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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ
定年制
1.ポイント
(1)平成10年4月以降、
高年齢者雇用安定法により60歳定年制が義務化され
(同法4条、60歳未満の定年年齢を定める定年制は
原則として違法・無効とされる。
(2)事業主には、労働者の定年後65歳までの継続雇用の
努力義務も課せられている(同法4条の2)。
(3)ある企業の定年制が社会的相当性を欠くような場合は、
公序良俗違反、権利濫用に当たり無効とされるであろう。
(4)定年制は、労働者の労働継続の意思、その労働能力や
適格性の有無等に関係なく、一定年齢到達という事実のみを
理由に労働契約を終了させるため、労働者の労働権を侵害するか
否か、あるいは、年齢差別であり憲法14条や労基法3条の趣旨に
違反することより公序良俗違反となるか否かが問題となってくる。
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2.モデル裁判例
アール・エフ・ラジオ日本(定年制)事件 東京地判平12.7.13 労判790‐15
(1)事件のあらまし
原告X ら2 名は、主にラジオ放送事業を営む被告Y に雇われ、
アナウンサー業務等に従事してきた。
Xらは、平成4年ないし5年に満55歳に達したためYの就業規則に
基づき定年退職扱いにされた。
そこでX らは、この55歳定年制を憲法27条1項および14条1項に違反し、
また、公序良俗に違反する違法・無効なものであるとして、
満60歳に達するまでYに対し労働契約上の権利を有する地位に
あることの確認、並びに、60歳到達時までの賃金及び一時金の
支払い等を求めた。
なお、Y は同6年4月より定年年齢を57歳に、同7年4月より60歳に
引き上げる就業規則の改正を行った。
(2)判決の内容
労働者側敗訴
Yの55歳定年制(この事案では定年退職制である)の適法性に
関して、まずはXらの憲法規定等違反の主張に対し、憲法第3章の
人権規定は、「国又は公共団体と個人との関係を規律するものであり、
私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない」との
最高裁判例を踏まえたうえで、
X らの55歳到達時である平成4年及び5年の時点においては
60歳定年制が既に放送業界を含む産業社会で主流となっており、
Yには高年齢者雇用安定法上の努力義務を怠ったといいうる点が
あるものの、Yの55歳定年制をとらえて、「公序良俗に反する違法・
無効なものである」、ないしは、Xら主張の「憲法の各規定の趣旨に
反するものであるとかの評価を与えることは、いまだ困難であると
いわざるを得ない」。
Xらの労働契約上の権利を有する地位確認請求については、
Xらが既に60歳に達しているため過去の法律関係の確認を求めるものと
なるが、このケースにおいては法律上の利益(確認の利益)が存しないことから、
この請求は認められない。 |
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3.解 説
(1)定年制の意義および適法性
定年制とは、労働者が一定年齢に到達したことを理由に
労働契約を終了させる制度をいう。
定年制には,定年到達を解雇事由と捉え、労働契約を終了
させるためには解雇の意思表示を必要とする「定年解雇制」と、
通常、使用者の特別な意思表示がなくても当然に労働契約が終了
する「定年退職制」とがある。特に労基法14条との関係で定年制の
法的性格が問題となるのは後者である。
モデル裁判例は、一律定年制(55歳定年制)の効力が争われた事案である。
ただし、高年齢者雇用安定法により60歳定年制が義務化される以前のものである。
定年制の適法性、特に一律定年制自体の適法性については、わが国の雇用慣行
( 長期(終身)雇用制の下、判例上のルールにより解雇が制限されてきたことや、
年功序列型賃金制度が採られてきたこと等) との関連において、人事の刷新を
図る等の目的のため、学説・判例上は一応認められてきた。
最高裁は、秋北バス事件(最大判昭43.12.民集22‐13‐3459)において、
「およそ停年制は、一般に、老年労働者にあっては〔その者の〕業種又は
職種に要求される労働の適格性が逓減するにかかわらず、給与が却って
逓増するところから、人事の刷新、経営の改善等、企業の組織および運営の
適正化のために行われるものであって、一般的にいって、不合理な制度という
ことはでき」ないと論じたうえで、その事案において就業規則上新設された55歳
定年制につき、当時のわが国における産業界の実情等に照らしてその合理性を
認めている。
もっとも、今後、長期(終身)雇用制の崩壊、成果主義賃金制度の導入という
状況などが進んだ場合には、この定年制についての考えも再考を迫られるかも
しれない。
なお、ある企業の定年制が社会的相当性を欠くような場合には、公序良俗違反
または権利濫用との評価を受けて無効とされることもあろう。
(2)定年年齢の合理性
次に、定年年齢の合理性が問題となってくるが、合理的な年齢はその時々の
社会的背景・状況によって変わってくるであろう。モデル裁判例においては、
高年齢者雇用安定法の制定および60歳定年制の義務化に至る経緯、
企業規模別および放送業界における定年制の実態、Yの経営状況、並びに、
Yにおける定年退職後の再雇用制度の運用状況などが詳細に検討されている。
そのうえで、判決は、私人間における憲法人権規定の直接適用を否定した
三菱樹脂事件最高裁判決(最大判昭48.12.12 民集27‐11‐1536)を
踏まえて、当時の状況のもと、Yの55歳定年制を公序良俗に反するもの
又は憲法規定に違反するものとまではいえないと判断している。
(3)その他の裁判例等
モデル裁判例と類似の事案としては、
アール・エフ・ラジオ日本事件(別件)(東京高判平8.8.26 労判701‐12)
がある。
また、55歳から60歳への段階的定年延長制度を定めた就業規則条項の
合理性が問題となった事案に
青森放送事件(青森地判平5.3.16 労判630‐19、昭和63年及び平成元年の
時点において合理性有り)がある。
その他、定年に関する就業規則の規定が、いわゆる定年退職制度あるいは
定年解雇制度のいずれを定めているのかが争われた
御園サービス事件(名古屋地判平15.8.26 労判859‐88(要旨))、
就業規則による定年年齢の引下げが問題とされた
芝浦工業大学(定年引下げ)事件(東京地判平15.5.27 労判859‐51) 等が
ある。
また、同一の事業場において異なる職種・職務を兼務する労働者につき、
職種・職務の相違に応じて異なる内容の就業規則
(異なる定年年齢の定め)が存し、かつ、その適用関係についての調整規定が
就業規則中に存しない場合に、いずれの定年年齢の定めがその労働者に
適用されるのかが争われた事案として、
済生会・東京都済生会中央病院(定年退職)事件
(東京高判平12.12.25 労判812‐71)がある。
なお、定年制に関してはその他、男女別定年制
(日産自動車事件 最三小判昭56.3.24 民集35‐2‐300等、
(86)[ 女性労働] 参照) や職種別(若年) 定年制
(朝日新聞社の原稿係の若年停年制事件 大阪地判昭36.7.19
判時270‐11等参照)、
及び、定年延長に伴う労働条件の不利益変更(後掲(102)再雇用・(103)
年齢差別参照)などの争点が存する。また、近年は人件費の
抑制・削減等のため、管理職定年制(役職定年制)や選択定年制
(早期退職優遇制)といった制度を採用する企業も増加している。
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