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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                    転職勧誘・引き抜き

1.ポイント

(1)元の使用者の利益を不当に害する方法で

転職の勧誘従業員の引き抜き行った者会社元従業員は、

従業員を引き抜かれた会社に対して損害賠償責任を負う


(2)社会的に認められない引き抜き行為であるか否かは、

転職する従業員が

会社で占める地位

会社内部における待遇

人数

従業員の転職が会社に及ぼす影響

転職の勧誘に用いた方法(退職時期の予告の有無、秘密性、計画性等)

が判断材料になる。



2.モデル裁判例


  ラクソン事件 東京地判平3.2.25 労判588‐74

(1)事件のあらまし


 原告X社は英会話教室を経営する会社であり、

被告Y1社は英語教材を販売する会社である。

X社の取締役兼営業本部長であった被告Y2は、

X社の売上の80%をも占める業績を上げ、

X社の社運をかけた企画を一切任されており、

経営上きわめて重要な地位にあった。

しかしY2は、X社の経営に対して不安や不満を持っていた

ことから取締役を辞任し、

間もなくY1社の役員から移籍を持ちかけられた。

Y1 社とY2はY2の移籍を前提として、

Y2の従前の部下らをX社から引き抜くことを計画し、

事前に従前の部下(マネジャー)を説得して計画に引き入れ、

移籍後に業務を行う事務所を確保して、

Y2は事務所の鍵を預かっていた。

そして計画的に、慰安旅行と称して従前の部下であった

セールスマンらを事情を一切告げずに温泉地のホテルに

連れ出し、2〜3 時間かけてY1社への移籍を説得した。

その折り、Y1社と販売商品の説明も行われ、帰京翌日から

Y1社で営業を開始することを確認して解散した。

慰安旅行にかかる費用の一切はY1社が負担している。

なお、慰安旅行の当日早朝に、従前の部下で計画に事前に

加わっていたマネジャーらは、引き抜きの対象とされたセールスマンらの

私物や業務書類などをX 社から持ち出し、事前に確保していたY1社事務所に

運び込んでいる。

そこでX社は、従業員を大量に引き抜かれたことによって被った

減少分の利益を損害として、Y1社とY2に損害賠償を請求した。





(2)判決の内容


労働者側敗訴


 従業員引き抜き行為と因果関係にある限度で損害賠償請求が

認められた(請求額1億円、認められた額870万円)。


 1)Y2の責任


 会社の従業員は、会社に対して、会社の正当な利益を不当に

侵害してはならない義務(誠実義務)を負い、従業員がその義務に

違反して使用者に損害を与えた場合、

従業員はその損害を賠償する責任を負う。


 従業員引き抜き行為のうち、単なる転職の勧誘にとどまるものは違法とは言えない。

そして、社会的に認められない引き抜き行為であるか否かは

@転職する従業員が会社で占める地位、

A会社内部における待遇、

B引き抜く人数

、C従業員の転職が会社に及ぼす影響、

D転職の勧誘に用いた方法(退職時期の予告の有無、秘密性、計画性等)など、


幾つかの事情を考慮して判断すべきである。

この事件における引き抜き行為のさまは、

計画的かつ極めて背信的であったもので、

もはや適法な転職の勧誘に留まらず、

社会的に認められない違法な引き抜き行為である。

したがって、Y2は、引き抜き行為によってX社が被った

損害を賠償する責任を負う。




 2)Y1社の責任


 ある企業が競争企業の従業員に自社への転職を勧誘する場合も、

前に述べたと同じ判断材料によって、賠償責任の有無が判断される。

Y1社の行為は、単なる転職の勧誘を越えて、社会的に認められない

引き抜き行為であり、Y1社は、引き抜き行為によってX社が被った損害を


賠償する責任がある。




3.解 説

 モデル裁判例が述べるように、転職勧誘・引き抜き行為が使用者の

利益を不当に侵害する社会的に認められない方法で行われた場合、

その実行者や競争会社は、従業員を引き抜かれた会社に対して損害賠償

責任を負う(近時の事件として、

フレックスジャパン・アドバンテック事件 大阪地判平14.9.11  労判840‐62)。


 この責任は、労働契約の中に転職勧誘や引き抜きを行ってはならない

(「競業行為をしてはならない」) などと取り決められていなくても

負わされるので、労働契約の中にこのような取り決めがある場合は、

もちろん損害賠償責任が認められる

東京学習協力会事件 東京地判平2.4.17  労判581‐70)し、

またこのような行為が差し止められる場合もある

新大阪貿易事件 大阪地判平3.10.15 労判596‐21)。


 しかし、事件の背後にある事実によっては、損害賠償責任が

認められないこともある。例えば、競業する塾を至近距離に設立したが、

講師を引き抜いたのではなく、労働者が計画に賛同して自主的に

退職したこと

港ゼミナール事件 大阪地判平元.12.5 判時1363‐104)、

顧客を奪ったのではなく

(前掲港ゼミナール事件フリーラン事件 東京地判平6.11.25 判時1524‐62)、

また、新規顧客をも対象に宣伝し、元の会社の誹謗中傷も行っていない場合

バイクハイ事件 仙台地判平7.12.22 判時1589‐103)が、

損害賠償責任が認められない場合に当たる。


 ちなみに、転職勧誘や引き抜きを行った従業員の地位からみると、

会社内での職位も高く、経営上重要な役割を担う者は、一般従業員に

比べて元の会社に対してより高い誠実性が求められるので、

損害賠償責任を負うことになる(支社次長につき、

日本コンベンションサービス事件 大阪高判平10.5.29 労判745‐42、同事件 最二小判平12.6.16 労判784‐16。


病院長兼理事につき、厚生会共立クリニック事件大阪地判平10.3.25 労判739‐126)。












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