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        個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                               退職



                                 退職の意思表示

1.ポイント


(1)退職は、当事者の意思から合理的に推測される場合客観的状況などから、

法的に有効なものであるかが判断される。

(2)退職の意思の表明は、権限ある役職者が承諾するまでならば撤回できる

(3)退職の意思の表明が、「心裡留保」や「錯誤」に当たる場合は無効であり、

強迫」に当たる場合は取り消すことができる


2.モデル裁判例

  大隈鐵工所事件 最三小判昭62.9.18 労判504‐6


(1)事件のあらまし

 第一審原告の労働者Xは、同期入社のAと共に、鉄工業を営む被告会社Y内で

民青活動(共産党関連活動)を行っていた。

Xは、Aが失踪したため、上司BらからAの失踪について事情聴取された。

BらはAの部屋から発見した民青関連資料をもとに、Xに対してAの失踪について

知らないか問いただしたところ、XはAの失踪と関係ないと述べ自ら退職を

申し出た。

人事管理の最高責任者である人事部長Cは退職する必要はないと引き留めたが、

Xが聞き入れなかったため退職届をXに渡した。

するとXは、その場で退職届に記入・署名・捺印したうえ、Cに提出した。

しかし、提出の翌日、X は退職願を撤回すると人事課長D に申し出たが拒否された。

そこでXは、退職届の提出は

違法な解雇に当たるか、無効な退職合意であるなどと主張して、

従業員としての地位があることの確認を求めて訴えを起こした。

 一審は退職の意思表示を無効としたが、

二審は労働者の撤回により退職の意思表示は効力を失ったとして

Xの請求を認めた。そこでYが上告したのが本件である。


(2)判決の内容

 労働者側敗訴

 CがXの退職願を受理したことで即時に会社が退職を承諾したことになり、退職は有効。

 労働者の退職願に対する承認について、入社に際して行われる

筆記試験や役員面接試験とは異なり、

採用後の労働者の能力・人物・実績などについて掌握しうる立場にある

人事部長に、退職の承認についての判断をさせ、単独でこれを決定する権限を

与えることは何ら不合理ではない。人事部長に退職願に対する承認の決定権が

あるならば、人事部長が労働者の退職願を受理したことで、労働契約の解約(退職)

申し込みに対する会社の即時の承認の意思が示されたと言うべきである。

そして、これによって、労働契約の解約(退職)の合意が成立した。

3.解 説


「退職」に関しては、以下のように幾つかの問題に分けられる。

(1)合意解約

 「合意解約」とは、「契約当事者双方の合意によって契約関係を解約すること」である。

合意解約は、通常、労働者の「会社を辞める」という意思の表明と、

権限ある者の「了解」や「承諾」によって成立する。

しかし、合意解約と認められる状況は様々である。

職員の常務理事就任(大阪工大摂南大学事件 最一小判平5.12. 労判648‐27)、

出向先の経営権が他に譲渡されることを知りつつ出向元に復帰せず出向先で

就労したこと

アイ・ビイ・アイ事件 東京地判平2.10.26 労判574‐41)、

元の会社と同じ経営者が新たに派遣会社を設立して、今後は、その派遣会社と

雇用契約を結んで、従来と同じ業務を行うことを合意したこと

アサヒ三教事件 東京地判平2.12.14 労判576‐30) などの事件がある。

なお、労働者が会社を辞めると一方的に発言しても、確定的に雇用契約を終了させる

意思が客観的に明らかでなければ、辞職の意思の表明ではない

大通事件 大阪地判平10.7.17 労判750‐79)。


 合意解約に関するもう一つの問題は、

撤回はどの時点まで許されるのかである。モデル裁判例の他に、

常務取締役部長は単独で退職を承認する権限を持たないとして、

退職意思の表明を撤回したことは法的に有効とされた事件もある

岡山電気軌道事件 岡山地判平3.11.19 労判613‐70)。

しかし、一般的には、退職の意思を承認する権限のある者が承諾するまで

ならば、退職の意思を撤回できる

(理事長につき、学校法人白頭学院事件 大阪地判平9.8.29 労判725‐40、

工場長につき、ネスレ日本(合意退職)事件 東京高判平13.9.12 労判817‐51)。


(2)心裡留保・錯誤・強迫

 「心裡留保」とは、

「意思を表明する者が、自分の表明した意思が内心の意思とは異なる意味で相手に

理解されることを知りながら行う意思表示」のことである。

つまり、” 自分が本心から言っていないことが相手にも理解されるつもりでウソの意思を

表明すること”である。

例えば、会社を辞める意思がないのに労働者が会社を辞めると告げたり

退職届を提出したりする場合で、使用者が、労働者は実は会社を辞める意思がない

ことを知っている場合である

昭和女子大学事件 東京地決平4.2.6労判610‐72)。

相手が自分の真意を知っているか知るはずであった場合、その意思の表明は

法的には無効である(民法93条但書)。


 「錯誤」とは、

「意思表示をした者の内心の効果意思(法律効果を発生させようとする意思)と表示した

意思が一致せず、表意者がそれを知らないこと」である。

例えば、退職届を提出したのは、自分が懲戒解雇されると思い込みこれを避けるため

だったが、結局、懲戒解雇の可能性はなく、懲戒解雇になると誤って思い込んで

退職届を提出した場合である

学校法人徳心学園事件 横浜地決平7.11.8 労判701‐70)。

このような錯誤のある意思表示は、法的には無効である(民法95条)。

 「強迫」とは、

「他人に害悪を示し、脅かして恐怖心を生じさせ、その人の自由な意思決定を

妨げる行為」をいう。

例えば、懲戒処分や不利益な取扱いをほのめかして退職の申込みをさせる場合が

これに当たる

(秩序紊乱行為につき、昭和自動車事件 福岡地判昭52.2.4 判時880‐93)。

強迫されて意思の表明をした者は、表明した意思を取り消すことができる(民法96条)。

(3)退職に関するその他の問題

 一つには、退職に際しての予告期間の延長や許可制の問題がある。

裁判所は、会社のために2週間(民法627条1項) を超えて退職予告期間を延長する

ことは、労基法が定める人身拘束防止の諸規定に反するとしている。

また、退職の許可制も、労働者の退職の自由を制限するので、法的な効力を

持たないと判断している

高野メリヤス事件 東京地判昭51.10.29 判時841‐102)。


 もう一つは、退職に伴う損害賠償責任の問題がある。

会社が労働者の突然の退職(入社後4日)によって被った損害の賠償を求めた

事件で、裁判所は、労働者に70万円の賠償金を会社に支払うよう命じた

ケイズインターナショナル事件 東京地判平4.9.30 労判616‐10)。

反対に、会社が退職に関する幾つかの手続きを遅れて行ったため、労働者が

転職に支障を来したという事件で、裁判所は、退職届提出後の2週間から後、

会社は速やかに退職に関する幾つかの手続きを行うべきであったとして、

転職先で支払われるはずの給与と実際の給与との差額など、

193万円余の損害賠償金の支払いを認めている

東京ゼネラル事件 東京地判平8.12.20 労判711‐52)。








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