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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                                      傷病休職

1.ポイント

(1)「休職」とは、

ある従業員について労務に従事させることが不能または不適当な事由が

生じた場合に、使用者がその従業員に対し労働契約関係そのものは

維持させながら労務への従事を免除することまたは禁止することをいう。


(2)「傷病休職」とは、

業務外の傷病による長期欠勤一定期間に及んだときに行われる

休職のことである。

傷病から回復(治癒)し就労可能となれば休職は終了し復職となるが、

回復せずに期間満了となれば、自然(自動)退職または解雇となる。


(3)「治癒」とは、

原則として「従前の職務を通常の程度行なえる健康状態に復した時」をいう。

ほぼ平癒したが従前の職務を遂行する程度には回復していない場合には、

復職は権利として認められない。

もっとも、当初は軽易業務に就かせれば程なく通常の業務へ復帰できるという

回復ぶりである場合には、

使用者がそのような配慮を行なうことを義務づけられる場合もある

ので注意が必要である。


2.モデル裁判例


  エール・フランス事件 東京地判昭59.1.27 判時1106‐147

(1)事件のあらまし


 私傷病により長期欠勤した労働者Xが、治癒したことにより復職可能との

診断書を添えて、復職の要求をしたにもかかわらず、

使用者Yはその要求を拒否し休職期間満了を理由に退職扱いと

したことから、Xが従業員たる地位の保全等の仮処分を申請した。



(2)判決の内容

労働者側勝訴

 休職期間満了を理由に退職扱いしたことは違法・無効であるとした。

 就業規則における、従業員が勤務に起因しない障害を受けたような場合に、

一定期間経過後は退職とみなされるとする自然退職の規定は、

病気休職制度や傷病により労務の提供が不能となった労働者が直ちに

使用者から解雇させられることのないよう一定期間使用者の解雇権の行使を

制限して労働者を保護する制度である。このことから考えれば、

従業員が傷病は治癒したとして復職を申し出たのに対して、

使用者が復職を拒否する場合にあたっては、自然退職の規定の合理性の

範囲を逸脱して使用者の有する解雇権の行使を実質的に容易ならしめることの

ないように慎重に考慮しなければならない。


 したがって、使用者が、復職を否定して休職期間満了による自然退職扱いに

する場合にあっては、使用者が当該従業員が復職することを容認しえない

事由を主張立証してはじめてその復職を拒否して自然退職の効果の発生を

主張しうるものと解するのが相当である。




3.解 説

(1)休職の概念


 「休職」とは、ある従業員についての労務に従事させることが不能または

不適当な事由が生じた場合に、使用者がその従業員に対し労働契約関係

そのものは維持させながら労務への従事を免除することまたは禁止する

ことをいう。

「休職」という用語は、官公労働者を規律する法律(国公法79 条2 号等) には

みられるものの、民間労働者に関しては別段法律上の概念ではない



(2)休職の具体例


 休職は労働協約や就業規則の定めに基づく使用者の一方的

意思表示(形成行為)によってなされるケースが多いが、労働者との

合意によってなされる場合もある。前者の例としては出向のための

業務休職、私傷病休職、起訴休職、懲戒休職などがあり、後者の例と

しては公務就任、海外留学などの期間中になされる自己都合休職、

組合専従期間中の休職などがある。これらの場合には、休職をもたらした

事由が終了すれば復職することが予定されている。なお、労使双方の都合に

よらない休職(天災事故休職、伝染病休職など)もある

(今野順夫「休職・退職・定年」現代労働法講座10巻

(総合労働研究所)178頁参照)。



(3)休職中の賃金等


 休職期間中の賃金・勤続年数との関係等の処遇においては企業ごとに、

また休職事由ごとにその取扱いは様々である。もっとも、一般的傾向としては、

本人の自己都合または本人の帰責事由による休職の場合には賃金は支給

されず、かつ勤続年数への算入も行われない(または低い比率で行われる)

ことが多いのに対し、会社の都合による休職の場合にはその内容に応じ60%

から100%の範囲で賃金が支給され、かつ勤続年数への算入も高い比率で

行われているようである。



(4)傷病休職の意義


 傷病休職は、労働協約等に基づいて使用者の一方的な意思表示に

基づいてなされることが多い。休職期間の長さは通常勤続年数や傷病の

性質に応じて異なって定められる。この期間中に傷病から回復し就労可能と

なれば休職は終了し、復職となる。これに対し、回復せずに期間満了となれば、

自然(自動)退職または解雇となる。



(5)傷病休職に関する問題点


 多くの場合、傷病休職は無給であり(但し、健康保険から傷病手当金等の

給付はある)、勤続年数にも算入されないことから、休職の必要性・休職原因の

存否が問題となる。また、傷病休職は上記の通り、休職期間中に傷病が治癒

すれば復職となり、治癒せずに休職期間が満了すれば自然退職または解雇と

なる。そこで、復職の要件たる「治癒」が備わったか否かに関して争いが生じる。

「治癒」している場合には、当然の復職(休職終了)となる場合と、使用者の復職

(休職を解く)意思表示を要する場合がありえよう。そこで、問題となるのが治癒の

概念である。判例は「治癒」とは、原則として「従前の職務を通常の程度行なえる

健康状態に復した時」

平仙レース事件 浦和地判昭40.12.16 労民集16‐6‐1113) をいい、

したがって、ほほ平癒したが従前の職務を遂行する程度には回復して

いない場合には、復職は権利として認められないのが原則となる

アロマカラー事件 東京地決昭54.3.27 労経速1010‐25)。

しかし、モデル裁判例のように、当初は軽易業務に就かせれば程なく

通常の業務へ復帰できるという回復ぶりである場合には、使用者が

そのような配慮を行なうことを義務づけられる場合もあるので注意が

必要である。


 また、同一の疾病にかかわる休職期間の通算に関して争われ、

通算が適法とされた例

(日本郵政公社(茨木郵便局)事件(大阪地判平15.7.30  労判854‐86))も

出ており、実務的には、同種の断続的欠勤を反復する例が少なくなく、

休職規定等における濫用的利用への歯止め条項の整備が必要な時代に


入ったとも言えるので、その点も改めて注意すべきである。








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