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        個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


       

               女性労働

             セクシュアル・ハラスメントへの使用者の対応

1.ポイント



会社は、セクシュアル・ハラスメントが行われた後、

事後的な対応を怠るか、

被害者を排除することによって

問題の解決を図った場合、

被害者に対して法的責任を負う

2.モデル裁判例


  三重セクシュアル・ハラスメント(厚生農協連合会)事件 津地判平9.11.5 労判729‐54

(1)事件のあらまし

 被告Y2(原告Xらの男性上司・副主任)は、

日中の勤務中に、

原告X1,2(女性・看護婦、准看護婦)らとすれ違う際、

Xらのお尻を撫でるように触り、性的発言を行った。

また、Y2は、夜勤中の休憩室でも、

Xらに対して同様の行為を行っていたが、

その際Xらは、Y2の手を払いのけるなどして詰所に逃げている。

 これら行為の数日後、X2は、A主任に対して、

Y2との深夜勤はやりたくないと申し入れたが、

Aは何も答えず、その理由も聞かなかった。

その後も、Y2はX2に対して同様の行為を繰り返したため、

X2は再びAに対し、深夜勤の際のY2の行動を何とかして欲しいと

訴えたが、AはX2の話になかなか耳を傾けず、

最終的には何とかすると答えたものの、

AはB婦長に報告しなかった。

そこでX2は、後日、Aに対して、

Y 2への対処を申し入れたが、

Aは今日一日だけ待ってくれと回答するに止まった。

 X2はさらに、Bに対して、Y2の行為について訴えたところ、

B、C院長、D事務長らは、Y2や他の看護婦らから

事情聴取を行い、Xらが所属する病棟に勤務する者も

交えて話し合いの場を持った。

この事件のE病院は、経営主体である被告厚生農協連合会Y1に

話し合いの結果を報告し、

Y1は、Y2を就業規則に基づいて懲戒処分に処すると共に、

副主任の任を解いた。

Y2はY1に対して反省の誓約書を提出し、

Y1はX1に対して、事務長・婦長連名の謝罪書を提出した。

なお、以上の経緯においては、勤務表を変更して

Xらを夜勤から外し、その後はXらとY2が夜勤で一緒に組む

ことのないように勤務表を作成している。

 以上の事実にもとづき、XらはY2に対しては

違法行為、Y1に対しては違法行為および契約違反を

理由に損害賠償330万円の支払いを求めて訴えを起こした。



(2)判決の内容

 労働者側勝訴

 Y1とY2が、各自55万円を支払う限度でXらの請求が認められた。

 被告Y2の行為は、環境型セクシュアル・ハラスメントの

違法な行為に当たる。

使用者は、被用者に対して、労働契約の義務の一つとして、

労働者にとって働きやすい職場環境を保つよう

配慮すべき義務を負っており、Y1もXらに対して同様の義務を負う。

Y2には従前から、日常勤務中、特に卑猥な言動が認められた。

しかし、Y1はY2に対して何も注意をしなかった。

A主任は、X2からY2と夜勤をやりたくないと聞きながらも、

その理由すら尋ねず何ら対応策を取らなかった。

Aは、X2から休憩室でのY2の行為を聞いたにも拘わらず、

直ちにB婦長らに伝えようとせず、Y2に注意することも

しなかった。これらの結果、夜勤中、Y2のX1に対する休憩室での

行為が行われた。したがって、Y1は、Xらに対して負っている、

働きやすい職場環境を保つよう配慮すべき義務を

怠り、その結果、Y2の休憩室での行為を招いたと認められるから、

Xらに対して、労働契約にもとづく義務違反の法的責任を負う。


3.解 説

(1)事前・事後の対応

 会社が、その支配圏内(例えば社内)で、

セクシュアル・ハラスメント(以下S.H.)の事前・事後の

対応を怠ることは、自らの損害賠償責任を生じさせる。

 事前の対応については、S.H.行為問題となる以前に

防止措置を取っていなかったことが研修旅行中に行われた

行為が惹起された一因であるとして、

会社の職場環境維持・調整義務違反として

会社の法的責任を認めた事件がある

鹿児島セクハラ(社団法人)事件 鹿児島地判平13.11.27 労判836‐151。慰謝料30万円)。

 他方、事後の迅速な対応を怠った場合、

会社に法的責任が生じることは、モデル裁判例に見る通り

である。モデル裁判例ではさらに、組織的に責任体制を確立し、

毎月定期の勉強会や職員の研修会を実施して、

職員に対して指導監督をしても、この事案に即した労働契約に

もとづく会社の義務(働きやすい職場環境を保つよう配慮すべき

義務)が尽くされたとは認められていない。

 なお、同僚による職場のトイレでの覗き見行為に対して

適切な対応をとらなかったため、会社に損害賠償責任が

認められた事件がある

仙台セクハラ(自動車販売会社)事件

 仙台地判平13.3.26 労判808‐13。350万円の支払いが認められた)。

 他方、就業時間外の社外でのS.H. を防止しないことが、

会社に法的責任を生じさせるかは判断が微妙である。

顧客から暴行を受けたことに対して会社が安全を配慮

しなかったため、退職を余儀なくされたという事件について、

裁判所は、事件発生以前に会社が事件発生を予測するのは

難しい。また、顧客の暴行は職場外・就業時間外に行われたもので

あるから、会社に義務違反があったとは認められない、と判断している

バイオテック事件 東京地判平11.4.2 労判772‐84)。


(2)被害者の排除による問題解決

 会社が、被害者の女性労働者を退職させることで問題の

解決を図ろうとした場合、会社は、法的責任を負う

(福岡セクハラ(丙企画)事件 福岡地判平4.4.16 労判607‐6。東京セクハラ(M 商事)

事件 東京地判平11.3.12 労判760‐23でも同様。損害賠償311万円)。

その際の解雇は、権利の濫用として当然無効になる

(沼津セクハラ(F鉄道工業) 事件 静岡地沼津支判平11.2.26 労判760‐38)。

また、S.H. 行為に対する苦情とその対応を会社に求めたが

受け入れられず、雇用均等室に相談しつつさらに会社に対して

S.H. に対する会社の方針の明確化や過去に生じた事実の確認を

求めたりしたことなどから、不利益な処分を課すという不当な

動機・目的をもってなされた配転命令は、権利の濫用として無効と

なると判断した事件がある

(名古屋セクハラ(K設計) 事件 名古屋地決平15.1.14 労判852‐58。

違法な配転命令に従わなかったことを理由とする懲戒解雇は

無効、1年間の賃金を仮に支払う命令が出された)。


(3)プライバシー侵害

 男性従業員によるビデオの隠し撮りに端を発して、

その男性従業員と原告女性従業員が男女関係にあるかの

ような会社取締役の発言によって女性従業員が退職を

余儀なくされたという事件について、

裁判所は、会社には労働者との契約にもとづき

労働者のプライバシーが侵害されないよう、

また労働者がその意に反して退職することがないように

職場環境を整える義務があると述べている

(京都セクハラ(呉服販売会社)事件 京都地判平9.4.17 労判716‐49。損害賠償約

214万円)。

また、女性従業員の社外での情交関係に端を発して、

強迫により退職届を提出させた行為と、情交に関し詳細に

陳述することを求め供述書を作成して署名押印させた行為は、

女性従業員の精神的自由を侵害し、人格を傷つけるものだとして、

会社の損害賠償責任を認めた事件がある

石見交通事件 松江地益田支判昭44.11.18 労民集20‐6‐1527。30万円)。


(4)セクシュアル・ハラスメント行為者の処分

 S.H. 行為者は、就業規則の「風紀を乱した者」

「会社の信用を失墜させた者」に当たり、懲戒処分(会社に

よる私的な制裁措置) の対象とされる。

事件としては、業務請負会社の労働者が発注元会社において

強制猥褻行為を行った場合

コンピューター・メンテナンス・サービス事件 東京地判平10.12.7 労判751‐18)

がある。また、多数の部下を有する管理職がS.H. を

行った場合、管理職としての適格性を欠くとして普通解雇が

有効とされた事件がある

(A 製薬事件 東京地判平12.8. 29 労判794‐77)。














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