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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                                    安衛・危険業務への就労拒否



1.ポイン

業務に伴う通常の危険を超える生命身体に対する危険がある

業務命令
は、拒否することができる






2.モデル裁判例


  千代田丸事件 最三小判昭43.12.24 民集22‐13‐3050


(1)事件のあらまし


 一審原告側労働者Xら(被控訴人・上告人)は

日本電信電話公社法により設立された公共企業体である

一審被告側使用者Y(控訴人・被上告人)に雇用された者である。

昭和31年日韓間の海底線のある地点において障害が発生した。

Yは、海底線の専用契約を締結している在日米軍から修理の要請

受け、その修理を敷設船千代田丸に担当させることにした。


 その頃、全電通本社支部はこの工事に関する労働条件等に

ついてYと団交中であった。

本社支部は、「Y側が一方的にY側案を押し付けて出航させようと

している」とし、「出航命令が出ても出航に応ずるな」との闘争連絡を

発した。出航命令を受けた千代田丸船長は命令を発したが組合員で

ある一等航海士等所定の職務につかず、出航することができなかった


 Yは、本社支部の三役であるXらが共謀して争議行為をあおり、

そそのかしたものとして

公共企業体等労働関係法(以下、旧公労法)17条に違反したことを

理由に同法18条に基づき解雇した。


 そこで、Xらが雇用関係存在確認の訴えを提起した。



(2)判決の内容


労働者側勝訴

 乗組員には船長の出航命令に従う労働契約上の義務があり、

これに従わない乗務員を解雇したことは適法であると判断した

第二審の判決が破棄された。
 本件における危険は、具体的なものとして当事者間に意識

されており、米海軍艦艇の護衛が付されることによる安全措置が

講ぜられたにせよ、必ずしも十全と言い得ないことは、実弾射撃演習

との遭遇の例によっても知られうるところである。


 このような危険は、労使の双方がいかに万全の配慮をしたとしても、

なお避け難い軍事上のものであって、海底線敷設船である千代田丸

乗組員の本来予想すべき海上作業に伴う危険の類いではない。

また、その危険の度合いが大きなものでないとしても、千代田丸乗組員が、

その意に反して義務の強制を余議なくされるものとはいい難い。


 組合側とYとの間の団体交渉は未だ妥結されず、しかも、本件航海

および海底線修理作業が必ずしも危険がないことを保障されていない

当時の事情のもとにおいて、Yが千代田丸乗組員に対し本件出航を強制

する業務命令を発することは、Yにやむをえない事情があったとしても、

組合側に対しては、十分の説得力をもつ措置とはいい難い。このような

事情のもとにXらを旧公労法17条違反とすることはいささか酷にすぎる。

本社支部のXらが出航を25時間余遅延させたというだけの理由により

なされたXらの解雇は、妥当性・合理性を欠き、Yに認められた合理的な

裁量権の範囲を著しく逸脱したもので無効である。




3.解 説

(1)業務命令の範囲


 旧公労法17条は、職員ならびに組合員及び役員が公共企業体に

対しストライキ・怠業等業務の正常な運営を阻止する一切の行為を共謀し、

そそのかし、もしくはあおってはならないと規定している。また、同法18条は、

17条に違反した職員は解雇されると規定している。モデル裁判例は、

形式的にはこれら旧公労法17・18条の適用の問題である。
 しかし、この判決は使用者が業務命令をどの範囲で発しうるか、という

問題を提供するものでもある。すなわち、労務の提供において生命・身体の

危険を伴う場合、労働者は就労を拒否できるのかという問題である。




(2)業務命令の限界


 使用者の業務命令権については、当然のことながら一定の限界がある。

すなわち、業務命令がその内容に合理性を欠くならば、法的な拘束力はなく、

命令を受けた労働者がこれを拒否しても懲戒処分を受けることはない。


業務命令の範囲は、労働契約の内容によって決まるが、具体的には就業

規則条項の合理的解釈によって定まることになる。


 本件の場合は、命ぜられた業務の内容自体は、海底ケーブルの布設と

いう通常のものであったが、作業場所が軍事的緊張下にあり、その意味で

従業員の生命・身体に対する危険を伴うものであり、これが業務命令権の

一般的限界を超えるものであったかが問われた事案であった。



(3)生命・身体に対する危険


 最高裁は、必ずしも一般論を具体的に展開しているわけではない。

本件修理工事に伴う危険に関して、第二審の判決が単に気分的に

好ましくないと感ずるかまたは相対的・主観的危険に過ぎないと判断した

のに対し、最高裁はこの判断を退け、この危険が単に想像上のものでない

ばかりか、労使双方の万全の配慮によっても避けがたい事実上の危険で

あり、本来予想すべき海上作業に伴う危険の類いではないとした。



 このような特別な危険が現実に存在することを前提とする以上、修理

作業は乗組員本来の労働義務の内容をなすものではなかったと

いわざるをえない。したがって、乗組員がその意に反して義務の強制を余儀

なくされるものではないと判示した。すなわち、労働者の業務遂行において、

本来の予想を超えた生命の危険が現実に起こりうる業務命令は、労働義務の

内容をなすものではないのであって、その危険が必ずしも大きいものでないと

しても、労働者は、その意に反して義務の履行を強制されることはないとした

のである。この最高裁判決により、業務命令が通常の労務提供において予想を

超える生命・身体に対する危険がある場合には、労働者がこれに従う義務がない

ことが明確になった。

(4 )使用者の安全対策が不完全な場合


 使用者には、安全配慮義務があることから、労務提供において予想される

危険に対しては、万全の対策を講じなければならない。したがって、使用者が

労働安全衛生法上の重要な義務を履行しないなど危険回避の措置を怠り、

労働者の生命・身体に現実的な重大な危険があるという場合に、労働者は、

業務命令を拒否することができると考えられる。



(5 )本来危険を伴う業務


 危険が通常の労務提供において予想されたものであったか否かは、通常の

業務内容によって定まることになる。たとえば、消防士・警察官・警備員あるいは

高所作業といった職務は、相当程度の危険が業務に伴うものとして、それが職務の

内容となっていると考えられるが、業務命令が作業に伴う本来の危険を超える場合

には、これを拒否することができる。











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