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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ



                        「労働者」「使用者」「賃金」の定義

1.ポイント


(1)

個別的労働関係法

労基法、労基法から派生した労安衛法労災保険法等の労働保護法規、

労働契約法理)の適用対象である「労働者」に該当するか否かは、

実態として使用者の指揮命令の下で労働し、

かつ、賃金を支払われていると認められるか否かにより決まる。


(2)

労働契約は「労働者」と「使用者」の間で締結される。

当事者請負や労働者派遣により、

労働者が他の企業に派遣されて就労している場合

就労先企業を使用者とする労働契約の成立が認められるのは、

極めて例外的な場合に限られる。


(3)

労基法上の規制について責任を負う「使用者」とは、

労基法の規制事項について現実に権限と責任を有している者であり、

労働契約の当事者としての「使用者」とは異なる。


(4)

労基法上の「賃金」とは、労働の対償として使用者が労働者に支払うものである。

会社の保養施設や出張旅費などは「賃金」に該当しない。

退職金賞与は、支給基準等就業規則などで定められているならば

賃金」に当たる。





2.モデル裁判例


  横浜南労基署長(旭紙業)事件 最一小判平8.11.28 労判714-14

(1)事件のあらまし


 本件は自己の所有するトラックをA(会社)に持ち込み、

専属的にAの製品の運送業務に従事していた原告側労働者(運転手)Xが、

積み込み作業中に傷害を負ったことから、労災保険法所定の

療養・休業補償給付を請求した事案である。

Xの報酬は出来高払いで、トラックの購入代金、ガソリン代、

修理費、運送の際の高速道路料金等はXが負担していた。

また、Xに対する報酬の支払いにあたっては、

所得税の源泉徴収及び社会保険・雇用保険の保険料の控除は

なされず、Xはこの報酬を事業所得として申告していた。



(2)判決の内容
 
労働者側敗訴

 本件事実関係の下においては、

Xは、トラックを所有し、自己の危険と計算の下に運送業務に

従事していたものである......。

Aは、運送という業務の性質上当然に必要とされる運送物品、

運送先及び納入時刻の指示をしていた以外には、

Xの業務の遂行に関し、特段の指揮監督を行っていたとはいえない。

時間的、場所的な拘束の程度も、一般の従業員と比較してはるかに

緩やかで...... ある。

報酬の支払方法、租税及び各種保険料の負担等についてみても

、Xが労基法上の労働者にあたるとすべき事情はない。

そうであれば、Xは、専属的にAの製品の運送業務に携わっており、

Aの運送係の指示を拒否する自由はなかったこと、

毎日の始業時刻及び終業時刻は、

Aの運送係の指示内容によって事実上決定されることなどを

考慮しても、Xは労基法及び労災保険法上の労働者にはあたらない。



3.解 説

(1)労働者


 個別的労働関係法(労基法、労基法から派生した労安衛法・労災保険法等の

労働保護法規、労働契約法理)の適用対象となる「労働者」の範囲は、

労基法を基準として決められる。

労基法上の「労働者」とは、使用者の指揮命令を受けて労働し、

かつ賃金を支払われている者である(9 条)。契約の形式が請負や委任と

なっていても、実態においてこれらの基準を満たしていれば「労働者」に当たる。

 具体的な判断要素としては、?勤務時間・勤務場所の拘束の程度と有無、

?業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無、

?仕事の依頼に対する諾否の自由の有無、?機械や器具の所有や負担関係、

?報酬の額や性格、?専属性の有無などが挙げられており、

これらの要素を総合的に考慮して「労働者」に当たるか否かが

判断される(労働基準法研究会第一部会「労働基準法の『労働者』の

判断基準について」(労働省労働基準局編『労働基準法の問題点と

対策の方向』(日本労働協会、1986 年) 参照)。労働者性が問題と

なる者の類型としては、従業員兼取締役、裁量性の高い職種や特殊な

職種の者、零細下請業者(モデル裁判例のような車持ち込み運転手を含む)

などがあり、最近は雇用形態の多様化により判断が難しいケースが増えている。


最近の裁判例としては、映画撮影技師を労働者と認めた新宿労基署長

(映画撮影技師) 事件( 東京高判平14.7.11  労判832-13) や、

私立大学病院の研修医の労働者性を肯定した

関西医科大学研修医(未払賃金)事件(大阪高判平14.5.9  労判831-28)

などがある。

 モデル裁判例は、車持ち込み運転手の労働者性に関する初の最高裁

判決である。判決は、Xが上記?や?について一般の従業員と同程度の拘束を

受けていないことを重視し、?や?の要素をそれほど重視せずに、Xの労働者性を

否定している。ただし、車持ち込み運転手がおよそ「労働者」に当たらないと判断しているわけではない点に注意が必要である。



(2)使用者


 労働契約は、(1)の「労働者」と「使用者」の間で締結される契約であり、

通常、労働契約上の使用者とは「労働者」を雇った者(企業)であって、

これが誰かは明確である。しかし、請負や労働者派遣により、労働者が

他の企業に派遣されて就労している場合には、派遣先の企業を使用者と

する黙示の労働契約が成立しているか否かが問題となることがある。

このような契約関係が認められるのは、きわめて例外的な場合に限られる。

すなわち、派遣先の企業が当該労働者の業務遂行について指揮命令や

出退勤管理を行っているだけでは足りず、賃金額をも決定して支払い、かつ

採用を決定しているなど、使用者としての基本的要素を備えていることが必要で

ある。

裁判例は、このような労働契約の成立を容易に認めないものが一般的である

サガテレビ事件 福岡高判昭58.6.7 労判410-29、

大映映像ほか事件 東京高判平5.12.22 労判664-81)。



派遣先との労働契約の成立が認められた例外的な事例として、

センエイ事件
(佐賀地武雄支決平9.3.28 労判719-38)がある。


 なお、労基法上の規制について責任を負い、同法違反に対して

罰則の適用を受ける「使用者」とは、労基法の規制事項について現実に

権限と責任を有している者であり(労基法10条)、必ずしも労働契約の

当事者としての「使用者」に限られない。



(3)賃金


 労基法上の「賃金」とは、名称のいかんを問わず、労働の対償として

使用者が労働者に支払うものである(労基法11条)。使用者が任意に

恩恵的に支給する金銭は「賃金」ではない(使用者の裁量により支給

される「奨励金」が賃金に当たらないとした事例として、

中部日本広告社事件 名古屋高判平2.8.31 労判569-37がある)。

これに対して、退職金や賞与、手当などは、労働協約や就業規則、労働

契約などで支給基準等が定められているのが通常である。そのような

場合には使用者に支払い義務があり、任意的な給付ではないから、



労基法上の「賃金」と認められる

伊予相互金融事件 最三小判昭43.5.28 判時519-89、

ユナイテッド航空(配偶者手当)事件
 東京地判平13.1.29 労判805-71)。

なお、会社の福利厚生施設や住宅資金貸付、業務遂行に必要な費用を支給

する出張旅費などは、労働の対償としての「賃金」には該当しない。













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