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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                                     安全衛生・健康管理



1.ポイント

(1)健康管理従事者の指示する精密検診の内容・方法

合理的で相当である場合には、

労働者は原則としてこの指示に従わなければならない




(2)労働安全衛生法により、

使用者は一般的に労働者の健康を保持する義務を負う。

しかしこれは労働契約の付随的義務に過ぎないから、

労働者はこのような義務の履行使用者に直接

請求することはできない




(3)H I V肝炎等に関する情報

社会的誤解偏見をもたらす情報であり、

使用者は、HIV・肝炎等の感染に関する従業員個人の情報

取得してはならない

また、たまたま情報を取得した場合

使用者は、これを労働者に告知する際

本人の打撃を回避するための配慮義務を負い、

また、これを第三者に漏洩しない義務を負う。






2.モデル裁判例



  電電公社帯広局事件 最一小判昭61.3.13 労判470‐6



(1)事件のあらまし


 一審原告側労働者X( 被控訴人・被上告人) は、

日本電信電話公社法により設立された公共企業体である

一審被告側使用者Y( 控訴人・上告人) の職員である。

Yの就業規則と健康管理規程は、

心身の故障により療養、勤務軽減等の措置を受けたときは、

健康管理従事者の指示に従い、自己の健康回復に努めなければ

ならないと規定していた。


Yは、全電通道地本と労働協約を締結した上で、頸肩腕症候群

発症後3年以上経過しても軽快しない長期罹患者について、

札幌逓信病院に入院させ総合精密検診を行うこととしていた。

Yは、要管理者として管理指導を受けていたXにこのような検診を

受けるように業務命令を発した。

これに対しXは、「札幌逓信病院は信頼できない」として

業務命令を拒否したため、

公社がこれを理由に従業員を戒告処分とした。



 そこで、Xは、戒告処分の無効確認を求め訴えを提起した。

(2)判決の内容 


労働者側敗訴

 Xに対する戒告処分を有効とした。


 労働者は、労働契約上、健康回復に努める義務があるのみならず、

健康回復に関する健康管理従事者の指示に従う義務がある。

したがって、精密検診が労働者の疾病の治癒回復という目的との

関係で合理性ないし相当性が肯定できるかぎり、

労働者は労働契約上の指示に従う義務を負っているというべきである。


 健康管理従事者の指示する精密検診の内容・方法が合理的で

相当である場合には、労働者はこの指示に従わなくてはならない義務を

負う。この義務を負うからといって労働者の診療を受けることの自由や

医師選択の自由が侵害されるということにはならない。

したがって、Xが総合精密検診を受診すべき旨の業務命令等に違反したことを

理由とするYの戒告処分は有効である。


3.解 説

(1)労働者の受診義務


 わが国においては、労働安全衛生法に規定される法定検診に

とどまらずさまざまな健康診断が行われている(法定外検診)。

法定の健康診断に関しては、労働安全衛生法により受診義務が

あるとされているが、法定外の受診義務については争いがあった。

この点に関して判示したのがモデル裁判例である。就業規則

および健康管理規程に基づき、使用者は必要な指示をなしうるとして、

その合理性・相当性が肯定されれば労働者はこの指示に従う義務を

負わなければならないことを明らかにした。


 法定検診に関して、中学校教諭が胸部X線検診の受診を拒否したことを

理由とする減給処分が争われた

愛知県教育委員会事件( 最一小判平13.4.26  労判804‐15)では、

結核が社会的にも害を及ぼすものであり、学校における集団を防衛する

必要があるという観点から、学校側がX線受診することを命ずることが

できると判断されている。



(2)受診の執拗な要求


 病院長が医師に精神鑑定を含む健康診断を求めたことの当否が

争点となった

国立療養所比良病院事件(大阪高判平7.9.29 労判688‐44)では、

受診を執拗に要求する等方法が尋常さを欠くとして受診命令を強要

したことが違法な行為であるとした第一審判決が覆され、

医師に不審な言動等がみられたことから、病院が医師としての心の

健康状態に関し疑問を抱いたのはもっともであり、職務上の受診命令は

相当であると判断されている。





(3)業務内容の変更請求


 旧労働安全衛生法66条7項(現行の労働安全衛生法66条の5第1項にあたる) は、

使用者が労働者の健康を保持するため必要と認めるときは使用者が実情を

考慮して就業場所の変更等の措置をとらなければならない旨を規定している。




 この規定を根拠に、労働者が業務内容の変更等の具体的措置をとることを

使用者に請求できるか否かが争われた

高島屋工作所事件
( 大阪地判平2.11.28 労経速1413‐3)では、

同条が使用者に命じた行為内容は、労働契約における本来的履行義務

であるとはいえず、付随的義務に過ぎないから、労働者は使用者にその

履行を直接請求することはできないとされた。



(4)エイズ・HIV・肝炎検査


 労働者の健康に関する最近の問題として指摘できるのが

エイズの問題である。

現在までのところ、HIV感染に関する裁判例として

次の3件が存在する。


 @まずH I V感染者解雇事件( 東京地判平7.3.30 労判667‐14) は、

コンピューターシステムに関するソフトウエア業務を営むA会社に雇用され、

タイ王国のB会社に派遣され就労していた労働者が現地病院の無断抗体検査により

HI Vに感染していることが判明し、B会社社長Cからその旨を伝え聞いた

A会社が労働者を急遽帰国させ、HI Vに感染している旨を本人に告知し、

その後に労働者を解雇したという事案である。この事件において裁判所は、

HI V感染を理由とする解雇は社会的相当性の範囲を著しく逸脱した

違法行為であるとし、解雇を無効とし、A会社・B会社・C各自に慰謝料300万円の

支払いを命じた


 また、HI V検査の結果に基づく解雇が争われたT 工業(HI V解雇) 事件

( 千葉地判平12.6.12 労判785‐10) において裁判所は、

HI V抗体検査等を行った会社の行為がプライバシーの権利の侵害行為に

該当するとし、会社に200万円、本人の意思を確認せず検査を行った病院の

経営者に150万円の支払いを命じた。

解雇に関しては、雇用契約はすでに終了しているとして、雇用契約期間満了まで

の賃金請求権のみが認められた。


 また、HI V陽性が判明した者への入校辞退勧告の結果、

警察官が辞退した事案である

東京都(警察学校・警察病院HI V検査) 事件( 東京地判平15.5.28  労判852‐11) に

おいて裁判所は、HI V抗体検査を実施することの必要性を認めることが

できず、プライバシーを侵害する違法な行為として、東京都に対し330万円、

警察病院に対し110万円の損害賠償を認めている。

 さらに、B型肝炎ウイルスに感染していることを理由としてなされた

内定の取消しに関するB金融公庫(B型肝炎ウイルス感染検査) 事件

( 東京地判平15.6.20  労判854‐5)では、金融機関の業務に照らすと、

応募者の能力や適正を判断するために、B型肝炎ウイルスについて

検査すべき必要性は認められず、仮に必要性が肯定できるとしても

本人の同意を得ずにこのような検査を行うことは許されず、

検査を行った行為がプライバシー権侵害に該当するとして、
損害賠償150万円の支払いが認められている。








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