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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ



                                        懲戒・調査協力義務



1.ポイント

 他の労働者の企業秩序違反事件に関する使用者の調査

労働者が協力義務を負うのは次の二つの場合である。


(1)調査に協力することが労働者の職責に照らして職務内容になっている場合

すなわち、管理職等のように他の労働者に対する指導、監督ないし企業秩序の

維持などを職責とする者であって、調査に協力することが、

労働契約上の労務提供義務の履行そのものである場合。


(2)調査に協力することが労働者の職務の内容になっていない場合

あっても、労働者が労務提供義務を履行する上で調査に協力することが

必要かつ合理的であると認められる場合

(調査対象である違反行為の性質、内容、労働者の違反行為見聞の

機会と職務執行との関連性、より適切な調査方法の有無等、諸般の

事情から総合的に判断する)。

2.モデル裁判例


  富士重工業事件 最三小判昭52.12.13 民集31‐7‐1037

(1)事件のあらまし


 一審原告側労働者X(被控訴人・上告人)は、

自動車・鉄道車両・航空機等の製造・修理・販売をおもな業とする

一審被告側使用者Y( 控訴人・被上告人) の従業員である。

Xは、社内で従業員を対象として、原水爆禁止の署名集めおよび

活動資金調達の運動を行っていた同僚Aに資金調達のための

ハンカチ作成を依頼された。

Yはこの活動を知り、Xから事情を聴取した。Xは、ハンカチを作成したこと、

Aに依頼されたことなどは認めたが、企業内原水禁実行委員会に

関する質問には答えなかった。


 Yは、Xの態度が、就業規則に規定する譴責

(懲戒処分の中で最も軽いもの。義務違反に対して警告し、

将来を戒めること)・減給事由に該当するとして譴責処分を行った。

これに対しXは、労働協約所定の苦情処理委員会に苦情を

申し立てたが、棄却された。


 そこでXは、処分を受ける必要のないことの確認を請求する訴えを提起した。


(2)判決の内容
 
労働者側勝訴

 Xの調査協力義務の存在を認めた第二審の判決を破棄した。

 労働者は、企業の調査に協力することが労働者の職務の内容と

なっていない場合には、調査に協力することが職務を遂行する上で

必要かつ合理的であると認められる場合に限り、労働者は調査協力義務を負う。


 本件では、調査に協力すべきことが労働者の職務内容となっていたとは

認められない。労働者に対する具体的な質問事項の内容が、

Aの就業規則違反の事実を具体的に聞き出そうとするのではなく、

原水爆禁止運動の組織、活動状況等を聞き出そうとしたものであった。

また、Xらに対するハンカチ作成依頼の件も、Yはそれが休憩時間中に

されたものであることを知っていたのであるから、Xが調査に協力することが

職務遂行にとって必要かつ合理的であったとは認めがたい。

Xには本件調査に協力すべき義務はなく、本件懲戒処分は違法無効と


いわなければならない。

3.解 説

(1)従業員が調査協力義務を負う場合


 モデル裁判例は、使用者が、従業員の職場規律違反の調査に

ついて、他の従業員に対してどのような場合に協力を求めることが

できるかという問題が問われたものである。


 この問題について、最高裁は、労働者が企業秩序違反事件において

調査協力義務を負うのは次の二つの場合であることを明確にした。


 第一は、管理職などのように、その職責からして職場秩序維持に

責任を負っているために、調査に協力することが職務の内容と

なっており、調査に協力する義務が労務提供義務の履行そのもので

あるといえる場合である。


 第二は、一般の従業員であっても、労働契約上、職場秩序維持に

関する義務を負っていると認められる場合である。



(2)調査協力義務の存否に関する具体的判断


 この義務に関しては、具体的には、調査対象である違反行為が

どのような性質・ 内容を有するものであるのか、労働者がこれを知る

ためにいかなる機会を有していたのか、この違反行為が労働者の

職務遂行とどのような関係にあるのか、ほかに適切な調査方法がない

のか、などを総合的に判断することによって調査協力義務の存否が

決せられることになる。


 モデル裁判例二審判決は、企業の苦情処理委員会において労使の

代表委員が全員一致でXには調査協力義務があり、かつ、その違反が

あると認定判断していることを重視し、この苦情処理委員会の判断が尊重

されるべきであり、本件懲戒処分は妥当なものであって違法無効とは

いえないとした。これに対し、最高裁は、苦情処理委員会の判断は、調査

協力義務の存否に関する一つの判断資料として考慮するとしても、懲戒事由が

存在するかどうかの問題は、最終的には懲戒処分の適否を審査する裁判所の

判断に服すべき問題であるとした。



 モデル裁判例においては、調査に協力することが労務提供義務を履行する

上で必要かつ合理的であったかどうかという判断基準に基づいて検討した

結果、Xの調査協力義務を否定している。このように、モデル裁判例は、労働者に

労働契約に職場秩序維持義務があるからといって、使用者の調査について、

無限定的な協力義務があるわけではなく、使用者の調査には制約があることを

明確にしたことに大きな意義を有する。



(3)調査方法



 このほかに労働者に対する調査に関する事件として、

東京電力塩山営業所事件
(最二小判昭63.2.5 労判512‐12)がある。


 この事件は、公開されるべきでないとされていた情報が外部に漏れ、

共産党の機関紙である赤旗に報道されたことから、その取材源ではないかと

疑われていた女性従業員に対して、東京電力の営業所の所長が共産党員で

あるか否かを問い質し、かつ、これを否定した女性従業員に対して、共産党員

ではない旨を書面にして提出するように求めた事案である。


 この事件で裁判所は、調査方法が相当性に欠ける面があるものの、赤旗の

記事の取材源ではないかと疑われていた女性従業員に対し、共産党との

係わりの有無を尋ねることには、その必要性・合理性を認めることが

できないわけではなく、また、本件質問の仕方も、返答を強要するもの

ではなかったというのであるから、社会的に許容しうる限度を超えて女性

従業員の精神的自由を侵害したとはいえないとして、損害賠償の請求を棄却

している。








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