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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ



                                           就労請求権

1.ポイント

(1)就労請求権とは、労働者が

使用人に対し自己を就労させることを請求する権利をいう。

(2)就労請求権については、

労働(就労)は義務であって権利ではないという考え方に基づき、

特約のある場合特別の技能者である場合を除いて認められていない


2.モデル裁判例


  読売新聞社事件 東京高判昭33.8.2 労民集9‐5‐831

(1)事件のあらまし


 労働者は、昭和30年3月大学を卒業し、

昭和29年10月及び11月に行なわれた使用者の

定期入社試験に合格し、昭和30年3 月20日に健康診断を経て、

同年4 月1 日に会社に雇用され、見習い社員として勤務していた。

ところが、見習期間満了の日である同年9 月30日、就業規則103条3 号に規定する


やむを得ない会社の都合によるとき」という理由により解雇の意思表示を受けた。

そこで、労働者は解雇の意思表示の効力停止および賃金支払い

仮処分申請とともに就労妨害排除の仮処分申請を行なった。


 一審は、就労妨害排除の仮処分についてのみ申請を却下したが、

それを不服とする労働者が抗告を行なった。



(2)判決の内容


労働者側敗訴(抗告棄却)


 「労働契約においては、労働者は使用者の指揮命令に従って

一定の労務を提供する義務を負担し、使用者はこれに対して

一定の賃金を支払う義務を負担するのが、その最も基本的な

法律関係である。

このことから、労働者の就労請求権について労働契約等に

特別の定めがある場合等を除いて、一般的には労働者は就労請求権を

有するものでない
と解するのを相当とする。

この件においては、抗告人に就労請求権があるものと認めなければ

ならないような特段の事情はこれを認めるに足るなんの主張も資料もない。

のみならず、裁判所が労働者の就労に対する使用者側の妨害を禁止する

仮処分命令を発しうるためには、その被保全権利の存在のほかに、

かかる仮処分の必要性が肯定されなければならない。

この仮処分においては、相手方のなした抗告人に対する解雇の

意思表示の効力の停止と賃金の支払いを求める限度において

労働者の申請は認容されたものである。このことから考えれば、

この労働者は特段の事情のない限り、それ以上進んで就労の妨害

禁止まで求め労働者としての全面的な仮の地位までも保全する必要は

ないものといわなければならない。」



3.解 説

(1)裁判例における就労請求件の肯否


 昭和20年代半ばの裁判例においては、労務請求権を肯定するものも

みられたが、その後消極的立場の判例が多くなり、今日ではいわゆる

例外的肯定説に立つのが判例の傾向であるといえる。


 モデル裁判例は、「労働者の就労請求権について労働契約等に特別の

定めがある場合又は業務の性質上労働者が労務の提供について特別の

合理的な利益を有する場合」には例外的に肯定するとし、いわゆる例外的

肯定説の立場に立つことを明言した点に特徴がある。その後の判例は、

基本的に本判決の枠組みに基づいて判断を行なっているといえる。



(2)「特別の合理的利益」を認めた裁判例


 例外的肯定説を採用した上で、

「特別の合理的な利益」を肯定した唯一の裁判例として

レストラン・スイス事件(名古屋地判昭45.9.7 労経速731‐7)がある。


 上記判決は、出向拒否を理由に解雇された調理人の仮処分事件で、

一般的な労務請求権は否定しながらも、

調理人はその仕事の性質上単に労務を提供するというだけでなく、

調理長等の指導を受け、調理技術の練磨修練を要するものであることは

明らかであり」、「調理人としての技量はたとえ少時でも職場を離れると

著しく低下するものであることが認められるから、

申請人は業務の性質上労務の提供につき特別の合理的理由を

有する者と言って差支えなく、申請人は被申請人に対し労務請求権を

有するものと考える」として例外的に労務請求権を肯定している。



(3)原則的肯定説に立つ裁判例


 これに対して労務請求権を肯定した裁判例として

高北農機事件
(津地上野支決昭47.11.10 労判165‐36)がある。

上記判決は

@労働契約関係が特定人間の上の信頼関係であり、強度の信頼関係を

必要とすること、

A就労請求権肯定の実質的理由としての就労の利益(労働による

人格的成長の達成)と不就労の不利益(就労しないことによる技能の低下、

職歴・待遇上の不利益、職務上の資格喪失の危険)などに着目し

就労請求権を認めている。しかしながら、

@については、一般的就労請求権を肯定する論拠としては薄弱であること、

Aについては労働者一般に妥当するものとは考えがたいこと

(楢崎二郎「労働契約と就労請求権」現代労働法講座10巻26頁以下参照)などの

批判が加えられている。



(4)学説の概観


 学説においては労働者の自己実現等を根拠とする有力な肯定説が

存在する(下井隆史「労働契約法の理論」103頁以下)。

しかしながら、労働の自己実現という性格は、資本主義における労働に

ついては否定されるものである(横井芳弘「就労請求権」

受験新報昭53年3 号44頁以下参照) との有力な批判がある。

結局、就労請求権を肯定する学説は必ずしも法的構成に成功している

とはいえず、判例と同じく例外的肯定説が今日では通説といえよう

(清正寛「就労請求権」別冊ジュリスト136号36頁以下参照)。









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