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個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ
異動
転 籍
1.ポイント
(1)転籍出向とは、勤務していた会社の雇用契約上の地位を失って
異なる会社の社員として働くことをいう。
元の会社の身分を失うことが転籍の最大の特徴である。
(2)転籍出向は従前の会社との関係でいえば、雇用関係の終了(解雇)であり、
移動先の会社との関係では、雇用関係の成立(雇用契約の締結)となる。
(3)転籍出向には従業員の同意が原則的には必要となる。
(4)転籍について事前の一般的な同意が認められる余地があるのは、
事前の転籍先・労働条件の明示・一定水準維持への配慮や、
それらに基づく採用時又は中途での同意や、
転籍先と転籍元が同一会社と同一視できる程度の密接な人事交流がなされている
ような系列企業グループ内の異動の場合に限られる。
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2.モデル裁判例
三和機材事件 東京地決平4.1.31 判時1416‐130
(1)事件のあらまし
主に機械の製造販売をしている使用者Yが、和議手続下での会社再建策の一環として同社の営業部を独立させ新会社を設立し、同社の営業部門の労働者Xら全員に対して新会社への転籍出向を内示したところ、Xのみが転籍を拒否したため、YはXを懲戒解雇した。そこで、Xが転籍命令・懲戒解雇の効力を争い、Yとの雇用契約上の地位の確認を求めたのが本件である。Xは、本件転籍出向命令は無効であると主張した。これに対してYは、会社のした本件転籍出向命令は、会社と新会社とは法人格こそ別であるが実質的には同一会社で、出向者にとっては給付すべき義務の内容及び賃金等の労働条件に差異はなく、出向になっても何の不利益もなく、本件転籍出向については配転と同じ法理により、会社の持つ包括的人事権に基づき、従業員の同意なしに命じ得ることと、新会社設立3
ヵ月前に、従前から存した就業規則の出向規定に転籍出向を含む改訂を行ない、その適用も主張した。
(2)判決の内容 労働者側勝訴 転籍出向は出向前の使用者との間の従前の労働契約関係を解消し、出向先の使用者との間に新たな労働契約関係を生ぜしめるものであるから、労働者にとっては重大な利害が生ずる問題である。したがって、一方的に使用者の意思のみによって転籍出向を命じ得るとすることは相当でない。ただ、現代の企業社会では、賃金の高低等客観的な労働条件や使用者(企業)の経済力等のいわば物的な関係を重視する傾向が強まっている。また使用者側においても企業の系列化なくしては円滑な企業活動が困難になることもありうる。これらの事実から見ると、いかなる場合にも転籍出向を命じるには労働者の同意が必要であるとする考えには疑問がある。他方で、労働契約における人的関係の重要性は否定することはできない。本件の場合は、転籍元・先両社の間には右物的な関係においても差異がないとまではいい難い。更に、Xは本件転籍出向につき具体的同意はもちろん一般的な同意もしていなかった。そうであれば(前記転籍を含む旨の出向規定の改訂は労働契約の内容となっていない)、同意のないYの本件転籍出向命令は無効で、その有効性を前提とする懲戒解雇も無効である。
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3.解 説
(1)転籍出向の意義 転籍出向とは勤務する会社と異なる会社に就労することであり、勤務する会社との雇用契約上の地位・身分を失って異なる会社の社員として就労(転籍)することをいう。つまり、従前の会社の関係でいえば雇用関係の終了(解雇)であり、移動先の会社との関係では雇用関係の成立(雇用契約の締結)ということになる。元の会社の身分を有したまま他の会社に就労する在籍出向と異なり、元の会社の身分・籍を失うことが転籍の最大の問題である。転籍出向先の会社には、系列会社、子会社等が多いが、その他の会社に転籍出向になる場合もある。労働条件が従前の会社の労働条件との関係で同一なのか変更されるのかも重大な問題となる。
(2)従業員の同意 転籍出向には従業員の同意が必要となる。裁判例は、労働契約での、労使の信頼関係を基礎とした継続的な性格を踏まえ、転籍出向が従前の会社の退職と新会社との雇用契約の締結という行為を一度に行う内容を有することから労働者の承諾の必要性を指摘してきた(日立製作所横浜工場事件 最一小判昭48.4.12
裁判集民109‐53、ミロク製作所事件 高知地判昭53.4.20 労判306‐48等)。
(3)事前の包括的合意による転籍の可否 転籍については、事前の一般的な同意の可能性について議論がある。事前の「包括的同意」の可能性については原則として認められていない(モデル裁判例等)。これが認められる余地があるのは、事前の転籍先・労働条件の明示・一定水準維持への配慮や、それらに基づく採用時又は中途での同意や(入社時の一般的な同意があったことを指摘する日立精機事件 東京高判昭63.4.27 労判536‐71)、転籍先と転籍元が同一会社とみなせる程度の密接な人事交流がなされているような系列企業グループ内の異動の場合に限られる(日立精機事件 千葉地判昭56.5.25 労判372‐49)。この考え方の延長として、転籍の場合に、転籍先の重要な労働条件は確定していないことを理由に転籍の効果が否定されることがある。例えば、生協イーコープ・下馬生協事件(東京地判平5.6.11 労判634‐21)では、移籍元法人が別法人との間で従業員を同法人に移籍させることを合意し、当該従業員が移籍元法人に対し右合意に基づく移籍を承諾した場合でも、その時点で移籍時期、移籍後の雇用条件について何も決まっていなかったことから、同従業員の移籍承諾と同時に雇用契約上の地位が別法人に移転したとみることはできないとされている。
(4)転籍に伴う様々な紛争 なお、転籍については、以上の転籍命令有効要件の問題に留まらず、以下のように、転籍に伴う様々な紛争が生じている。 @転籍か出向かの争い 例えば、その異動が転籍か出向かが争点となる事案でも、出向とされたり(ニシデン事件 東京地判平11.3.16 労判766‐53)、転籍とされ転籍元との雇用契約関係が否定されたりしている(玉川機械金属事件 東京地判昭61.4.25 労判473‐6)。なお、長期の在籍出向の延長命令が実質的転籍命令か否かが争われた事案で、出向の延長により、出向期間の長期化があっても、出向元との労働契約関係の存続自体が形がい化しているとはいえない等の事情があるときは転籍と同視することはできないとされている(
新日本製鐵事件 最二小判平15.4.18
労判847‐14、[異動](36)参照)。 A転籍者への退職金の処理 転籍の場合、出向先事業主との間にのみ労働契約関係がある。そこで、雇用主としての責任は、原則として出向先のみが負うこととなる。ここから、転職者への退職金の処理をめぐる紛争も見られる。例えば、大日本ユニプロセス事件(東京地判平12.12.22 労判800‐87)では、グループ企業内の転籍者に対し、勤続年数を通算して退職金を算定し、その際、転籍元企業退職時に支給された退職金の中間利息を控除するとの退職金規定の変更(労使協定)について、退職金規定の内容は不合理ではなく、転籍労働者に対して不利益は生じていないとして右変更は有効と認められた。幸福銀行(退職出向者退職金)事件(大阪地判平15.7.4 労判856‐36)
では、当該出向が転籍と認定され、出向元への退職金請求が否定された。 なお、在籍出向の場合、通常、出向期間は出向元の勤続年数に加算されるが、出向元が解散し、出向先に転籍した者については、出向期間を含めた退職金請求は認められず、特別の出向元から出向先への通算の合意等がない限り、出向先に対しては移籍後の勤続期間に応じた退職金しか請求できない(日本ケーブルテレビジョン事件 東京地判平16.1.28
労経速1868‐21、(37)[異動]参照)。 |
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