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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                                採用・労働契約締結上の過失

1.ポイント





(1)契約締結準備段階において

当事者は、権利の行使義務の履行を信義に従い誠実にこれを

なすべきものであるとする信義誠実の原則(民法1条2項)により、

相手方と誠実に交渉しなければならない。


   したがって、契約締結の段階、またはその準備段階において、

信義誠実上の義務を尽くさず、過失により相手方に損害が生じた場合には、

この損害を賠償する責任が生じることになる。



(2)使用者は応募者が誤解しないよう十分に説明する義務を負う。

使用者は採用募集時に誤解が生じた場合にはこれを是正し

損害の発生を防止することに協力する義務がある。

これらの義務が尽くされなかったことを原因として

損害が応募者に生じた場合

使用者は、この損害に対して賠償責任を負うことになる。






2.モデル裁判例


  かなざわ総本舗事件 東京高判昭61.10.14 金融・商事判例767‐21



(1)事件のあらまし


 一審原告側労働者X(被控訴人)は、

中小企業の取締役兼総務部長であった者で

小規模な家族的企業である一審被告側使用者Y(控訴人) は、

かねてより経営全般の助言をしていたXを幹部社員として採用しようと

考え、Xに給与等の入社条件を知らせ、Xの意思確認をしていた。

ところが、使用者は興信所調査の結果、Xに不信感を抱くようになっていた。

X はY との間に雇用契約が確実に成立すると信じ勤務会社に強く慰留されたが

これを振り切って退社したにもかかわらず、

Yに入社を断られる結果となったため、

Yに対し、債務不履行または不法行為(故意・過失によって

他人の権利を侵害し損害を与える行為)に基づく

損害賠償を請求した。




(2)判決の内容 


労働者側勝訴


 前会社を退職したことにより失った逸失利益

2年分の所得のうち200万円(過失の割合、労働者7 割、使用者3 割)、

および、慰謝料100万円の支払いを認めた。

 採用に関してX・Y間に雇用契約が成立したと認めることはできない。

また、採用が内定していたと認めることもできず、

両者は、入社をめぐって折衝中であったものであり、

雇用契約の準備段階に過ぎなかったものと認めるのが相当である。


 しかし、雇用契約の準備段階であっても、当事者は誠実に相手方と

交渉しなければならない。

相手方が誤解し、契約が確実に成立するとの誤った認識の下に

行動しようとし、その結果過大な損害を負担する結果を招く

可能性があるような場合、

当事者は、相手方の誤解を是正し、損害の発生を防止することに

協力すべき信義則上の義務があり、この義務に違背したときには

相手方に加えた損害を賠償すべき責任がある。

だが、Xは、Yの言動に関し正確な意味を確かめてから最終的に

従前の会社を退社しても何ら支障がなかった等のことから、

過失の割合は、X が7 割強、Yが3 割弱とするのが相当であり、

Yは200万円を負担すべきである。

また、Xは、安定した職場を失ったことに精神的苦痛を被ったことは

明らかであり、これに関する慰謝料を100万円とするのが相当である。


3.解 説

(1)契約締結の過失による損害賠償責任


 労働契約締結に至らない契約締結の過程においては、

労基法は原則として適用されない

 そこで民法の「契約締結上の過失」が問題になる。

契約締結準備段階において当事者は、信義誠実の原則に

より相手方と誠実に交渉しなければならない。したがって、

一方当事者の過失により相手方に損害が生じた場合に、

当該当事者はこの損害に不法行為法上の賠償責任を負うことになる。


 モデル裁判例において東京高裁は、誤解が生じた場合には

これを是正し、損害が発生しないように行動する義務を使用者が

負うと判示している。これらの義務が尽くされなかったことを原因として、

損害が応募者に生じた場合、使用者はこの損害に対して賠償責任を

負うことになる。
 このように契約締結上の過失が問題となる場合、過失相殺の法理

(被害者の過失の割合に応じて損害賠償額が減額される法理)が適用

される。したがって、双方の契約締結上過失の割合に応じて、それぞれが

負担すべき損害額が算定されることになる。



(2)雇用の実現・継続に関する注意義務・説明義務

わいわいランド(解雇)事件(大阪高判平13.3.6 労判818‐73)は、

フランチャイズ方式で園長を募集する無認可保育所(託児所)が

乳酸菌飲料販売等を業とする企業との間の業務委託契約成立を

見込んで、トレーナーとして原告らに就職の勧誘を行い、承諾を得たため

雇い入れ通知書を交付したが、業務委託契約が不成立になり、結局、

原告らは就職することができなかったという事案である。


 原告らは、雇用契約はすでに成立しており、本件通告は解雇権濫用で

あると主張し損害賠償の支払いを求めた。


 裁判所は、承諾による雇用契約の成立を原告らのうちのひとりに

認めたが、業務委託不成立という客観的事実の理由により、解雇は

権利濫用等には当たらないとしながらも、使用者が雇用を実現し雇用を

続けることができるよう配慮する注意義務や雇用の実現、継続に関係

する客観的な事情を説明する義務に違反したとして、解雇の効果が

生ずるまでの期間(1 ヵ月) および再就職状況や通常再就職に要する

期間(5 ヵ月) とあわせて6 ヵ月分の賃金の支払いを認めた。また、

確定的な回答を留保していたもうひとりの原告には、雇用契約の成立を

認めなかったが、同様の義務違反を認め、2 ヵ月後に以前の職を失った

ことを考慮し4 ヵ月分の賃金の支払いを認めた。



(3)契約内容の理解の相違


 労働契約締結過程における契約内容の理解の相違が争点となった

事例としては、ユナイテッド航空事件( 東京地判平12.4.28 労判788‐39) がある。

この事件は、アメリカの州法に準拠して設立された航空会社と日本人

客室乗務員との雇用契約に関してアメリカの裁判所を管轄裁判所にする旨の

合意があったといえるか否かが争われたものである。日本人客室乗務員は、

雇用契約書の内容について十分な説明を受けていないまま雇用契約書に

署名したのであって、専属的裁判管轄について合意が成立していなかったと

主張した。これに対して、裁判所は、日本人客室乗務員が雇用契約書の内容の

説明を受けていること、日本人客室乗務員の英語力は十分なものであり、契約

内容を理解できたことから、雇用契約が双方の合意に基づいて有効に成立して

いると判示している。



(4)求人広告記載と異なる取扱い


 求人広告記載と異なる取扱いが行われたことが争われた事件として

日新火災海上保険事件( 東京高判平12.4.19  労判787‐35) がある。

この事件は、中途採用者として採用された者が、求人情報誌の求人広告に

「新卒同年次定期採用者の給料と同等の額をお約束します」という記載があった

にもかかわらず、新卒同年次定期採用者の下限に格付けたことは契約内容に

違反するとして、新卒同年次定期採用者の平均的給与との差額の支払い等を

求めた事例で、裁判所は、求人広告をもって個別的な雇用契約の申込みの意思

表示とはできず、また、面接・会社説明会において新卒同年次定期採用者の平均的

格付による給与を支給するという合意が成立していたということもできないが、新卒

同年次定期採用者の下限に位置づけることを明示せず、平均的給与を受けることが

できるものと信じかねない説明をしており、労働条件明示義務(労基法15 条1項)に

違反するとともに、信義誠実の原則に反するとして、

精神的苦痛に対し慰謝料100万円の支払いを命じた。








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