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        個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                 退職




                                      早期退職優遇制度

1.ポイント


(1)早期優遇退職に際して使用者の承諾を必要とすることは、違法ではない

(2)優遇された金銭の支給額について、制度の実施または適用の時間的前後関係から、

労働者の間で不平等が生じても、使用者は、労働者を平等に取扱う義務はない

2.モデル裁判例

  住友金属工業(退職金)事件 大阪地判平12.4.19 労判785‐38


(1)事件のあらまし

 鉄鋼・非鉄金属の製造・販売を業とする被告会社Yは、

関連会社2社と関連機関1組織を、余剰人員の職場の確保ないし余剰人員の

職種転換訓練のために設置していた。

しかし、さらに余剰人員が生じて配転が困難であり、既に実施していた

早期退職優遇制度のみでは応募者数に限界があった。

そこで、希望退職者の増加を見込んで、関連会社2社への出向者と1組織での

在籍者のうち、平成7年7月〜9月に退職した者に対してのみ、

優遇制度による加算金の他、定年までの残年数1年当たり50〜100万円で

算出した上積み金を支給することとし、出向者のうち310名に支給した(第一次受領者)。

さらに、同年4月〜6月に退職した15名から上積み金の支払いを請求され、

同年9月に、残年数1年当たり50万円で算出した上積み金を支給した(第二次受領者)。

 早期退職優遇制度の適用を受けて加算金を受領し、退職した原告労働者Xら11名は、

前記上積み金の支給対象期間以外の期間に退職するか、支給期間内であっても

支給対象とされた会社および機関に退職時に所属していなかった。

X らは、Y が、第一次受領者と第二次受領者に対しては早期退職優遇制度に

よる加算金の他に上積み金を支給したにもかかわらず、自分たちに

支給しなかったのは、従業員を平等に取扱うという雇用主の義務に反し、

契約違反または違法な行為に当たるとして、定年までの残年数1年当たり50万円で

算出した上積み金相当額の支払いを、Y に求めた。



(2)判決の内容

 労働者側敗訴

 退職金に対する加算金は、退職の勧めに応じる対価である。

したがって、退職を勧める必要性の度合いや、退職を勧められる時期や

所属していた部署によって、退職金の支給額が変わっても、退職の勧めに

応じるのは労働者の自由な意思によるものであり、従業員を平等に取扱うという

原則に反するとは言えない。

関連の2社と1組織においては特に多人数の希望退職を求める必要があったの

だから、従業員を平等に取扱うという雇用主の義務違反があったとは言えない。

 Xらが、自分と違う部署の者や、その後に退職する者に対して、自分たちよりも

多額の退職金が支払われることはないと信じたとしても、違う部署の者や、その後に

退職した者に対して退職金に加算金が上積みされることになったからといって、

YがX らに対しても加算金を支払わなければならない義務が発生するものでもない。

また、Xらが法律上保護されるべき期待を持っているわけでもない。

 確かに同じ職場から退職しながら、1日の違いで加算金の有無という支給額の

格差が生じることは問題である。しかし、第二次受領者については、上積み金

支払い前の退職者について、さかのぼって上積み金が支払われたもので、

第二次受領者に上積み金を請求する権利があって支払われたものではない。

そのように、さかのぼって支払うことについて、無制限にさかのぼることはできず、

画一的な処理を必要とするものであるから、Xらに上積み金が支給されなかったことは

やむを得ない。


3.解 説


(1)早期退職優遇制度の適用

 退職に関連して、労働者にとって金銭的により有利な措置が盛り込まれている

制度は、「早期退職優遇制度」などと呼ばれている。

この制度は、一時的な緩やかな雇用調整措置なので、常に設けられ、いつでも

労働者が利用できるとされていることはない。従って、一定の資格があるか

条件を満たしていて、限られた期間内に応募をするか自動的に適用されない

限り、早期退職優遇制度は適用されない。

 実際にも、制度の適用対象年齢以前に退職した場合には早期退職優遇制度は

適用されないと判断された事件

ホーヤ事件 大阪地判平9.10.31 労経速1674‐26、

アラビア石油事件
 東京地判平13.11.9  労判819‐39) や、

内規の早期退職優遇制度が自動的に労働契約の内容になるわけではないと

判断された事件

日商岩井事件東京地判平7.3.31  労経速1564‐23) がある。

また、出向期間中に出向元で実施された希望退職制度について、出向者を

適用対象外としても、出向者を出向していない労働者と同等に扱うとの明確な

定めがない限り、違法ではないとした事件もある

N T T西日本(出向者退職) 事件 大阪地判平15.9.12  労判864‐63)。

なお、懲戒処分の理由がある場合は、転身援助制度の優遇措置は適用されないと

した事例がある

中外爐工業事件大阪地判平13.3.23  労経速1768‐20)。

 但し、本来は早期退職優遇制度の適用のない年齢の者であっても、

同制度が他の年齢の者にも準用する場合があると定めていれば、

実際の退職金額と、支払われるべき優遇退職金額との差額の請求が認められる

場合もある

朝日広告社事件 大阪高判平11.4.27  労判774‐83)。

また、一般的に言って、制度の適用を認めないことが当事者間の信義に

反する特別の事情がある場合、会社は、制度利用申請の承認を拒否することは

できない

ソニー(早期割増退職金)事件 東京地判平14.4.9  労判829‐56。

但し、この事件では特別の事情はなく、承認を拒否できると判断した)。

 なお、早期退職の募集は、退職の申し込みではなく、あくまで「誘い」であり、

労働者が応募することで退職という法的効果が自動的に生じるものではない

津田鋼材事件 大阪地判平11.12.24 労判782‐47、

近畿松下テクニカルサービス事件
 大阪地判平14.8.9 労判839‐89、

前掲ソニー(早期割増退職金)事件)。

(2)早期退職優遇制度の資格要件

 早期退職の募集によって有能な人材が社外へ流出することを阻止すべく、

会社は引き留めを行うことが多い。その結果、制度が適用される者すべてが、

優遇措置を受けて退職できるわけではない。裁判所は、会社に必要不可欠な者が

退職すると業務に支障が生じるので、

早期退職に使用者の承認を必要とすることは不合理ではないと判断している

大和銀行事件 大阪地判平12.5.12 労判785‐31)。

また、承認しなければならない法的義務があるわけでもない

日本オラクル事件 東京地判平15.11.18 労判862‐90)。


(3)早期退職優遇制度と割増退職金の請求

 支払われるべきだと信じていた退職金額と、実際の支払い額に差がある場合、

その差額の支払い請求は認められるか。

 裁判例の傾向によれば、制度が適用されていた労働者の間で不平等が

生じることになっても、それを補償する内規などがなければ

(前掲朝日広告社事件)、差額の支払い請求は認められない(モデル裁判例)。


 制度適用の時間的前後関係から見ても同様である。

例えば、後に会社がより有利な優遇制度を設けたからといって、会社に

差額の支払い(損害賠償)責任はなく

長崎屋事件 前橋地桐生支判平8.5.29 労判702‐89)、

早期退職制度の導入前に退職した場合でも、制度が適用されていれば得ていた

はずの額と、実際の退職金額との差額の請求は認められない

大阪府国民健康保険団体連合会事件 大阪地判平10.7.24 労判750‐88)。

退職後により有利な退職金規程を定めた労働協約が締結されたが、

締結以前に退職した場合も、同じことが言える

阪和銀行事件 和歌山地判平13.3.6 労判809‐67もある)。


 なお、労働者は早期退職優遇制度が設置される予定であることを知らされずに

退職した場合、会社には、そのような制度が設置されることを、退職する労働者に

知らせる義務はなく、早期退職付加金に相当する金額の損害賠償請求は

認められない

イーストマン・コダック・アジア・パシフィック事件 東京地判平8.12.20 労判709‐12)。







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