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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                          採用の自由



1.ポイント

(1)企業には、経済活動の一環としての契約締結の自由があり、

自己の営業のためにどのような者どのような条件で雇うかについて、

法律その他による特別の制限がない限り

原則として自由に行うことができる




(2)労基法3条は、労働者の国籍、信条(宗教的信仰のみならず、

人生や政治に関する考え方)又は社会的身分

(先天的原因に基づく社会的地位)を理由とする労働条件の

差別的取扱い禁止しているが、

これは、雇入れ後、すなわち、従業員になってからの労働条件

差別的取扱いを禁止する規定であって、

労働者の雇入れそのものにおける労働条件の差別的取扱い

規制する規定ではない



(3)しかし、近年、立法、行政指導により企業の採用の自由は

制約される傾向に
ある。



2.モデル裁判例



  三菱樹脂事件 最大判昭48.12.12 民集27‐11‐1536


(1)事件のあらまし


 一審原告側労働者X(被控訴人・被上告人)は、

大学卒業と同時に合成樹脂のパイプ、板等の製造販売を業とする

一審被告側使用者Y(控訴人・上告人)に採用されたが、

3ヵ月間の試用期間満了直前に、本採用拒否の告知を受けた。

本採用拒否の理由は

、Xが大学在学中に学生運動に従事した事実を身上書に記載せず、

面接の際にも秘匿したことが詐欺に該当し、

また、管理職要員としての適格性を否定するものであるというもの

であった。そこで、Xは、労働契約に基づく権利の確認賃金の支払い

求めた。

(2)判決の内容


労働者側敗訴


 Xの雇用契約上の権利を認めるとともに賃金の支払いを命じた

第二審の判決を破棄し、東京高裁に差戻した。


 憲法は、思想、信条の自由や法の下の平等を保障すると同時に、

他方で、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも

基本的人権として保障している。

それゆえ、企業には、経済活動の一環として行う契約締結の自由があり、

自己の営業のためにどのような者をどのような条件で雇うかについて、

法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由に行うことが

できる。企業が特定の思想、信条を有する者をそのことを理由に雇入れを

拒んでも、それを当然に違法とすることはできない。また、労基法3条は

労働者の信条によって賃金その他の労働条件につき差別することを

禁止しているが、

これは、雇入れ後における労働条件についての制限であって、

雇入れそのものを制約する規定ではない。


 企業が労働者の性向、思想等の調査を行うことは、

わが国のようにいわゆる終身雇用制が行なわれてきた社会では

一層必要であることを考慮すれば、企業活動としての合理性を欠く

ものということはできない。

また、本件において問題とされているYの調査が、Xの思想・信条

そのものについてではなく、直接にはXの過去の行動についてされたもの

であり、ただその行動がXの思想、信条と関連していただけであることを

考慮すれば、そのような調査を違法とすることはできない。


 なお、本事件は、

昭和51年3 月11日差戻審で和解が成立し労働者は原職復帰している。





3.解 説

(1)企業の採用の自由


 企業が、いかなる者を雇入れるかは企業の自由であり、

採用を強制されることはない。そこで、労働者が有する思想・信条の

自由および法の下の平等と企業の契約締結の自由との関係が問題と

なる。企業の契約締結の自由を強調した結論を導き、採用過程における

使用者による応募者に関する広範な情報収集を事実上承認したのがモデル裁判例最高裁判決である。


 これに類似する事例として、

慶応病院看護婦不採用事件
(東京高判昭50.12.22 労民集26‐6‐1116) がある。

この事件は、看護婦の養成を目的とする大学医学部付属学校の卒業生の

思想、信条等を理由とする採用拒否が争われたものである。

裁判所は、思想、信条等が採否の判断基準の直接的決定的な理由で

ある場合には、憲法の諸規定の精神に反すると言うことができるが、

それらが判断基準の一つもしくは間接の原因、すなわち、思想・信条等に

基づく諸活動が問題となっているような場合には、雇入れを拒否しても違法と

はならないとした。



(2)企業の採用の自由への制約

  1)立法による制約


    モデル裁判例において最高裁は、「法律その他による特別の制限」が

ある場合には、採用の自由が制約されると判示している。だが、

近年まで採用の自由を制限する法規制はあまり存在してこなかった。

しかし近年、使用者の採用の自由が、徐々に規制される傾向が見受けられ、

このことは、次の各側面において確認することができる。


    まず、雇用における差別を禁止する観点からの立法の動きである。

男女雇用機会均等法5条は、募集及び採用に関し、使用者が女性に男性と

均等な機会を与えるべきことを規定している。この規定により、かつてより広く

行われてきた「女性のみ」「男性のみ」とする募集を行うことができなくなった。


    次に、個人情報保護の観点からの規制である。

職業安定法5 条の4 第1 項は、公共職業安定所等が業務の目的達成に

必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集することを許容している。

この公共職業安定所等のなかには、「労働者の募集を行う者」が含まれている。

したがって、労働者の募集を行う企業は、業務の目的の達成に必要な範囲内と

みなされない思想・信条等に関する情報収集を行えないことになる。
  

  また、雇用対策法は、募集・採用時の年齢制限緩和に向けた取組みとして、

一定の場合年齢にかかわりなく均等な機会を与えるよう努力する義務を事業主に

課している。( また、障害者雇用促進法に基づく障害者の法定雇用率は、1.8% と

定められている(一般企業)。)



  2)行政による制約
    厚生労働省は応募者の個人情報収集に関し指導を行っている。

例えば、「職業紹介事業者、労働者の募集を行う者、募集受託者、労働者

供給事業者等が均等待遇、労働条件等の明示、求職者等の個人情報の

取扱い、職業紹介事業者の責務、募集内容の的確な表示等に関して適切に

対処するための指針」(平成11年11月17日労働省告示第141号)は、

「人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因と

なるおそれのある事項」「思想及び信条」「労働組合への加入状況」に関する

情報を収集してはならないとしている。


    また、旧労働省の「労働者の個人情報に関する指針」

( 平成12年12月25日労働省告示第120号)も上記の情報を収集

してはならない情報と位置づけている。


    さらに、平成15 年5 月に成立した個人情報保渡法8条に基づき

作成された厚生労働省の「雇用管理に関する個人情報の適正な取扱いを

確保するために事業者が講ずべき措置に関する指針について」は、

労働者の個人情報収集に関し個人情報の利用目的を具体的・個別的に

特定すべきことを要求している。


    このように、モデル裁判例最高裁判決は、

先例としての価値を有するが、この判決が認めた企業の広範な

情報収集活動の自由は、実際には制約の方向にあると言えよう。










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