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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                              

                                                    異動・職種の変更

1.ポイント



(1)採用時の労働契約労働協約および就業規則等により、

あるいは、

労働契約の展開過程職種等を限定する合意が認められれば

原則として、異職種への配転には労働者の承諾が必要となる。


(2)多角経営化技術革新の激しい今日、単に同一の仕事に

長年継続して従事してきたことのみでは

職種を限定する合意が成立しているとは認められ難い


(3)職種限定の合意が認められても

同系統内の然るべき業務に配転するまで合理的に必要な期間内で

異職種への配転認められる場合がある




2.モデル裁判例


  日産自動車村山工場事件 最一小判平元.12.7 労判554‐6

(1)事件のあらまし
 前掲(33)のモデル裁判例参照。二審(東京高判昭62.12.24 労判512‐66) でXらが敗訴となったところから、Xらが上告したのが本件である。

(2)判決の内容


労働者側敗訴確定


 十数年から二十数年にわたって「機械工」として就労してきたもので

あっても、この事実から直ちに、労働契約上職種を「機械工」に限定する旨

合意が成立したとまではいえない。これらの機械工の組立作業等への

配転命令につき、配転命令権の濫用には当らないとした高裁判決が維持された。

この高裁判決では、配転命令が、各人の経験、経歴、技能や個人的希望等を

個別的に考慮することなく行われたものであっても、

次のような事情を総合すると、配転命令権の濫用に当たらないとされた。


 つまり、車軸製造部門の縮小による異動対象者が500名近くの多数に

上り、通勤可能圏内の他の職場でこれを受け入れる余地がなく、

一部の者のみについて他の職場の従業員との入替えを行うことも、

手数が掛かるだけでなく公平確保上の理由からも困難であること。

一方で、今までの工場における新型車の生産要員として異動対象人員を

超える数の従業員を必要とすることになったこと。

これらの諸事情を考慮すると対象者全員につき、それぞれの経験、

経歴、技能等を各別にしんしゃくすることなく一斉に他部門へ配置換え

することとしたのは、企業経営上の判断としてあながち不合理なものとは

いい難いこと。更に、対象者の中に長年他の職種に従事してきた者がいる

ことを考慮してもなお、労働力配置の効率及び企業運営の円滑化等の見地から

やむを得ない措置として是認し得ること、である。



3.解 説

(1)労働契約による職種の制限と配転


 @採用時の合意や専門技能等による職種の限定

 採用時の労働契約・労働協約および就業規則等により、

あるいは、労働契約の展開過程で、職種等を限定する合意が

認められれば、原則として、異職種への配転には労働者の承諾が

必要となる。

医師、弁護士、公認会計士等の専門職、看護士、ボイラーマンなどの

特殊な技術・技能・資格を有する者などには職種の限定があると

見るのが通常の理解であろう

(具体的な限定認定の実際上の困難については後述B参照)。

裁判例で争われた典型例はアナウンンサーの事案である。

しかし、この世界でも後述Bのような配転の範囲拡大の動きが

始まっている。先ず、当初の裁判例は、アナウンサーが難関の専門試験に

合格し、20年近くも一貫して同職に従事してきたなどの事情から、

職種が採用時の契約からアナウンンサーに限定されていたとして、

審査室考査部勤務を命じた配転命令が無効であるとされた

アール・エフ・ラジオ日本事件 東京高判昭58.5.25 労判411‐36等)。


 なお、厳密な職種の概念が定義されていない職場でも、

職種の範囲を、事務職系統の範囲内に限定し、それを超えた現場・

労務職業務系統への配転は無効とされることもある

(ヤマトセキュリティ事件 大阪地決平9.6.10 労判720‐55では、

語学を必要とする社長秘書業務を含む事務系業務の社員から警備業務への

職種変更の配転命令が無効とされた)。

近時でも、

直源会相模原南病院事件
(東京高判平10.12.10 労判761‐118) は、

病院のケースワーカー、事務職員のナースヘルパーへの配転命令が

系統を異にする職種への配転であり、「業務上の特段の必要性及び

当該従業員を異動させるべき特段の合理性があり、かつこれらの点に

ついての十分な説明がなされた場合か、あるいは本人が同意した場合を除き」無効としている。



 A職種限定の合意認定の困難


 技術職の従業員をその技術に関する専門的知識を要するサービス業務や

販売職( いわゆるセールスエンジニア) に配転した

東亜石油事件( 東京高判昭51.7.19 労民集27‐3 ・4‐397)は

職種限定の困難を示す。ここでは、理科大を卒業し、川崎製油所製造部試験室の

LPガス組成分析部門で働いてきた労働者が東京本社のLPガスセールス

エンジニアへの配転命令を拒否したことが、「業務の都合により転勤、

職場・職種の変更を命じうる」との規定に基づく命令違反に当たり、

これを理由とする懲戒解雇は、解雇権の濫用に当らないとしている。

又、何が「職種」かが争われることがあるが、最近の

JR 東日本大宮支社事件( 東京地判平15.12.1  労判868‐36) では、

「出礼」は独立の職制ではなく、「営業係」の職務内容の一つに過ぎず、

労働契約上の地位に当らない、とされ、

高見澤電機製作所事件
(長野地上田支判平16.2.27 労判871‐14)では、

「課間異動」につき、労働者に異動義務ありとされた。


 B職種限定合意の時間的流動化


 例えば、アナウンサーのような特殊技能者であっても、

長期雇用を前提としての採用の場合、当分の間は職種がそれに

限定されているが、相当な期間経過後、一定年齢に達した時点以降は

他の職種に配転されるとの黙示の合意が成立していた、と解される事案も

ある(九州朝日放送事件 最一小判平10.9.10 労判757‐20)。

(2)長期同一業務従事


 @専門技能修得等による職種の限定


 前述. のように採用時には、特約や専門技能がなくとも、採用後の

特別な訓練、養成を経て一定の技能・熟練を修得し、長期間当該業務に

従事してきた者の労働契約が、その職種に限定されている、

とされることがある

日野自動車工業事件 東京地判昭42.6.16 労民集18‐3‐648)。


 A長期雇用による職種限定の流動化


 他方、多角経営化、技術革新の激しい今日、職種の限定の合意は、

単に同一の仕事に長年継続して従事してきたことのみでは認められ難い。

例えば、モデル裁判例のように、20数年間車軸製造に従事してきた機械工を

全員組み立てラインへの配転命令が有効とされている(約21年間にわたり

電話交換の業務についていた労働者の洗い場への配転につき職種限定の

合意はないとされた

東京アメリカンクラブ事件
 東京地判平11.11.26 労判778‐40、

18年間児童指導員に従事してきた者の調理員への配転につき、

児童指導員の職業の専門性、技術性は否定できないものの、

看護婦または国家試験に基づく公的資格ではなく、その職務には、

掃除、洗濯、食事の準備などの日常の家事的業務も含まれていることなどの

事実に照らせば、調理員への配転は業務上の必要性があり有効とした


東京サレジオ学園事件
( 東京高判平15.9.24 労経速1865‐3等参照)。










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