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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                                     採用内定取消



1.ポイント



(1)特別な別段の合意がなければ

応募者に対する採用内定の通知とこれに対する承諾により、

労働契約が成立する。

ただし、この労働契約は、従業員として雇入れられた後の

労働契約とは性質を異にする。

内定時に成立する労働契約とは

仕事を開始する時期を大学卒業直後とし、

それまでの間に万が一誓約書記載の採用内定取消事由が

発生した場合には使用者が解約権を行使することができることを

内容とするものである。


(2)採用内定の取消事由は、

採用内定当時知ることができず、

また知ることが期待できないような事実であって、

これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保趣旨

目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として

みとめられることができるものに限られる








2.モデル裁判例



  大日本印刷事件 最二小判昭54.7.20 民集33‐5‐582

(1)事実のあらまし



 一審原告側労働者X(被控訴人・被上告人)は、

在籍大学の推薦を受けて、

総合印刷を業とする一審被告側使用者Y(控訴人・上告人)の求人募集に

応じ、筆記試験と適性検査を受け、身上調書を提出し、面接試験と

身体検査を受け、その結果、文書で採用内定の通知を受けた。

Xの在籍大学が求人募集に対する学生の推薦に関し

「二社制限、先決優先主義」を徹底していたので、

X は、内定通知を受けた後、大学の推薦で応募していた他社への

応募を辞退した。


 入社予定日の約2ヵ月前に、突如としてYからXに対し採用内定

を取消す旨の通知があり、しかもその理由も示されていなかった。

Xは、取消通知のあった時期が遅かったため他の相当な企業への就職は

事実上不可能となり、他に就職することもなく、大学を卒業するに至った。


 そこで、X は、Y の採用内定取消しは合理的理由を欠き無効である等

主張して、従業員としての地位確認等の訴えを提起した。



(2)判決の内容


労働者側勝訴


 内定取消しは無効とされた。

 採用内定により、労働者が働くのは大学卒業直後とし、

それまでの間に企業と学生が取り交わした誓約書に記載されている

採用内定取消事由があれば会社が解約することができることを約した

労働契約が成立したと認めるのが相当である。

したがって、会社の採用内定取消しは、解約の事由が社会通念上相当と

して是認することができるものである場合にのみ取消が可能である。


 具体的には、採用内定の取消しは、採用内定当時知ることができず、

また知ることが期待できないような事実であり、これを理由として採用

内定を取消すことが客観的に合理的と認められ社会通念上相当として

是認することができるものに限られると解するのが相当である。


 これを本件についてみると、

Xはグルーミー(陰気)な印象なので当初から不適格と思われた

それを打ち消す材料が出るかも知れないという理由で採用内定と

しておいたところ、そのような材料が出なかったから採用内定を取消した

というものであり、社会通念上相当として是認することができず

解約権の濫用にあたり内定取消しは無効である。


3.解 説




(1)採用内定の法的性質


 採用内定の通知を受けた学生は、他の企業への就職活動を

停止するのが一般的である。その後に不当に内定が取消されて

しまうと、学生は新卒としての就職の機会を逸してしまうことになり

かねない。この採用内定取消しをめぐっては、採用内定がいかなる

法的性質を有するかについて、多くの議論がなされてきた。


 この問題について、モデル裁判例最高裁判決は、新規卒業者の

採用過程を検討して、採用内定により解約権留保・就労始期付労働

契約の成立を認めた点で先例としてきわめて大きな意義を有する。

ここでいう、解約権留保・就労始期付労働契約とは、内定時に成立する

労働契約のことであり、仕事を開始する時期を大学卒業直後とし、

それまでの間に誓約書記載の採用内定取消し事由が発生した場合には

使用者が解約権を行使することができることを内容とするものである。


 また、電電公社近畿電通局事件( 最二小判昭55.5.30 民集34‐3‐464) も

類似の事例であるが、採用内定当時知ることができず、これを理由として

内定を取消すことが客観的に合理的と認められ社会通念上相当な場合に

内定を取消すことができるとしている。



(2)内定取消事由


 使用者は、採用内定通知書または誓約書に記載されている

採用内定取消事由が生じた場合には採用内定を取消すことが

できる。しかし内定取消事由は解雇と同様に客観的に合理的で

社会通念上相当として是認できるものに限定されることになる。


 内定取消事由として最も典型的なものは内定者が卒業できない

ことであり、多くの企業はこれを内定取消事由のひとつにあげている。


 取消事由が「客観的に合理的で社会通念上相当」として是認できるか

否かの判断に関する事件として、

日立製作所事件
(横浜地判昭49.6.19 判時744‐29)がある。



 この事件は、在日朝鮮人であることを隠して応募書類の氏名・本籍欄に

虚偽を記入し採用された者が、入寮手続の際に在日朝鮮人であることを

告げたために内定を取消された事例である。


 裁判所は、「提出書類の虚偽記入」という取消事由に関し、その内容・

程度が重大なもので、信義を欠くようなものでなければ内定を取消せないと

述べ、国籍を理由とする差別的取扱いであるとし、当該採用内定取消しが

無効との判決を下している。


 これに対し、

前掲電電公社近畿電通局事件判決は、無届デモにより公安条例違反等の

現行犯として逮捕され起訴猶予処分を受けるなどの違法行為をしたことを

理由とする採用取消しを有効としている。



(3)中途採用者に対する内定取消し


 最近では、新規卒業による一斉採用の事例ばかりではなく、

中途採用者やヘッドハンティングによる採用内定取消事件も生じている。

例えば、ヘッドハンティングした労働者に関する

インフォミックス事件
(東京地決平9.10.31 労判726‐37)は、

ヘッドハンティングによりマネージャー職にスカウトされた労働者に

対する経営悪化を理由とする内定取消しに関する事例である。



 この事件において裁判所は、モデル裁判例最高裁判決で確立された

法理を引用した上で、採用内定者は、現実には就労していないものの、

労働契約に拘束され、他に就職することができない地位に置かれている

のであるから、企業が経営の悪化等を理由に採用内定取消しをする場合には、

いわゆる整理解雇の有効性の判断に関する法理が適用されるべきであるとした。


 すなわち

@人員削減の必要性、

A人員削減の手段として整理解雇することの必要性、

B 被解雇者選定の合理性、

C 手続の妥当性という四要素を総合考慮のうえ、

客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と是認することが

できるかどうかを判断すべきであるとしているのである。


 裁判所は、入社の辞退勧告などがなされた時期が入社日の

わずか2週間前であって、しかもこの労働者は、すでに前会社に

対して退職届を提出して、もはや後戻りできない状況にあったこと等は、

労働者に著しく過酷な結果を強いるものであり、客観的に合理的なもの

とはいえず、社会通念上相当と是認することはできないとして、

内定取消しを無効としている。










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