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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                          賃金支払い諸原則



1.ポイント



(1)賃金の支払方法については、

労基法24条の定める

通貨払い

直接払い

全額払い

毎月1回以上・定期払い

の原則が適用される。


(2)使用者が、労働者に対して有する

債権賃金債権とを相殺することは

全額払い原則に反して許されないが、

賃金の過払い分を調整する調整的相殺

労働者の生活に大きな影響を与えない場合には許される。


(3)労働者の賃金債権の放棄合意による相殺は、

労働者の自由な意思に基づくものであると認められる

合理的な理由が客観的に存在していたと

いえる場合には許される。


2.モデル裁判例


  シンガー・ソーイング・メシーン・カムパニー事件 最二小判昭48.1.19 民集27‐1‐27

(1)事件のあらまし


 原告Xは、A大学英文科とB大学法科を出ており、昭和26年2月にYに雇用され、

昭和41年8月29日に労働契約を合意解約して退職した。

退職当時、Xは、Yの西日本地区の総責任者という地位にあり、

上司である外国人との応接もすべて英語で遂行する語学力を有し、

Yの代表者であったCとの会話もすべて英語でしていた。

また、Yにおいて、XがYの一部門と競争関係に立つD社に移ることが

判明しており、調査の結果、Yに在職中、Xとその部下との旅費等の

経費面で書類上つじつまの合わないことが多く、幾多の疑惑がもたれていた。

そのため、Xの退職に際して、旅費、電話設置代金等の清算を終えたあと、

CはXとの間で、「同日までYに勤務したが、これに関する一切の

支払いを受領した。

なお、XはYに対し、いかなる性質の請求権をも有しないことを確認する。という

趣旨の英文の念書に署名を求め、Xはこれに応じた。

Yの就業規則に基づき計算すれば、YがXに対して支払うべき退職金

総額408万2,000円であったが、Yは、念書を退職金債権の放棄をする

意思表示とみなして退職金を支給しなかった

そこで、Xが退職金の支払いを求めて提訴したのが本件である。

Yは、Xが念書により退職金債権を放棄していると主張し、

Xは、

@放棄の意思表示は錯誤により無効であり、

A放棄は労働基準法24条1項が趣旨とする相殺禁止を

潜脱するための脱法行為であるから無効であると主張した。



(2)判決の内容


労働者側敗訴
 本件退職金は、就業規則で支給条件が明確に定められ

Yが支給義務を負うべきであるから、労働基準法11条の

「労働の対償」としての賃金に該当するので、

その支払いには、同法24条1項が定める全額払いの原則が適用される。

しかし、全額払いの原則の趣旨は、使用者が一方的に賃金を控除することを

禁止し、それにより労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の

経済生活の保護を図ろうとするものであるから、労働者が退職に際し

自ら退職金債権を放棄する意思表示をした場合に、

全額払いの原則によってその意思表示を否定することはできない。

もっとも、放棄の意思表示の効力を認めるためには、それがXの自由な

意思に基づくものであることが明確でなければならない。

本件事実関係に表れた諸事情に照らすと、退職金放棄の意思表示が

Xの自由な意思に基づくものであると認めるに足りる合理的な理由が

客観的に存在していたといえるから、放棄の意思表示の効力は有効であり、

Xの退職金の請求は認められない。


3.解 説



(1)通貨払いの原則

 賃金は通貨で支払わなければならない。

現物支給による弊害を防止し、労働者にとって最も安全で

便利な支払方法を命じたものであり、外国通貨や小切手に

よる賃金の支払いは許されない。

また、労働協約で別段の定めをするときには通貨以外のもので

支払うことが認められる。賃金の口座振込は「労働者の同意」を

条件として、その労働者が指定する銀行・ 金融機関の労働者の

預貯金口座への振込みが認められている(労基法施行規則7条の2)。

なお、会社が従業員に支給する自社株式について、

労働契約において賞与として支給することを確約した場合には

具体的な請求権として「労働の対償」と解することができるが、

通貨払いの原則に反するとする裁判例がある

ジャード事件 東京地判昭53.2.23 労判293‐52)。



(2)直接払いの原則

 賃金は、労働者に直接支払わなければならない。

第三者のピンハネを防止する趣旨である。

したがって、労働者の親権者その他の法定代理人や任意代理人に

支払うことは本条違反になる。賃金債権は、社会保険の受給権と

異なり、譲渡が許されないわけではないが、労働者が賃金の支払いを

受ける前に債権を他に譲渡した場合でも、使用者は直接労働者に

対して賃金を支払わなければならず、譲受人が使用者に支払いを

求めることは許されない

日本電信電話公社事件 最三小判昭43.3.12 民集22‐3‐562、

伊予相互金融事件
 最三小判昭43.5.28 判時519‐89)。

賃金債権が法律に基づき差し押さえられたときは、使用者が同法に

より賃金を差押債権者に支払うことは許される。



(3)全額払いの原則

 使用者は当該計算期間の労働に対して約束した賃金の全額を

支払わなければならず、賃金からの控除は原則として許されない。

例外として、法令により別段の定めがある場合(給与等の源泉徴収、

社会保険料の控除など)や事業場協定を締結した場合(社宅や寮などの

費用、各種ローンの支払い、労働組合費のチェック・オフなど)には賃金の

一部を控除して支払うことができる。


 問題となるのは、相殺の可否である。

判例によれば、この原則は、相殺禁止の趣旨も含んでおり

使用者による一方的な相殺は全額払い原則に違反する

日本勧業経済会事件 最大判昭36.5.31 民集15‐5‐1482)。

ただし、モデル裁判例のように、労働者の自由な意思に基づくもので

あると認められる合理的な理由が客観的に存在していたといえる

場合には、全額払い原則は適用されない。そして、労働者が自由な

意思に基づいて使用者が労働者に対して有する債権と労働者の賃金

債権とを相殺することに同意した場合には、同意に基づく相殺は

全額払い原則に反するものではない

日新製鋼事件 最二小判平2.11.26 民集44‐8‐1085)。

なお、年俸制の労働者の月額支給分を一方的に20%減額した

ことについて、労働者の自由な意思に基づいているという合理的理由が

客観的に存在しないとして、全額払い原則違反としたものがある

北海道国際空港事件 最一小判平15.12.18 労判866‐14)。


 また、過払賃金を後に支払われる賃金から差し引く「調整的相殺」に

ついては、過払いのあった時期と合理的に接着した時期において

賃金の清算調整が行われ、労働者の経済生活の安定を脅かさない場合

(予告がある場合や少額である場合)に認められる

福島県教組事件 最一小判昭44.12.18 民集23‐12‐2495)。


 なお、ストック・ オプションの付与は労基法上の賃金にはあたらないので、

就業規則等で定められた賃金の一部として扱うことはできないと

されている(平9.6.1基発412号)。

したがって、給与の一部をストック・ オプションの付与をもって充てる

措置はその分だけ賃金を支給していないことになり、本条違反となる。



(4)毎月1回以上・定期払いの原則


 賃金は、毎月1回以上、特定した日に支払わなければならない。年俸制の場合でも

毎月定期払いをする必要がある。ただし、賞与や1ヵ月を超える期間に

ついての手当等はその期間で支払うことができる。








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