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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                       退職金の不利益変更



1.ポイント

(1)賃金や退職金などの

労働者にとって重要な権利労働条件

不利益に変更する場合

そのような不利益を労働者に及ぼすことが認められるだけの

高度の必要性に基づいた合理的」な内容」でなければならない。


(2)退職金等を不利益に変更する場合には、


その不利益を緩和する代償措置経過措置をとることが望ましく、

「合理的」な内容かどうかの判断において、

代償措置は、直接的なものだけでなく

間接的に不利益を緩和するものまでも含まれることがある。




2.モデル裁判例



  大曲市農協事件 最三小判昭63.2.16 労判512‐7



(1)事件のあらまし


 被告Yは、昭和48年8月に、A農協を含めた7つの農協の合併により新設され、

原告Xら(3名)は、A農協から引き続いてYに勤務してきた職員である。

合併に際して、給与や退職金等に関する労働条件の格差是正が図られ、

Xらの給与や賞与、定年などの労働条件は引き上げられた

しかし、

退職金についてだけが、合併時点までに調整がつかなかったため、

昭和49年3月、Yは新たな退職金規程(新規程)を作成し、

昭和44年3月当時、合併前の7つの農協に在籍していた者について、

不利益を軽減するための特例措置が設けられた。

Xらは、昭和53年から56年にかけて定年退職し、

Yは特例措置に基づく退職金を支給したが、

特例措置の支給倍率A農協の退職金規程の支給倍率よりも低かったため、

Xらは、A農協の支給倍率に基づく金額と実際に受領した金額との

差額を求めて提訴した。




(2)判決の内容


労働者側敗訴


 就業規則の作成や変更によって、労働者に不利益な労働条件を

一方的に課すことは許されないが、労働条件の統一化・画一化という

観点から、変更された内容が「合理的」なものである場合には、

これに同意しない労働者にも適用される。

特に、賃金や退職金などの労働者にとって重要な権利、労働条件を

不利益に変更する場合は、そのような不利益を労働者に及ぼすことが

認められるだけの

高度の必要性に基づいた「合理的」な内容でなければならない。

Xらの退職金の支給倍率は以前より低く変更されているが、

合併に伴う労働条件の格差是正の必要性が高いことはいうまでもない。

Xらは、合併後、給与や休日・ 休暇、諸手当などの面において有利な取扱い

受けるようになり、定年も延長されており、これらの措置は、

退職金の支給倍率の引き下げに対する直接の代償措置ではないが

新規程への変更の合理性判断において考慮することのできる事情である。

Xらが被った不利益の程度、変更の必要性の高さ、変更の内容、関連する

その他の労働条件の改善状況に照らすと、新規程への変更は合理性があり、

Xらにも適用される。


3.解 説

(1)退職金の特殊性


 退職金は、長期にわたる労働の対償として平常の賃金のほかに

退職に際して支給される。

したがって、通常の賃金とは異なり、退職までの長期勤続を支給の

前提とし、その具体的請求権は退職時に発生する。

そのため、退職金に関する約束は、企業経営や労使関係の変化等の

事情から、長期の勤続の間に変更されることも多く、採用時の約束を退職時まで

一切変更できないとすることは不合理といえる。


 そして、退職金は、就業規則労働協約により、その支給条件

明確に約束されている場合には、後払い賃金としての性格を有しており、

重要な労働条件のひとつである。

また、退職後の生活保障的な機能を果たすこともあり、大幅減額のような

変更は、退職を間近に控えた労働者にとって影響が大きい。

そして、長期勤続に対する功労報償的な性格を併せ持つため、

労使の信頼関係を壊すような行為があった場合などに、減額支給や

不支給が認められるものの((18)[ 退職金] 参照)、そうした行為が

ない場合には、一方的な不支給は認められるべきではないし、

退職金の不利益変更についても、このような退職金の複合的な性格

十分に考慮しなければならない。



(2)退職金の不利益変更


 退職金の不利益変更は、通常、就業規則等の改定を

通じて行われる

就業規則としての退職金規程を不利益に変更する場合、

モデル裁判例のように、「高度の必要性」が要求される。

また、退職を控えた一部の労働者に対して、具体的な不利益が

及ぶため、不利益の程度やそれを緩和する代償措置の

存否・ 内容が、変更の合理性判断において重視される。

これらは、退職金の特殊性を踏まえたものといえる。



 最高裁判決をみると、代償となる労働条件を提供していなかったことを

理由として、退職金の不利益変更の合理性を否定した

御國ハイヤー事件
( 最二小判昭58.7.15 労判425‐75)がある。


モデル裁判例では、代償措置の範囲を広く理解し、直接の代償措置と

いえないものの、合併に伴う労働条件の改善点などを間接的な代償

措置として評価し、合理性を肯定している。


朝日火災海上保険(高田)事件
(最三小判平8.3.26 民集50‐4‐1008) では、

退職金支給率の引き下げに高度の必要性があることを肯定する一方、

労働者の不利益を補填する代償金も不十分であり、定年年齢引き下げに

より退職時期が早まることなどから、当該労働者に限って、就業規則の適用の効力を否定した。


 退職金の不利益変更をめぐる紛争に関して、下級審の裁判例を

みると、合理性を肯定するものもあるが

空港環境整備協会事件 東京地判平6.3.31 労判656‐44)、

合理性を否定するものが比較的多い。

例えば、退職金の賃金としての側面を強調して、会社に業績悪化などの

事情があるとしても、労働者の同意なしに退職金を不利益に変更する

ことはできないとするもの

大阪日日新聞社事件 大阪高判昭45.5.28 判時612‐93、

アイエムエフ事件
 東京地判平5.7.16 労判638‐58)や、

退職金規程の中で「従業員の代表との協議により改廃することが

できる」と定められている場合には、協議を経ることなく一方的に

不利益に改定された退職金規定の効力を否定するものがある

三協事件 東京地判平7.3.7 労判679‐78)。

退職金を従来の約3分の2ないし2分の1に減少させるような著しい

不利益変更の場合、経営環境の不良、従業員のほとんどの同意、

改定後の退職金の額が全産業の平均的な水準にあること、

加算年金または選択一時金の支給を受けることができることなどを

考慮しても、合理的な内容と認められないとするものがある

アスカ事件 東京地判平12.12.18  労判807‐52)。

このほか、

否定例として、日本コンベンションサービス事件(大阪高判平10.5.29 労判745‐42)、


やまざき事件
 東京地判平7.5.23  労判686‐91)、


ドラール事件(札幌地判平14.2.15 労判837‐66)などがある。




(3)退職年金・企業年金の不利益変更


 退職金を年金の形式で定期的に支給することも多く、

こうした退職年金の場合でも、就業規則によって使用者と

退職者との法律関係が規律される。企業年金について、

幸福銀行事件( 大阪地判平10.4.13 労判744‐54) では、

経営悪化に伴い自社年金の支給額を3分の1に減額したことについて、

恩恵給付的性格が強いこと、受給者の大部分が同意していること

などを理由に、減額措置を有効としたが、その後、金融再生法による

破綻処理中の年金支給打切りについては、これを違法無効とした

幸福銀行(年金打切り)事件 大阪地判平12.12.20 労判801‐21)。

また、財政逼迫などの必要性があり、代償措置などの内容も

相当であるとして、独自の年金制度の廃止の合理性を肯定したもの

名古屋学院事件 名古屋高判平7.7.19 労判700‐95)がある。











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