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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                                  異動・配転の意義

1.ポイント

(1)会社は、次の条件が満たされる場合に、


労働者個別的同意なしに配転配置換え、及び転勤の両方を含む)

命ずることができる



@労働協約および就業規則に会社は業務上の都合により配転を

命ずることができる旨の規定があること、

A実際にもそれらの規定に従い配転が頻繁に行われ

B採用時勤務場所・職種等を限定する合意がなされなかった

いうこと、である。



(2)配転、特に転勤は、一般に、労働者の生活関係に大きな影響を

与えるため、上記各基準により、職種・勤務地の限定がない場合でも

使用者の配転命令権権利濫用法理による制限を受ける。



(3)判決が配転命令を無効とするのは、次のような場合である。

@職種勤務地限定が認められる場合。

A配転命令につき「業務上の必要性がない場合」。

B「業務上の必要性が存する場合であっても」、

A.「当該配転命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき」、

又は、

B.配転が、「労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を

負わせるものであるとき」である。




2.モデル裁判例


  日産自動車村山工場事件 東京高判昭62.12.24 労判512‐66

(1)事件のあらまし


 労働者Xら7名はいずれも自動車の製造販売を目的とする使用者Yの

A工場で機械工として、最も長い者で28年10ヵ月間、最も短い者でも

17年10ヵ月間にわたり稼働してきた。

ところが、Yは、世界自動車業界の車軸小型化、駆動装置のFF化に

対応するため、従来A工場にあった車軸製造部門をB工場等に移管し、

A工場において小型乗用車を製造することとなったので、

人員再配置計画に基づき

Xらを単純反覆作業であるコンベアライン作業へ配置換えした。

そこで、XらはYに対し、A工場を就労場所とする機械工の地位に

あることの確認請求と右配置換えが不当労働行為であるとして

不法行為に基づく損害賠償請求をした。

Yは、本件配転におけるYの経営上の必要性及び人選の合理性等を

主張した。

一審(横浜地判昭61.3.20 労判473‐42)はXらの主張を認めたが、

Y側が控訴したのが本件である

(なお、本件は、

上告審最一小判平元.12.7 労判554‐6で上告棄却となり、

X側敗訴で確定している。

後掲(34)[異動]のモデル裁判例参照)。



(2)判決の内容


労働者側敗訴(上告)


 Yの就業規則には、「業務上必要があるときは、従業員に対し、

転勤、転属、出向、駐在、又は応援を命じることができる。

前項に定める異動のほかに、

業務上必要があるときは、従業員に対し、

職種変更又は勤務地変更を命じることができる。

従業員は、正当な事由がなければ第一項及び第二項の命令を

拒むことができない。」との規定があった。

Yでは、「本件配転前にも機械工を含めて職種間の異動が行われた

例のあることが認められる」。

又、「我が国の経済の伸展及び産業構造の変化等に伴い、

多くの分野で職種変更を含めた配転を必要とする機会が増加し、

配転の対象及び範囲等も拡張するのが時代の一般的趨勢である」。

これらの事情に鑑みると、Yは、業務運営上必要がある場合には、

その必要に応じ、労働者Xらに対してその個別的同意なしに職種の変更を

命令する権限を持っている。他方、本件配転によりXらに、従業員として

通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わされている証拠はない。



3.解 説

(1)配転命令権


 企業にとって経営組織を効率的に動かし、多様な能力と経験を

持った人材を育成するためにも、従業員の配置の変更を、

同一の事業所内は勿論(「配置換え」もしくは「配置転換」)、

勤務地の変更を伴っても(「転勤」)、実施すること(両者を一括して

配転)が必要である。この配転を命じる使用者の権能を配転命令権と

言っている。

例えば、「使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の

勤務場所を決定することができるものというべきである」と判示されている

((35)[ 異動] モデル裁判例 


東亜ペイント事件
 最二小判昭61.7.14 労判477‐6)。



(2)配転命令権の根拠


 裁判例は、一般的に、次の条件が満たされる場合に、

労働者の個別的同意なしに配転を命ずることができる、

としている。

@労働協約および就業規則に会社は業務上の都合により配転を

命ずることができる旨の規定があること、

A実際にもそれらの規定に従い配転が頻繁に行われ、

B採用時に勤務場所・職種等を限定する合意がなされなかったと

いうこと、である

東亜ペイント事件・前掲等参照)。




(3)配転命令権の範囲


 そして、モデル裁判例も指摘する通り、

「我が国の経済の伸展及び産業構造の変化等に伴い、

多くの分野で職種変更を含めた配転を必要とする機会が増加し、

配転の対象及び範囲等も拡張するのが時代の一般的趨勢である」

(34)[異動]参照)。



(4)権利濫用法理による制限


 裁判例では、職種・勤務地の限定合意がない場合は、

比較的緩やかに配転命令の一応の有効性を認める傾向に

あるため((34)(35)[ 異動]参照)、実際上の配転命令の

有効性の存否判断の焦点は、配転により従業員が被むる

不利益の程度ということになる。しかし裁判例は、前掲

東亜ペイント事件
判決の判断基準に従い、

モデル裁判例同様、比較的多くの場合、

「家庭生活上の不利益は、転勤に伴ない通常甘受すべき

程度のもの」として、配転命令は権利の濫用に当らないとしている。

たとえば、

名古屋港水族館事件
( 名古屋地判平15.6.20  労判865‐69) は、

労働者の被る不利益として考慮されるのは、労働者の同居の家族の

健康の保持等一定の社会的意義を有するものに限られ、配転後の労働

条件が全体として従前と同等の範疇にある場合、客観的な不利益や差別の

結果が否定される以上、使用者の差別的意図も否定されるのが通常とし、

二度にわたる職務変更(飼育展示課主査から部下なし飼育展示課副長

への昇格、同副長から管理部業務課副長への更迭)をいずれもを適法としている。



 @共稼ぎ夫婦への配慮の程度


 近時、家庭生活への影響の内、共稼ぎ夫婦の事情を考慮した上で

配転命令を有効とした例を挙げておく。先ず、長男を保育園に預けている

女性従業員に対する東京都目黒区所在の事業場から同八王子市所在の

事業場への異動命令が権利の濫用に当たらないとされた

ケンウッド事件
(最三小判平12.1.28 労判774‐7) がある。

なお、

帝国臓器製薬事件( 最二小判平11.9.17 労判768‐16) でも、

同様に家庭生活への影響とのバランスを考慮した上で配転命令が

有効とされている。なお、この類型では、単身赴任手当の支給の有無や

その額、単身赴任した場合の帰郷旅費の支給の有無や額、転勤先の

居住を確保する措置を使用者が取ったかなどにより、労働者の負担の

軽減のための配慮があったかどうかなどの要素が考慮される場合もある

(前掲帝国臓器製薬事件)。



 A労働者の家族に対する療養・看護等の必要性


 前述の使用者と労働者側の事情を比較考量して配転命令を無効と

した典型例としては、労働者において家族の療養・看護等の高度の

必要性がある場合が多い

(古くは日本電気事件 東京地判昭43.8.31 労民集19‐4‐1111等参照)。

前掲東亜ペイント事件以降でも、北海道コカ・コーラボトリング事件

(札幌地決平9.7.23 労判723‐62)では、会社の帯広工場から札幌

本社工場への転勤命令につき、労働者の長女が躁うつ病、次女が精神

運動発達遅延の状況にあり、また両親の体調不良のため、家業の農業の

面倒をみているという家庭状況からすると、人選に誤りがあるとして、また、

ネスレジャパン事件
(神戸地姫路支決平15.11.14  判時1851‐151)では、

総合食品会社の従業員に対する姫路工場から霞ケ浦工場への転勤命令に

ついて、妻(精神病で通院加療中)や母(母が高齢で介護を要する)の援助や

介護の必要性、子供の養育(子供2名の受験)等を理由に、いずれも、業務上の

必要性が認められながら、労働者に対し通常受忍すべき程度を著しく超える




不利益を負わせるものであるとして、権利の濫用に当たり無効とされている。








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