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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                                再雇用

1.ポイント

(1)再雇用とは、

労働者が定年退職によりいったん労働契約を終了した後

再び新たに労働契約が締結されることをいい、

通常は嘱託等として期間を定めて再雇用契約が結ばれることが多い


(2)再雇用契約の成否については、

企業における再雇用制度の成立経緯

就業規則・労働協約等の規定内容

その運用状況などから判断されることになる。


(3)使用者が再雇用する者を選考するような制度

就業規則等に定められている場合、

あるいは、再雇用制度の定めが設けられていない場合であっても、

その企業における再雇用の実態などから、

再雇用につきどのような労使慣行が確立されていたかが判断され、

これにより再雇用契約の成否が決定されることになる。





2.モデル裁判例


  教王護国寺(東寺)事件 京都地判平10.1.22 労判748‐138

(1)事件のあらまし


 原告Xは、宗教法人である被告Y

期間の定めのない雇用契約を締結し、寺の講堂の堂守として勤務していた。

Y の旧就業規則(昭和62年6月施行) では、65歳定年制、及び、

業務上の必要性がある場合、Y が職員の能力や成績等を勘案のうえ

選考し、新たに採用することがある旨が規定されていた。

また、Y の新就業規則(平成5年10月施行) では、一部の業務を除き

65歳定年制、及び、旧規則と同様な基準で選考し、

嘱託として再雇用することがある旨が規定され、

さらに、新規則施行時点で定年に達している者等に配慮した

経過規定が設けられていた。

Xは、平成7年9月25日に満65歳になったが、

Yによりその1ヵ月前に定年のため雇用契約が終了する旨通知され、

これに対しXはYに雇用契約の継続を求めていた

しかし、XはYによりこの申入れを拒否されたため、

再雇用契約の成立を主張して裁判所に提訴した。




(2)判決の内容


労働者側敗訴


 「そもそも定年後の再雇用は新たな労働契約の締結であるから、

その内容につき、使用者労働者双方の合意が必要とされ、

使用者は労働者を再雇用するか否かを任意に決定し得るのが原則である。」

「しかしながら、就業規則等で定年退職者に特段の欠格事由がない限り

再雇用される権利を与えている場合、あるいはそのような取扱いが

労働慣行として確立され、黙示の契約内容となっていたと認められる場合には、

定年退職者には再雇用契約の締結を求める権利が発生すると解するのが

相当である。」

「また、定年退職した場合は、特段の欠格事由がない限り、直ちに嘱託として

再雇用するという労働慣行が確立していると認められる場合」も同様である。


 この事案において、旧就業規則施行時には職員が希望する限り

(特段の事由がない場合は)雇用する旨の労働慣行が存したといいうるが、

新就業規則の施行によりこの労働慣行は変更されたものと認められる。

そして、新就業規則の規定は、内容的に合理性を有しており、

かつ、手続的にも適正に定められたといえる。


 これらのことからすると、新就業規則施行の平成5年10月以降、

X の定年退職日である同7年9月までの間では、

「いまだ労働慣行が確立するといえるほどの長期間が経過しておらず」、

しかも、この間に定年退職者が全員嘱託として再雇用されたわけではない

ことを考慮すれば、「Yにおいて定年後再雇用の労働慣行が確立していたとは

認められない」。



 したがって、XとYとの間に再雇用契約が成立したとは認めることができない。


3.解 説


(1)再雇用制度


 高年齢者雇用安定法により、事業主が定年制を設ける場合は

60 歳定年制が義務化され、1998 年4 月1 日より施行されている。

これにより60 歳未満の定年を定めた就業規則等の規定は無効と

される。

また、同法は事業主に対して労働者を65 歳まで継続雇用するよう

努力義務も定めている( 同法4 条の2)。このことは、老齢厚生年金の

支給開始年齢が2001 年( 女性は2006 年) から段階的に引き上げられ、

将来は65 歳とされることとも関連しているが、今後60 歳代前半層の

雇用継続は益々重要になってくる。



 60歳定年制が支配的となっている現在、65歳まで雇用を継続するための

手法としては、一般に勤務延長制度と再雇用制度とがある。勤務延長制度は

、原則として役職・職務、仕事内容、賃金水準などが変わらない

(労働条件等が変更される場合はその旨の就業規則の規定が必要)。

これに対して再雇用制度は、いったん労働契約を終了させた後に、

再び新しく労働契約を締結する(労働者は従来の役職・職務等を解かれる)もの

で、人事の停滞を防ぎ、賃金も定年到達時より抑えることができ、使用者に

とってはより弾力的な運用も可能となるため、一般的に利用頻度が高くなっている。




(2)再雇用契約の成否


 定年退職した労働者がいかなる場合に再雇用されるのかに関しては、

まず、@再雇用制度が就業規則や労働協約等に定められており、

特段の事情のない限り、希望者全員が再雇用される旨規定されている

場合には、労働者が再雇用の申入れをすれば再雇用契約が成立すると

考えられる。これに対し、A就業規則等に定めがあったとしても、

使用者が業務上の必要に応じ、特に必要と判断した者を再雇用することが

ある旨規定されているような場合には、使用者の承諾がない限りは

再雇用契約が締結されたとはいえない

東京海上火災保険事件 東京地判平8.3.27 労判698‐30、

三井海上火災保険事件
 大阪地判平10.1.23 労判731‐21)。



次に、B (a)就業規則等に再雇用制度が定められていない場合または

(b) 上記A の場合であっても、希望者がほとんど再雇用されているなど、

再雇用の労使慣行が存すると認められるときには、労働者の申入れにより

再雇用が成立すると解されることもある((b)のケースとして、特段の欠格

事由がない限りこのような労働慣行が確立しているものと判断した原審判決を

是認した最高裁の事案に、



大栄交通事件
(最二小判昭51.3.8 労判245‐24)がある)。


 モデル裁判例では、特に再雇用の労使慣行が確立されていたか

否かが争点となったが、新就業規則のもと労使慣行が確立したと

いえるためには期間が短すぎる等として、慣行の成立が認められなかった。

再雇用に関するその他の裁判例としては、Aのケースでさらに就業規則に

再雇用の基準(欠格事由がある者は嘱託再雇用しない等)が定められていた

場合において、タクシー運転手である原告労働者に接客態度不良の事実が

存したことより、この欠格事由に該当し嘱託再雇用の要件を欠くとして、再雇用

契約の成立が否定された

古賀タクシー(嘱託再雇用)事件(福岡地判平11.8.25 労判781‐84( 要旨)) がある。


なお、この事件では、前掲・大栄交通事件と同様、定年退職後特段の欠格

事由が存在しない限り嘱託再雇用を行う労働慣行が確立していたか否かも

争点となっていたが、判決はその判断に立ち入る前に、原告の欠格事由の

存在を肯定して結論を下している。その結果、労働慣行の成否については

判断していない。

また、B(b) のケースで、大学教授の定年後再採用が問題となった事案に

おいて、常務理事会は教授会の決定を尊重して、再採用を決定することが

慣行として確立していたとの大学教授の主張が退けられ、再採用が

認められなかった

長崎総合科学大学事件
( 長崎地決平5.7.28 労判637‐11)、

同じく再雇用等の労使慣行の成立が否定された事案に

三室戸学園事件
( 東京地判平14.1.21 労判823‐19)および

御園サービス事
件(名古屋地判平15.8.26 労判859‐88(要旨)) 等がある。



(3)その他の問題点


 その他、再雇用に関する問題としては、再雇用後の雇止め

大京ライフ事件 横浜地決平11.5.31 労判769‐44、

この事案では有効と判断されている)、再雇用による労働条件の低下

((103) 年齢差別参照)などがある。なお、定年延長が問題となった

事案ではあるが、大学教授につき満65歳定年を満70歳まで延長する

労使慣行の成否等が争われた裁判例に

日本大学(定年)事件(東京地決平13.7.25 労判818‐46、

この事件では労使慣行の成立が認められた)がある。











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