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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                           賃金額の決定・査定・年俸制



1.ポイント

(1)査定の決定については、

使用者の広範な裁量が認められており、

評価の前提となった事実に誤認があるとか、動機において不当なものがあったとか、

重視すべき事項を無視重要でない事項を強調するとか、

実施手順に違反している等により、

評価が合理性を欠き、社会通念上著しく妥当を欠くと

認められない限り、これを違法とすることはできない


(2)年俸制を採用している場合、

契約期間途中での減額原則として認められない

また、使用者は、時間外労働を命じたときには、

時間外割増賃金の支払いをしなければならない






2.モデル裁判例



  マナック事件 広島高判平13.5.23 労判811‐21

(1)事件のあらまし


 原告Xは昭和54年4月被告Yに入社し、平成6年には業務課主任の職にあり、

職能資格等級4等級に格付けされていた。

平成6年6月2日、XはYの経営陣を批判する言動をし、

上司であるAに叱責された。

同年7月8日、Xは会長室でB会長から言動と態度を注意され

反省を促されたが、謝罪を拒否するなどした。

Yは降格規定の「勤務成績が著しく悪いとき」に該当するとして、



平成7年4月1日、常務会において、Xを3級に降格させる決定をした。

Yの人事考課規程によれば、評定期間を前年4月1日から当年3月31日までの

1年間として、毎年4月を評定時期として実施するとされていた。

Xの評定は平成7年4月から同10年4月までいずれも最低のEランクであり、

昇給率は低かった。そこで、Xは、違法な評定は不法行為であり、

これによって被った昇給差額に相当する額の損害賠償などを求めて

提訴した。

一審判決(広島地福山支判平10.12.9  労判811‐37) は、

企業の行う人事考課は性質上その広範な裁量に委ねられるから、

査定方法が不合理であるとか、恣意的になされたものと認められない限り、

適法なものというべきであり、本件昇給決定には合理的理由があり、

査定方法が不合理であるとか恣意的になされたとはいえないとして、

Xの請求を棄却したため、Xは控訴した。



(2)判決の内容


労働者側勝訴(Cランクの評定に基づく昇給との差額分を認容した)


 賃金規程によれば、従業員の給与を昇給させるかどうか、

どの程度昇給させるかは使用者の自由裁量に属する事柄というべき

であるが、人事評定により昇給の指数を決定すること、評定期間などの

実施手順や評定の留意事項が定められているから、昇給査定にこれらの

実施手順等に反する裁量権の逸脱があり、これによりXの利益が侵害されたと

認められる場合は、Yの昇給査定は不法行為となる。平成7年4月分の評定

期間には二つの事件があり、評定がEであったことには違法はないが、

平成8年4月の評定は、評定期間中にXの批判的言動があったとは認められず、

二つの事件とその直後のXの対応が理由と推認され、平成9年4月と同10年4月の

評定は、同8年4月の評定に基づきEとされたと認めざるを得ない。これらの評定は、

評定期間を前年4月1日から当年3月31日までと定めた人事考課規程に違反する点に

おいて裁量権を逸脱した違法があるものというべきである。





3.解 説

(1)人事考課・査定
 人事考課(査定)は、賃金額を決定する重要な要素であり、

昇給率や賞与額の決定において用いられることが多い。査定の

決定については、一般に、使用者の広範な裁量が認められており、

評価の前提となった事実に誤認があるとか、動機において不当なものが

あったとか、重視すべき事項を無視し重要でない事項を強調するとか等に

より、評価が合理性を欠き、社会通念上著しく妥当を欠くと認められない限り、

これを違法とすることはできないとされている

光洋精工事件 大阪高判平9.11.25 労判729‐39、

ダイエー事件
 横浜地判平2.5.29 労判579‐35、

安田信託銀行事件 東京地判昭60.3.14 労判451‐27、

いずれも裁量の権利濫用性を否定)。



 モデル裁判例は、査定の実施手順(手続的側面)から、

使用者の裁量に一定の制限を加えており、これに反する場合には、

使用者の裁量権を逸脱するものとして不法行為が成立する。査定の

裁量権逸脱が問題となる場合として、組合差別、思想信条を理由とする差別、男女差別な

どが多い((94)[ 労働者の人権・人格権]、(87)[ 女性労働] 参照)。


 また、査定をめぐる紛争では、査定の裁量性と機密性を反映して、

労働者側の立証が極めて困難となる。組合差別や思想信条差別の場合、

不利益な取扱いを受けているグループないし個人の査定が他と比較して

著しく低いこと、使用者が組合ないし思想信条を嫌悪している事実が認められ、

低い査定をしたことについて使用者が合理的な理由を反証できなければ、

差別的取扱いを受けたものと認められるとするものがある

松阪鉄工所事件 津地判平12.9.28 労判800‐61)。

同様に、男女の査定差別についても、査定資料を保有する使用者に

反証を求めるものがあ

る(イセキ開発工機(賃金減額)事件 東京地判平15.12.12 労判869‐35)。




(2)年俸制

 近年、管理職を中心に年俸制の導入が進んでいるといわれ、

裁判例においても、年俸制をめぐる紛争が散見されるようになった。

年俸制とは、年単位で賃金額を決定するものであるが、毎月

1回以上・定期払いの原則に従って12分割して支払う必要がある。

年俸制の契約を締結している場合、

年俸総額や月額支給額の合意が成立している以上、就業規則の

変更によっても、契約期間途中での賃金額の変更は認められない

シーエーアイ事件 東京地判平12.2.8 労判787‐58)。

そして、契約期間途中における年俸額の引き下げの合意についても、

賃金債権の放棄と同様に、労働者の自由な意思に基づいてなされたものと

認められる合理的理由の存在が必要とされ

北海道国際空港事件 最一小判平15.12.18 労判866‐14)、

減額変更は法的に制限されている。


 また、年俸制の採用に際して、時間外労働手当を含めて

月額賃金を決定し、就業規則上「時間外労働手当は支給しない」と

定めていた場合でも、労基法37条の趣旨から、時間外労働を命じている以上、

使用者は割増賃金を支払わなければならないとしたものがある。

この事件では、月額18万円で年間15ヵ月分を支給(7月と12月に各27万円(18万円×1.5)

の賞与を支給) するとされていたが、裁判所は、その賞与分について、

支給時期および支給額があらかじめ確定しているので、「臨時に支払われた

賃金」または「1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金」( 労基法施行規則21条)には

該当しないとして、割増賃金の算定基礎となる賃金に算入されると判断した

システムワークス事件 大阪地判平14.10.25 労判844‐79)。


 同様に、時間外労働割増賃金、諸手当及び賞与を含めて年俸額300万円

(毎月25万円支給)として雇用した労働者の割増賃金請求について、

年俸制だから割増賃金を支払わなくてもよいというわけではなく、

労基法37条の趣旨から、割増賃金部分が法定の額を下回っているかどうか

が具体的に計算できないような方法による賃金の支払方法は無効であると


判断したものがある

創栄コンサルタント事件 大阪地判平14.5.17 労判828‐14)。










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