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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                                  募 集

1.ポイント





(1)求人票見込額として記載した採用者の初任基本給の額は

将来入職時までに確定されることが予定された目標としての額であり、

確定的な労働契約の内容とはならない


(2)応募者は、求人票記載の賃金見込額の支給が受けられるものと

信じて応募しているのであるから、

求人票記載の見込額著しく下回る額で賃金を確定すべきでない



(3)中途採用者に対する求人に関し、求人広告個別的な雇用契約の


申込の意思表示と見ることはできないが、求人広告および社内説明に

おいて、実際の給与より多くの額が支給されるかのように

信じかねない説明をしてはならない


2.モデル裁判例


  八州事件 東京高判昭58.12.19 労判421‐33

(1)事件のあらまし


 一審原告側労働者Xら(控訴人)は、

地上測量の調査等を目的とする一審被告側使用者Y(被控訴人)の

従業員である。

入社後のXらの賃金額は、Xらが閲覧した会社の求人票に記載された

基本給見込額を下回るものであった。

Xらは、入社試験の合格通知が送られてきた後、

YがXらに労働条件を明示した事実がないので、Xらと会社間に

求人票の記載賃金等
内容とする労働契約が成立していたと主張して、

Xらの入社時に遡り求人票記載の賃金見込額と実際にXらが受領した

賃金確定額との差額の支払いを求めた。



(2)判決の内容 


労働者側敗訴


 Xらの賃金見込額と賃金確定額の差額支払いの請求を棄却した。


 求人票( 上) に記載された基本給額は賃金の「見込額」であり、

最低額の支給を保障したわけではなく、将来入社時までに確定されることが

予定された目標としての額である。


 したがって、「見込額」と実際の「確定額」が相違しても止むを得ない

ものと考えられる。

しかし、応募者は、求人票記載の賃金見込額の支給が受けられるものと

信じて求人に応募しているのであるから、求人票記載の見込額を

著しく下回る額で賃金を確定すべきでない。

社会の常識や通念に照らして、求人票記載の見込額を著しく

下回る額で賃金を確定することは、「権利の行使や義務の履行を

信義に従い、誠実にこれをすべきものである」とする

「信義誠実の原則」(民法1条2項)に反する。


 本件につきこれをみると、経済上の変動に対するYの現状分析に

基づく判断に明白な誤りがあったとか、誇大賃金表示によるかけ

引き等社会的非難に値する事実は認めることはできなかった。


 また、内定者には入社以前に一応事態の説明をして注意を

促していた。


 さらに、確定額は、見込額より3,000から6,000円程度下回っている

とはいえ、前年度の初任基本給よりはいずれも7,000円程度上回っている。


 以上の事実から、基本給額が労働契約に影響を及ぼすほど

「信義誠実の原則」に反するものとは認めることができない。


3.解 説

(1)労働条件の明示義務


 労基法15条は、労働契約締結に際し、賃金・労働時間その他の

労働条件を労働者に明示しなければならない旨を規定している。

確立した判例・学説によれば原則として採用内定時に労働契約が

成立する。したがって、採用内定時までには労働条件を明示しなければ

ならないことになる。



(2)「見込額」を下回る「確定額」


 採用内定時以前に、労働条件を明らかにしても、


実際に、新規学卒者の場合には就労開始までにかなりの

時間があり、賃金額は「見込額」にならざるをえないのが現状

である。したがって、「見込額」とはもともと変動を予定している額

なのであって、これを最低限の賃金保障の意味に解すことはできないと

いうことができる。しかし、他方で、応募者はこの「見込額」が「確定額」を

大きく下回ることはないであろうと期待し応募しているのであるから、

企業側にはこの期待に著しく反してはならないという「信義誠実の原則」が

認められている。

このような原則を明らかにしたのが「モデル裁判例」

八州事件
判決である。


 これに対し、

安部一級土木施工監理事務所事件(東京地判昭62.3.27 労判495‐16)では、

求人カードに記載された労働条件について、

これとは違う条件で働くということを契約当事者が

合意したということでもない限りカードの記載の内容が

労働契約の内容となるとするのが契約当事者の意思に

合致するものであるとされた。



(3)賞与


 賞与に関して裁判所は、

賃金と比較しより不確定な要素の強いものであると捉えている。

小野病院事件
(福岡地決昭57.9.9 労判402‐62)では、

採用時に配布されたパンフレツトの記載及び病院事務長に

よる就業規則説明会の席上での説明どおりの賞与が、

経営悪化により支給されなかったことが問題とされた。



裁判所は、病院事務長は、病院の経営が順調にゆくことを

前提とした場合の見込を記載し説明したものにすぎず、

確定的に説明された比率の賞与を支給することを約束したもの

ではないと判断した。


 また、前掲・安部一級土木施工監理事務所事件においても

裁判所は、賞与や昇給が事業の業績等の未確定要素に

大きく左右されるものであるため、求人カードに記載された条件を

労働契約の内容とすることが直ちに契約当事者の意思に合致するものとも

いえず、労働契約締結前後の事情をも考慮してこれを決するのが

相当であると判断している。



(4)中途採用の場合の労働条件


 最近では、中途採用を行う企業も増加してきていているが、

中途採用の募集の内容をめぐる紛争も発生している。

この問題に関し、「月給162,000円〜350,000円」という求人広告に応募

した労働者が実際には月額120,000円程度の賃金しか得られなかった

ために、未払い差額賃金を求めて訴えを提起した

ファースト事件
(大阪地判平9.5.30 労判738‐91)をあげることができる。


 この事件において裁判所は、新規卒業者を画一的に採用する場合と

異なり、年齢・能力・希望賃金に幅のある中途就職希望者の採用

決定するにあたり賃金の交渉がなされるのが自然であり、

また、他の労働条件の詳細な説明を受けながら、賃金について

説明を受けなかったとする労働者の主張は不自然であり、

就職雑誌の広告とは異なる上記賃金月額が採用面接時に

労働者と使用者の間で合意されていたと認められるとして、

労働者の主張を退けている。


 また、就職情報誌の求人広告で新卒同年次定時採用者と

同等の額の給与を約束する旨の求人広告を見て応募し採用された

労働者が、実際には新卒同年次定時採用者の平均的格付けを

下回る格付けによる基本給によって賃金が算定されたため、

賃金に未払い部分があるとして未払い賃金等および慰謝料を請求した

日新火災海上保険事件
(東京高判平12.4.19 労判787‐35)がある。


 この事件において裁判所は、求人広告は個別的な雇用契約の

申し込みの意思表示とみることはできないとして、未払い賃金の請求を

棄却した。しかし、裁判所は、会社が中途採用者の初任給の格付を決定

していたにもかかわらず、応募者にこれを明示せず、求人広告および

社内説明において、新卒同年次定時採用者の平均的給与と同等の

給与待遇を受けると信じさせかねない説明をし、それを信じて入社した者に

精神的衝撃を与えたことを認め、このような説明は労基法15条に違反し


、「信義誠実の原則」に反するとして会社に慰謝料100万円を命じている。








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