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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                             試用期間



1.ポイント


(1)採用するに当たり試用期間を設けるとしても、

労働契約自体すでに成立しているとみなされる。


(2)試用期間中の解雇(解雇権の所在)は、

企業が当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を、

試用期間中の勤務状態等により知るに至り、

その者を引き続き雇用することが適当でない

判断することに合理性がある場合に限って許される。




2.モデル裁判例



  三菱樹脂事件 最大判昭48.12.12 民集27‐11‐1536

(1)事件のあらまし


 一審原告側労働者X(被控訴人・被上告人)は、

大学卒業と同時に合成樹脂のパイプ、板等の製造販売を業とする

一審被告側使用者Y(控訴人・上告人)に採用されたが、

3ヵ月の間の試用期間満了直前に、本採用拒否の告知を受けた。

本採用拒否の理由は、Xが大学在学中に学生運動に従事した事実

身上書に記載せず、また、面接の際にも秘匿したことが詐欺に該当し、

また、管理職要員としての適格性を否定するというものであった。

そこで、Xは、労働契約に基づく権利の確認賃金の支払いを求めた。



(2)判決の内容


労働者側敗訴


 労働者の雇用契約上の権利を認めるとともに賃金の支払いを命じた

第二審の判決を破棄し、東京高裁に差戻した。


 試用契約の性質の判断については、

就業規則の規定のみならず、

事実上の慣行の状況を重視すべきである。

会社においては大学卒業の新規採用者を試用期間終了後に

本採用しなかった事例はかつてなかった等の事実により、

Xに対する本件本採用の拒否は、雇入れ後における解雇にあたる。

この試用期間を設けた雇用契約における試用期間中の解雇は、

通常の解雇よりも広い範囲における解雇の自由が認められる。



しかし、企業が採用決定後の調査結果、または試用期間中の勤務状態等に

より当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに

至った場合に、その者を引き続き企業に雇用しておくのが適当でないと

判断することに合理的理由がある場合に限られる。


 Xを解雇しうる客観的に合理的な理由となるかどうかを判断するためには、

Xに秘匿等の事実があったかどうか、秘匿等にかかる団体加入や学生運動参加の

内容、程度等にとくに違法にわたる行為があったかどうか、

ならびに秘匿等の動機、理由等に関する事実関係を明らかにする必要が

ある。これらの事実関係に照らして、Xの秘匿等の行為および秘匿等に

かかる事実が同人の入社後における行動、態度の予測やその人物評価等に

及ぼす影響を検討し、それが企業の採否決定につき有する意義と重要性を勘案し、

これらを総合して上記の合理的理由の有無を判断しなければならない。




3.解 説

(1)解約権付きの労働契約の成立


 試用期間中の使用者による解約権行使が問題となった事件において、

裁判所は、ほぼ一貫してモデル裁判例最高裁判決のように試用期間中に

労働契約がすでに成立しているとする立場をとっている。

ただし、この労働契約は、試用期間中に使用者が特別な解約権を行使する

ことができるという特別なものである。




(2)解約権行使の相当性

 多くの裁判例は、試用期間中の解約権の行使に関し、

客観的に合理的な理由があり社会通念上相当と是認されるもの

でなくてはならないとしている。

すなわち、採用当初知ることができなかったような事実が

試用期間中に判明し、その者を引き続き雇用しておくのが適当でないと

判断することに客観的合理性が認められるような場合に

解約権行使が相当であるとされるのである。



 客観的合理的理由に関し、例えば

雅叙園観光事件(東京地判昭60.11.20 労判464‐17)では、

周囲と悶着が絶えなかった等の労働者の行為を就業規則が

解雇事由の一つとしてあげている

「就業態度が著しく不良で他に配置転換の見込みがないと認めたとき」に

該当するとされ、解雇が有効と認められている。

これとは反対に、

テーダブルジェー事件
(東京地判平13.2.27 労判809‐74)では、

会長に声を出して挨拶しなかったという解雇理由が社会通念上相当性を

欠くものとされ、解約が無効とされている。





(3)長期の試用期間


 試用期間の「期間」が問題となる場合もある。


 この問題に関し、

ブラザー工業事件(名古屋地判昭59.3.23 労判439‐64) がある。

この事件において裁判所は、試用期間中の労働者が不安定な地位に

置かれるものであるから、合理的範囲を越えた長期の試用期間の定めは

公序良俗に反し、その限りにおいて無効であるとし、

見習社員期間(6 ヵ月から1 年3 ヵ月) 終了後の試用社員と

しての試用期間(6 ヵ月から1 年)は、合理的範囲を越えていると判断した。


 また、

安田火災海上保険事件(福岡地小倉支判平4.1.14 労判604‐17)では、

研修期間を2 年とし6 次の研修期間を設け、各期間の終了毎に

適格者のみを次の段階の研修生として再採用する制度が採られていた

ことが問題とされた。

裁判所は、本件雇用契約は、このような研修期間に関し、

各研修期間終了時において使用者が解約権を行使することが

できる2 年間を通した1 個の連続した雇用契約であると述べ、

雇用契約が各研修期間満了により終了するためには、

再採用の拒否が許される場合でなくてはならず、

客観的に合理性があり、社会通念上相当として是認される場合で

なければならないとし、本件の場合、一連の勤務態度不良は

就業規則違反に該当するとして、使用者の解約権行使には客観的に

合理的な理由があり、社会通念上相当であると認めることができると

判断した。





(4)試用期間の延長


 試用期間の延長に関する事件として、

前掲

雅叙園観光事件
がある。

この事件では、試用期間の延長期間満了後数日を経てから

更に期間を定めず試用期間を再延長した措置が相当とは

いえないとして、再延長中の解雇には正社員に対するのと

同様の解雇事由の存在が必要であるとされた。




(5)適性判断のための期間


神戸弘陵学園事件( 最三小判平2.6.5 民集44‐4‐668) は、

私立高校に1 年の契約期間で雇われた

「常勤講師」の期間満了による雇止めの効力が争われた事例である。

この事件において裁判所は、期間を設けた理由が適性判断のための

ものである場合には期間の定めのない労働契約の下の試用期間と

解すべきであり、試用期間の満了により労働契約を終了するためには

解約権の行使が許される場合でなければならないとしている。



(6)試用期間中の違法な解雇


 使用者による試用期間中の解約権行使が裁判所により

違法であると判断された場合、

労働者は、試用期間の経過した本採用の地位に移行するのか、

それとも試用契約上の地位に戻るかについて、

裁判所の判断は分かれている。

三洋海運事件
(福島地いわき支判昭59.3.31 労判429‐22)では

、期間が経過した以上、本採用がなされたものとして正規従業員と

なるとされたが

三愛作業事件(名古屋高決昭55.12.4 労民集31‐4‐1172)では、

試用期間が違法な解雇によって中断したのであるから

、試用期間中の元の状態に戻ると判断されている。












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