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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                              起訴休職



1.ポイント

(1)「起訴休職」とは、

刑事事件に関し起訴された者を一定期間または判決確定までの間休職と

するものである(公務員の場合には国公法79条2号等)。


(2)起訴休職が有効と認められるためには

就業規則等に起訴休職の規定があるだけではなく、

@企業の対外的信用の維持

A企業の対内的な職場秩序の維持

B不安定な労務提供に対処して業務に支障が生じるのを防止すること

の3要件の内の

少なくとも1つが存在することが必要である。

もっとも、各要件に該当するかについても、詳細に検討する必要があり、

容易に起訴休職を認めるべきではない





2.モデル裁判例


  日本冶金工業事件 東京地判昭61.9.29 労民集37‐4・5‐363

(1)事件のあらまし


 労働者Xは、昭和46年7月26日成田新空港建設反対闘争に参加し

凶器準備集合罪および公務執行妨害罪の容疑で逮捕、勾留されて、

同年8月16日起訴、Xは同年11月22日に保釈された。

冶金業を含む使用者Yは就業規則46条「従業員が次の各号に

該当するときは原則として休職を命ずる。7刑罰法規に違反して

起訴され刑の確定しないとき」および労働協約28条1項7号(同趣旨)を

適用して昭和47年1月14日労働者を休職処分とした。

そこで、Xが休職処分の効力停止、賃金支払い、入構妨害禁止の

仮処分を申請した。



(2)判決の内容

労働者側勝訴


 申請を一部認めた。使用者の休職処分は使用者就業規則46条7号の

適用を誤ったもので無効であるとして、

休職処分の効力停止、賃金の支払いを命じた。


 いわゆる起訴休職制度は、

「刑事裁判が確定するまで従業員としての身分を保有させながら

一時的に業務から排除して、企業の対外的信用の確保と職場秩序の

維持をはかり、労務提供の不安定に対処して業務の円滑な遂行を

確保する」にある。

このような起訴休職制度の趣旨・目的からすると、その「従業員を起訴

休職に付することができるのは」、その「従業員が起訴されたこと又は

起訴後も引き続き就労することによって、企業の対外的信用が失墜し、

又は職場秩序の維持に障害が生ずるおそれがある場合、あるいは」、

その「従業員の労務の継続的な給付や企業活動の円滑な遂行に障害が

生ずるおそれがある場合に限られると解すべきである」。


 この件においては、Xの起訴事実は、「Y製造所の業務にも労働者担当

職務にも関連がない」。しかもXの地位は「約1,900名の従業員が従事する

製造所のいわば末端一従業員に過ぎ」ず、Xを「引き続き就労させたからと

いって使用者の対外的信用確保にそれ程影響」はない。

また、Xは「ステンレスの薄板及び帯鋼の製造という単純労務に従事する

一従業員にすぎず、その抱懐する思想信条によつて仕事の遂行が左右される

ようなものではない」。したがって、Xが「引き続き業務に従事するとしても、

これにより職場秩序の維持に悪影響を生ずるものとは考えられない」。さらに、

Xは「休職処分発令当時既に保釈されていたのであるから」、公判期日に

出頭する場合に欠勤せざるを得ないとしても、有給休暇の取得をもって十分

対処することができるものと考えられる。したがって、その刑事裁判が継続したと

しても、被告の業務にそれ程大きな支障が生ずると認めることはできないから、

これを休職処分事由とすることはできないというべきである。



3.解 説

(1)裁判例における起訴休職処分の有効要件


 従来からの判例は起訴休職が有効であるためには、

就業規則等に起訴休職の規定があるだけでは足りず、

@企業の対外的信用の維持、

A企業の対内的な職場秩序の維持、

B不安定な労務提供に対処して業務に支障が生じるのを

防止することの3要件の内の少なくとも1 つが存在しなくては、

起訴休職制度または処分が合理的でないとしており

日本クリーナー事件 横浜地決昭40.11.26 労民集6‐6‐1002等)、

近時の裁判例もそれを踏襲している

大阪府教委事件 大阪地判平5.9.3 労判643‐57 等)。




(2)起訴休職制度適用上の問題点


 起訴休職制度を定めた就業規則が有効であるとしても、

その就業規則の適用は慎重に行なわれるべきである。

すなわち、当該起訴自体によって、

@対外的信用、

A企業秩序が害されるという要件については、

当該従業員の職務内容並びにその起訴の対象となった事件の

性格等から総合的に判断して、当該従業員を継続就労させることが、

企業の正常な運営を阻害することが客観的に明らかであることが

必要であると解すべきである。この際、従業員の労働契約が、

一定の職種・職場に限定されていると解される場合を除いて、

その職種・職場に代替可能性があり、配置転換によって、

@対外的信用、

A企業秩序への侵害が回避されうるならば、

使用者は休職処分を回避して、配転措置の可能性をまず

追求すべきである。

また、?労務提供の支障も、身柄拘束されている場合はともかくとして、

有給休暇等でやりくりしうる出廷予定日数の場合には、

該当しないと言うべきである

(今野順夫「休職・退職・定年」現代労働法講座10巻178頁以下参照)。


 この点、多くの裁判例は、被告人が勾留を受けている場合にのみ

認められており、在宅起訴や保釈をされていて、単に公判出頭の際のみ

労務提供上の支障を生ずるに過ぎない被告人については、

認められていない。


 なお、このような考え方に立てば、起訴休職処分が当初は上記の

いずれかの要件に合致して有効であったとしても、

休職期間の途中において保釈や一審での無罪判決等によって

その要件をみたさなくなった場合には、休職事由が終了したものとして

使用者は復職措置をとらなければならないであろう

全日本空輸事件 東京地決平9.5.28 労判727‐82)。












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