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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ
競業避止義務
1.ポイント
(1)退職後の競業避止義務は、
労働者の職業選択の自由が制約されて、
労働者が被る不利益が大きいことから、
労働契約上の明確な根拠が必要である。
(2)競業避止義務は、
退職後の業務の内容、
元使用者が競業行為を禁止する必要性、
労働者の従前の地位・職務内容、
競業行為禁止の期間や地理的範囲、
金銭の支払いなど代償措置の有無や内容、
義務違反に対して元使用者が取る措置の程度、
などを判断材料に、合理的な範囲内でのみ認められる。
(3)悪質な競業行為が行われた場合、
労働契約上の根拠がなくても義務違反が生じて、
元の労働者に損害賠償責任が認められたり、
競業行為の差し止めが認められる場合がある。
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2.モデル裁判例
フォセコ・ジャパン・リミティッド事件 奈良地判昭45.10.23 判時624‐78
(1)事件のあらまし
原告である元使用者Xは、
各種冶金用副資材を製造・販売する企業であり、
その元の労働者らであり被告であるY らは、
X の研究部に所属し、後に、Y1は工場で製品管理を担当し、
Y2は鋳造本部で販売業務に従事して退職した。
Y らは在職中に、X と
退職後2年間の秘密漏洩禁止と競業避止の特約を結んでいたところ、
退社後まもなく、X と業務内容や顧客が競合する同業他社に就職し、
取締役に就任した。
そこでX が、Y らは各特約に違反したとして、Y らの競業行為の差し止めを求めた。
(2)判決の内容
労働者側敗訴(会社の差止め申請認容)
競業避止の特約は、
労働者から生計の途を奪い、その生存を脅かすおそれがある
と同時に、職業選択の自由を制限するから、特約の締結に合理的な
事情がないときは、社会秩序(公序良俗)に反して無効である。
一方、その会社だけが持つ特殊な知識は、一種の客観的財産であり、
営業上の秘密として保護されるべき利益である。
そのため、一定の範囲において労働者の競業を禁ずる特約を
結ぶことは十分合理性がある。
営業上の秘密としては、顧客等の人的関係、
製品製造上の材料・製法等に関する技術的秘密等が考えられる。
これらを保護するため、使用者の営業の秘密を知り得る立場に
ある者に秘密保持義務を負わせ、また、秘密保持義務を担保する
ために退職後における一定期間、競業避止義務を負わせることは
適法・有効である。
この事件では、Xは客観的に保護されるべき技術上の秘密を
持っており、またYらは、Xの営業の秘密を漏洩するか、しうる立場に
あるから、Xは特約にもとづいて、Yらの競業行為を差し止める権利を有する。
競業制限の合理的範囲を確定するに当たっては、制限の期間、
場所的範囲、制限の対象となる職種の範囲、代償の有無等について、
使用者の利益(企業秘密の保護)、労働者の不利益
(転職・再就職の不自由)を考えて慎重に検討する必要がある。
この事件では、制限期間は2年間という比較的短期間であり、制限の
対象職種はXの営業目的と競業関係にある企業であって、
Xの営業が特殊な分野であることを考えると、
制限の対象は比較的狭いこと、場所的には無制限であるが、
これはXの営業の秘密が技術的秘密である以上はやむを得ない。
退職後の競業制限に対する代償は支給されていないが、
在職中に機密保持手当が支給されていたことを考えると、
この事件の競業制限は合理的な範囲にある。
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3.解 説
(1)競業避止義務の有効性
1)競業避止特約の効力
勤務期間中に得た知識などを退職後にどう活かすかは自由であり、
特別な約束なしにこの自由を拘束することはできない
(東京貸物社事件 東京地判平12.12.18 労判807‐32)。
退職後の競業避止特約があれば、労働者は競業行為を制限される
(新大阪貿易事件 大阪地判平3.10.15 労判596‐21)。
但し、禁止の内容や程度が必要最小限でなく、不利益に対する
代償措置も十分でない場合は、社会秩序(公序良俗)に反して無効とされる
(東京リーガルマインド事件 東京地決平7.10.6 労判690‐75)。
但し、勤務期間中に得た知識を利用して使用者が取引継続中の者に
働きかけるなど極めて悪質な競業行為を行う場合、
特別な約束なしに退職後の競業避止義務が認められる
(チェスコム秘書センター事件 東京地判平5.1.28 労判651‐161)。
なお、退職金請求に必要な書類を交付する条件として
退職後5年間の競業避止特約を記した誓約書の作成提出を
強要したと認められる場合にはその特約の法的効力は否定される
とした事件がある
(消防試験協会・消化設備試験センター事件 東京地判平15.10.17
労判864‐93)。
2)労働者の従前の地位・職務
元使用者の営業上の秘密を取り扱うことができる者は、
在職中の特別の約束によって退職後も競業避止義務を負う。
しかし、小売店の販売員
(原田商店事件 広島高判昭32.8.28 高民集10‐6‐366) や
工場の組立作業員
(キヨウシステム事件大阪地判平12.6.19 労判791‐8)に対しては、
業務の内容やノウハウから見て、それらの者に競業避止義務を負わせることは
できない(同列に位置付けられうる近時の事件として、
新日本科学事件 大阪地判平15.1.22 労判846‐39)。
3)競業制限の期間・地域等の範囲
@顧客との関係を重視したものとしては、3年の制限期間を有効と
する事件がある
(前掲新大阪貿易事件)。
A元使用者の技術的営業利益(研究・開発のノウハウ)の観点からは、
地域的に無制限でよいとする事件がある(モデル裁判例)。
一方、イベント会社の元従業員に対する3年間の競業制限期間、
地域や職種制限なしという競業避止特約を無効とする事件がある
(東京貸物社事件 浦和地決平9.1.27 判時1618‐115)。
B元労働者の地位の観点からは、2年の競業制限期間と、場所的に
無制限の競業避止特約を、代表取締役については有効としたが、
監査役については無効とした事件がある
(前掲東京リーガルマインド事件)。
4)元の使用者による代償の提供
代償措置の有無は、競業避止義務の有効性を決する
重要な要素である(モデル裁判例参照)。
監査役の競業避止特約を無効とするに当たって、1,000万円の
退職金のみでは代償措置として不十分と捉えられている
(前掲東京リーガルマインド事件)。
また、本来支払われるべき退職金よりも少額のそれでは、
競業行為禁止に見合う補償と認められない
(前掲東京貸物社事件浦和地決)し、従事した業務が会社独自の
ノウハウとは言えず、それを知るうる地位にもなかったことを背景に、
在職中月額4,000円の秘密保持手当てが支払われていたのみで
退職金も支払われていないことは、代償措置としてはきわめて不充分である
(前掲新日本科学事件)。
(2)競業避止義務違反の効果
1)損害賠償責任
至近距離での競業会社設立
(東京学習協力会事件 東京地判平2.4.17 労判581‐70。賠償額3,000万円)、
多数の従業員や顧客を勧誘すること
(前掲東京学習協力会事件)、
悪質な方法で使用者が取引継続中の者に働きかけて
競業を行うこ
と(前掲チェスコム秘書センター事件。賠償額500万円)には
損害賠償責任が認められる。
上級役職者の競業行為は重大な法律違反で、損害賠償責任が認められる
(日本コンベンションサービス事件 大阪高判平10.5.29 労判745‐42。認容額400万円)。
また、競業避止義務が明確に定められていなくても、労働契約上の義務として
、競業会社に協力する行為は労働契約義務違反または民事上の違法な
行為として当該行為者は損害を受けた在籍する会社に対し損害賠償責任を負う
( エープライ(損害賠償)事件 東京地判平15.4.25
労判853‐22。損害賠償額約316万円)。
2)差止請求
競業行為の差し止めは、明確で合理的、かつ社会秩序(公序良俗)に
反しない特約が存在する場合に認められる
(認めたのは、モデル裁判例、
前掲新大阪貿易事件、
認めなかったのは、
前掲東京リーガルマインド事件)。
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