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        個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                 異動



                                            復 帰

1.ポイント


(1)在籍出向にあっては、将来出向元へ復帰することを予定して出向が

命じられている限り、復帰命令に労働者の同意を得る必要はない


(2)転籍出向あるいは、

人員削減等のため、事実上、復帰が予想されていない片道の在籍出向

ように、再度の出向元での労務の給付を予定していない場合には、

復帰を命ずるについては労働者の同意を必要とする場合も
ある。


2.モデル裁判例

  古河電気工業・原子燃料工業事件 最二小判昭60.4.5 民集39‐3‐675


(1)事件のあらまし

 労働者Xは、電気工業事業を営む使用者Yと別会社が折半出資により設立された

出向先に、休職派遣の形で出向を命じられた。

出向に当たっては、人事上の必要等のための復帰があり得ることが予定されており、

Yはそのことを予定して従業員に出向を命じ、出向を命じられた者もそのことを

予定して出向に同意した。

ところが、Xは、出向先での平素の出勤状況が芳しくなく、上司からの注意にも反省の

色が見えないので、Yとしては、Xをこのまま出向させておくことは適当でないと考え、

自社の中央研究所に補充を要する欠員があったので、Xに対しY出向元に復帰し、

その中央研究所に勤務すべきことを命じた。

しかし、Xはこれに従わず、元の職場に出勤し、再三にわたる説得や命令を無視した。

そこで、Yは、「職務上の指示命令に従わず、職場の秩序を紊し、又は紊そうとしたとき」と

いう労働協約所定の懲戒解雇事由に当たるとして、Xを懲戒解雇した。

Xは、これに対し、復帰命令には労働者の同意が必要であるのにこれを得ていない

から無効であり、懲戒解雇事由は存在しないこと、権利の濫用に当たることなどを

理由に懲戒解雇が無効であると主張して、

出向先・元両社に対し、雇用契約上の権利確認、賃金の支払い等を請求した。

これに対しYは上記経緯を主張し懲戒解雇の有効性を主張した。

 一審(東京地判昭52.12.21 労判289‐27)・

二審(東京高判昭56.5.27 労民集32‐3 ・4‐400)は、

原告の請求を棄却したので、不服として労働者が上告したのが本件である。


(2)判決の内容

 労働者側敗訴

 労働者が出向元との間の雇用契約に基づく従業員たる身分を保有したままで

出向先の指揮監督の下に労務を提供するといういわゆる在籍出向が命じられた

場合に、その後出向元が、出向先の同意を得た上、この出向関係を解消して労働者に

対し復帰を命ずるには、特段の事由のない限り、その労働者の同意を得る必要はない。

なぜなら、復帰命令は、指揮監督の主体を出向先から出向元へ変更するものだが、

労働者が出向元の指揮監督の下に労務を提供するということは、もともと出向元との

当初の雇用契約において合意されていた事柄である。

在籍出向では、出向元へ復帰させないことを予定して出向が命じられ、労働者が

これに同意した結果、将来労働者が再び出向元の指揮監督の下に労務を提供する

ことはない旨の合意が成立したものとみられるなどの特段の事由がない限り、

労働者が出向元の指揮監督の下に労務を提供するという当初の雇用契約における

合意自体には変更はなく、右合意の存在を前提とした上で、一時的に出向先の

指揮監督の下に労務を提供する関係となっていたにすぎないものというべきである

からである。本件では、Xの出向先への出向は、業務上の都合により出向元Yへ

復帰を命ずることがあることを予定して行われたもので、Xが出向元の指揮監督の下に

おいて労務を提供するという当初の雇用契約における合意がその後変容を受けるに

至ったとみるべき特段の事情の認められない。そうであれば、YはXに対し復帰を

命ずる際に改めてXの同意を得る必要はなく、復帰命令は有効であり、これを拒否した

ことを理由とする懲戒解雇は有効である。


3.解 説


(1)復帰命令の可否

 使用者が在籍出向を命じている労働者に対し、出向関係を解消して出向元への

復帰を命ずるについては、その労働者の同意を得ることを要するであろうか。

モデル裁判例は、この問題点について、特段の事由がない限り、同意を得る必要はない

とする判断を示した。

使用者が出向を命じている労働者に対し復帰を命ずるについてその労働者の同意を

必要とするかという問題は、出向の根拠となった出向元と労働者との合意の内容に

よって決まる事柄であると考えられるから、後掲(38)[異動]の転籍出向の場合と

在籍出向の場合とでは、原則的な考え方が異なってくる。


(2)転籍出向の場合

 すなわち、転籍出向の場合には、出向元との雇用契約関係は解消されるのである

から、出向元の指揮命令の下に労務を給付するという当初の雇用契約における合意は

消滅しているものというべきであり、再び出向元で労務を給付させるためには原則として

労働者の同意が必要であると考えられる。出向の根拠となった合意の内容から、この

同意が不要とみられる特段の事由(例えば、後掲(38)[ 異動] の転籍の場合でも

例外的にグループ内出向が在籍、転籍を問わず自由に行なわれているような場合等)が

認められる場合は別であろう。


(3)在籍出向の場合

 これに対し、在籍出向にあっては、モデル裁判例も指摘する通り、将来出向元へ

復帰することを予定して出向が命じられている限り、出向元の指揮命令の下に働くと

いう当初の雇用契約における合意は、出向の根拠となった合意によって変容を

受けていないのであるから、復帰命令に労働者の同意を得る必要はないということが

できる。しかし、在籍出向ではあるが、例えば、勤務地の限定をして、定年まで出向先で

勤務することとする合意が成立しているような場合のように、再び出向元で労務を給付

することを予定していないような場合においては、上記の当初の雇用契約における

合意は、出向の根拠となった合意によって変更を受け、出向元の指揮命令の下に労務を

提供するということは出向後にはもはや予定していない事態であるから、復帰を命ずるに

ついては労働者の同意が必要となる。モデル裁判例は、以上のような考え方に基づくもの

と解される。

 前掲(36)[ 異動] のとおり、出向を命ずるに当たって労働者の同意を必要とするか、

また、その同意は出向先を明示した具体的、個別的なものであることを要するか、などの

点については、相当数の裁判例があり、学説上も議論がされているところであるが、

復帰命令と労働者の同意の要否という点については、裁判例としてはモデル裁判例が

現在も唯一の事例のようであり、学説上も論じられるところが少ない。

 本件は、先例として今後も参考となるであろう。

(4)出向・転籍後の労働関係―― 出向協定による

 @在籍出向

 在籍出向の場合、出向元事業主及び出向先事業主双方との間に労働契約関係がある。

出向先事業主と労働者との間の労働契約関係は通常の労働契約関係とは異なる独特の

ものである。形態としては、出向中は休職となり、身分関係のみが出向元事業主との

関係で残っていると認められるもの、身分関係が残っているだけでなく、出向中も出向

元事業主が賃金の一部について支払義務を負うもの等多様なものがある。なお、労働者

保護関係法規等における雇用主としての責任は、出向元事業主、出向先事業主及び

出向労働者三者間の出向協定などの取り決めによって定められた権限と責任に応じて

出向元事業主又は出向先事業主が負うこととなる。

 なお、在籍出向の場合、通常、出向期間は出向元の勤続年数に加算されるが、

出向元が解散し、出向先に移籍した者については、出向期間を含めた退職金請求は

認められず、特別の出向元からの通算の合意等がない限り、出向先に対しては

移籍後の勤続期間に応じた退職金しか請求できない

日本ケーブルテレビジョン事件 東京地判平16.1.28  労経速1868‐21)。


 A転籍出向

 転籍の場合、出向先事業主との間にのみ労働契約関係がある。なお、労働者保護

関係法規等における雇用主としての責任は、出向先のみが負うこととなる(当該出向が

転籍と認定され、出向元への退職金請求が否定された

幸福銀行(退職出向者退職金)事件
 大阪地判平15.7.4 労判856‐36参照)。










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