルドソン青梅工場事件 東京地八王子支判平15.10.30 労判866-20)。
これに対して、勤務態度不良や職務不適格を理由として、賃金減額を伴う降格
処分を有効とするものもある
(上州屋事件 東京地判平11.10.29 労判774-12)。
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