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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                                企業年金



1.ポイント

(1)経済不況等により経営が悪化し、そのため財政状況が苦しくなった企業が、

退職金企業年金減額ないし廃止する。


(2)まず、厚生年金基金適格退職年金では

法令認可基準等により、一定の要件のもと認められる場合がある。

モデル裁判例のように

退職年金(自社年金)の場合は、

退職一時金の減額等の場合と同様、

就業規則の不利益変更」の枠組みにより判断されることになる。



(3)特に、退職して年金を既に受給している者に対しては、

上記のような不利益変更を行うことができるのか否かが争点となる。




2.モデル裁判例


  幸福銀行(年金打切り)事件 大阪地判平12・12・20 労判801‐21

(1)事件のあらまし


 被告Yは銀行業を営んでおり、

原告Xらは退職した元従業員207名であった。


Yの退職金規程には、退職一時金とは別に

退職年金も規定されており、

後者につき、勤続20年以上の退職者が満60歳に達したとき、

本人の申し出により勤続年数や退職時の職位に応じて終身支給

されることと規定されていた。


ただし、同規程の付則には、経済状勢等によりこの規程を改訂することがある旨

条項が置かれていた。


 Yは、退職年金の制度創設後、規程額を超える年金を上積支給

するようになったが、バブル経済崩壊後の業績悪化のため、

平成8年にこの上積支給を廃止した

(後掲のとおり別件訴訟がある)。

しかし、その後もYの業績は悪化の一途を辿り、

平成11年には事実上経営破綻するに至った。

こうした経緯をへて、Yは、Xらを含む退職年金受給者に対し、

退職年金支給契約の解約と一時金(退職年金の3ヵ月分相当額)を

支払う旨を一方的に通知し、退職年金の支給を打ち切った。

そこで、Xらは、このような退職年金の打切りは違法無効であると主張して、

訴訟を提起した。



(2)判決の内容



労働者側勝訴(ただし、一部労働者は敗訴)


 まず、Yにおける退職年金請求権の発生根拠に関しては、

「退職金規程を内容とする労働契約」に求めることができる。

これに対し、退職年金支給契約が別途に締結されていた旨の

Yの主張は認めることはできない。

次に、退職年金請求権の法的性格に関して、

Yの退職年金は、その内容等からして、賃金の後払的性格は希薄であり、

現在では功労報償的な性格が強いとはいうものの、

「労働に対する対償、すなわち労働基準法11条にいう賃金としての性格が

全く否定されるものではない」。


 以上のことを踏まえると、まず、Yによる退職年金支給契約上

留保された改訂権行使の主張については、前述のとおりその契約の

成立自体が認められない。また、「退職年金請求権の発生根拠が

Yの退職金規程を内容とする労働契約にあるとした場合でも」、

Yの「退職金規程に規定されている改訂権は、あくまで退職金規程の



改訂権であり」、その適用を受ける在職者に対する権限であって、

退職金規程の適用を受けなくなった退職者がすでに取得した退職年金

受給権を個別に解約する権利を留保したものではない。

よって、YがXらの退職年金受給権を喪失させる解約権を有していたとは

認められない。次に、Y主張の事情変更の原則による解約につき、「バブル

経済崩壊といわれる経済状勢の変動」等は事情の変更に該当せず、また、

退職年金支給打切りの際になされた月額3ヵ月分相当の支払いは、適正妥当な

代償措置などとは認められない。


 したがって、結局、Yによる支給打切りは違法、無効というべきである。

ただし、Xらのうち退職年金の受給資格を満たしていない者の請求等は棄却する。






3.解 説

(1)企業年金(退職年金)について


 退職金や企業年金は、労働者の退職後(特に老後)の生活を

保障するために非常に重要なものである。従来からそのような

退職金・企業年金の制度を設け運用してきた企業においては、

労働者もある程度その退職金・退職年金等を期待して生活設計

している場合(住宅ローンの支払いなど)も多い。したがって、

この退職金・退職年金等が企業の都合により減額ましてや廃止

されたりすることは安易に認められるべきではない。しかし、問題は、

経済不況のもと企業の経営状態がかなり悪化した場合において、

そのような減額ないしは廃止が認められるか否かであろう。



 モデル裁判例は、退職した者が既に支給を受けていた退職年金

自社年金)の支給打切りが直接争われた初めての事案として注目に

値する。判決は、既に退職し退職年金を受給している者には、就業規則等を

改訂してもその効力が及ばないと判断し、また、事情変更の原則の適用をも

否定して、退職年金の支給打切りを違法・無効であるとしている。退職者の

老後の生活保障を重視する観点からすると、改訂された退職金規程の適用を

受けるのは在職者だけであるとした点、また、容易に事情変更を肯定

しなかった点においてこの判決は評価でき、一般的には妥当な結論を

導いたものといえよう。ただし、金融再生法による破綻処理を受けた銀行に

おける事案という特殊性が存し、この点を考慮に入れると、この事案に

限っては支給打切りを違法とした結論が果たして妥当であったか否か、

賛否両論分かれるところであろう。しかし、今後は銀行だけでなく他の業種に

おいても、企業が破産した後で同様に退職年金の支給打切り等が問題に

なるケースが発生するおそれがあり、逆にこの点でもモデル裁判例は先例と

しての意義を有するであろう。




(2)その他の裁判例


 モデル裁判例に先立って、別途Yの退職年金の減額措置について

争われた

幸福銀行事件
( 大阪地判平10.4.13 労判744‐54) がある。

同事件においては、経営悪化を理由に、規程額を超え上積支給

されていた退職年金部分を減額し、平成8年4月より規程額を支給

するとした会社側の減額措置の有効性が争われた。判決は、退職年金の

規程額を超える上積支給部分については、「退職金規定上支払義務のない

ものである」(退職後労働者らに交付された年金通知書により個別合意が

成立したものと捉え、その個別合意を根拠に会社側の支払義務を肯定している)等と

述べたうえ、年金通知書記載の改訂条項を有効と判断している。もっとも、

退職年金の減額は、改訂条項にいう事情やそれに準ずるような一定の合理性

及び必要性が認められる場合にのみ許されるとしているが、その事案での

会社側の減額措置は一定の合理性及び必要性が認められることから有効で

あるとの判断を下している。なお参考までに、Yから他社に出向した者についての

退職一時金および退職慰労金の支払義務がYに存するか否かが問題となった

別件事案として、

幸福銀行(退職出向者退職金)事件(大阪地判平15.7.4 労判856‐36)がある

(Yの支払義務を否定)。


 その他、在職中の労働者との関係で、退職年金制度(独自年金制度)の

廃止が就業規則不利益変更の効力の問題として争われた名古屋学院事件

(名古屋高判平7.7.19 労判700‐95)、及び、破産会社菱宣破産管財人

事件
( 東京地判平14.3.5 労判829‐94(要旨))等がある。また、覚せい剤

取締法違反で逮捕されたことが、企業年金の受給資格の取消事由となるか

否かが争われた裁判例に

朝日新聞社(会社年金)事件
( 大阪地判平12.1.28 労判786‐41) がある。

さらに、原告会社が訴外生命保険相互会社との間で企業年金保険契約を

解約した際に、被告従業員に解約払戻金が支払われたが、その後原告が

被告に対し、労働契約上の退職年金支給事由が発生していない等として、

その払戻金の返還請求等を行った裁判例に

ボーセイキャプティブ事件
(東京地判平15.9.9 労判865‐88)

がある。退職金・退職年金についての債権差押命令に基づく取立権の

行使が問題となった裁判例としてD社・S 社(取立債権請求)事件

(東京地判平14.2.28 労判826‐34)等がある。


 なお、企業年金に関しては、周知の通り平成14年4月より確定給付

企業年金法および平成13年10月より確定拠出年金法という二つの


新たな法律が実施されている。








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