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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                    退職金の減額・不支給

1.ポイント

(1)退職金は、支払条件が明確であれば

労基法11条の「労働の対償」としての賃金に該当する。

その法的性格は、賃金後払い的性格功労報償的性格生活保障的性格

併せ持ち、

個々の退職金に実態に即して判断しなければならない。


(2)退職金の支給基準において、一定の事由がある場合

退職金の減額不支給を定めることも認められるが、

労働者の過去の功労を失わせるほどの重大な背信行為がある場合などに限られる




2.モデル裁判例


  三晃社事件 最二小判昭52.8.9 労経速958‐25

(1)事件のあらまし


 原告X会社は広告代理店であり、

被告YはX会社に入社し、約10年勤務した後、

X会社を退職した。

X会社の就業規則によれば、勤続3年以上の社員が退職したとき

退職金を支給することとされ、

退職後同業他社へ転職のとき

自己都合退職の2分の1の乗率で退職金が計算されることとなっていた。

退職にあたって、

Yは就業規則の自己都合退職乗率に基づき計算された

退職金64万8,000円を受領したが、

その際、今後同業他社に就職した場合には、

就業規則に従い受領した退職金の半額32万4,000円を返還する旨

約束した

 しかし、Yは退職後、同業他社へ入社し、

これを知ったX会社は、

支払済み退職金の半額にあたる32万4,000円の返還を

求めて提訴した。



(2)判決の内容


労働者側敗訴


 X会社が営業担当社員に対して退職後の同業他社への就職

ある程度の期間制限することをもって

直ちに社員の職業の自由等を不当に拘束するものとは認められない

したがって、X会社がその就業規則において、同業他社への転職制限に

反して同業他社に就職した退職社員に支給すべき退職金について、

支給額を一般の自己都合退職による場合の半額と定めることも、本来

退職金が功労報償的な性格を併せ持つことからすると、

合理性のない措置とはいえない

すなわち、この場合の退職金の定めは、

制限違反の就職をしたことにより勤務中の功労に対する評価が減殺されて、

退職金の権利そのものが一般の自己都合による退職の場合の半額の限度に

おいてしか発生しないこととする趣旨であると理解すべきである。

このような就業規則の定めは、その退職金が労働基準法上の賃金にあたるとしても

同法16条(損害賠償予定の禁止)、24条1項(全額払い原則)、

民法90条(公序良俗)等の規程に違反するものではない


3.解 説

(1)退職金の法的性格

 退職金は、支払条件が明確であれば、労基法11条の「労働の対償」としての

賃金に該当し、退職金請求権は法的な保護を受ける。

その法的性格は、賃金後払い的性格功労報償的性格、

生活保障的性格を併せ持つものと理解されている。

また、支給に関する明確な定めがない場合でも、

恩恵的な給付としての退職金が支払われることがある

(ただし、この場合、退職金請求権が認められないことがある)。


 このように、退職金には多様な性格が認められ、

長期に勤続すればするほど有利に算定される方式がとられたり、

自己都合退職と会社都合退職との間で退職金の金額に一定の

差異があることが多い。

また、退職後同業他社に就職した場合や懲戒解雇に処せられた場合に、

退職金の減額や不支給とする取扱いをすることが一般的であり、

その内容が合理的である限り有効とされる。

こうした取扱いは、退職金が功労報償的な性格を有することを

意味しており、

退職時に使用者が勤務の再評価を行う趣旨と理解されている。

ただし、退職金の減額や不支給は、賃金後払い的性格との関係で問題となる。



(2)退職後の同業他社への転職


 退職金の減額・ 不支給条項の有効性について、

モデル裁判例のように、一定の事情の発生により、

勤務中の功労に対する評価の減殺に応じて、

退職金の権利そのものが減額・ 消滅するものであり、

合理性がないとはいえない。

例えば、退職後の同業他社への転職について、

モデル裁判例と同様に、減額を認める裁判例もある


ジャクパコーポレーションほか1社事件 大阪地判平12.9.22 労判794‐37)。

ただし、減額・ 不支給条項の適用にあたって、

退職金の趣旨や性格から、限定的な解釈を行う裁判例も多い。


 これに対して、退職金の不支給

顕著な背信性がある場合に限ると解するのが

相当であり、

その判断にあたって、不支給条項の必要性

退職の目的会社の損害などの諸般事情を総合的に

考慮すべきとして、不支給条項の適用を否定し、退職金の

支払いを命じたものがある

中部日本広告社事件 名古屋高判平2.8.31 労判569‐37)。

また、退職金の適用除外事由として「懲戒解雇された場合」しか

定められていなかった場合に、

これを限定列挙と解し、

退職後同業他社に就職した労働者に対する

退職金の支払いを拒否できないとするものがある


東京コムウェル事件 東京地判平15.9.19 労判864‐53)。



(3)懲戒解雇相当の背信行為


 そして、懲戒解雇に相当するような在職中の背信行為を

不支給条項として定めている場合、

懲戒解雇が有効なときは

退職金請求権を否定する裁判例が多い

ソニー生命保険事件 東京地判平11.3.26 労判771‐77、

わかしお銀行事件
 東京地判平12.10.16 労判798‐9、

小田急電鉄事件
 東京地判平14.11.15 労判844‐38)。

また、功労報償的性格から、在職中に懲戒解雇に匹敵する

重大な背信行為を行った者の退職金請求が

権利の濫用にあたるとしたもの

(アイビ・ プロテック事件 東京地判平12.12.18 労判803‐74、

東京ゼネラル事件 東京地判平8.4.26 労判697‐57)、

退職年金受給者に雇用期間中の功績を

無にするほどの不祥事(覚醒剤取締法違反逮捕)があった場合に、

年金支給を停止することができるとしたもの

朝日新聞社(会社年金)事件 大阪地判平12.1.28 労判786‐41)などがある。


 これに対して、過去の労働に対する評価を抹消させてしまうほどの

背信行為があったとは認められないとして、

退職金の支払いを命じる裁判例

トヨタ工業事件 東京地判平6.6.28  労判655‐17、

日本コンベンションサービス事件
 大阪高判平10.5.29 労判745‐42)もある。

なお、やや古い裁判例だが、経営秩序違反があったものの、

退職金の全額を失わせるような長期勤続の功を一切抹消するほどの

不信行為とはいえないので、

退職金額の6割を超えて没収することは許されない

(4割分支給)として、割合的な支給を認めたものもある

橋元運輸事件 名古屋地判昭47.4.28 判時680‐88)。



(4)経営上の理由

 このほか、整理解雇に伴い退職金を3分の2に減額する措置の適法性

争われた

神戸精糖事件
(神戸地判昭59.11.26 労判449‐81)では、

退職金の減額は、これを行うことがやむをえないと認められる

特別の事情が存在し、その減額の範囲が相当と認められる場合に

限って許されると述べた上で、減額措置を有効とした

(ただし、これは不利益変更の問題といいうる。











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