社会保険労務士田村事務所トップへ



        個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                        異動



                                  出 向

1.ポイント


(1)出向在籍出向)とは、

勤務する会社に雇用契約上の地位を保持した(在籍)まま、他の会社に相当長期に

亘り就労することをいう。


(2)出向は、配転と異なり、労務提供の相手方が他企業に変わる。そこで出向命令が

有効とされるためには

就業規則等で出向についての明確な定めがなされているだけでは足りない。

出向元の企業と出向先の企業とが密接な関係にあり、

出向により賃金・退職金その他労働条件等の面での不利益が生じないよう

制度が整備され、その職場で労働者が同種の出向を通常の人事手段として認め、

受け容れていることが必要である。


(3)配転におけると同様に

出向命令についても権利濫用として無効とされることがある



2.モデル裁判例

  興和事件 名古屋地判昭55.3.26 労判342‐61


(1)事件のあらまし

 使用者Yは関連20数社を持つグループ企業の中核会社であったが、

労働者Xの採用に当っては、Yのグループ企業別会社および

もう一つの関連会社の3 社共通の入社試験をして3 社一括採用

いう方法で採用し、その際に将来はY内部はもちろん、

別会社、関連会社各社へも社内転勤と同一手続による異動がある

ことについて充分に説明し、Xもこれを承知していた。

又、Yの就業規則には従業員は「傍系会社」別会社、関連会社への

転勤を命じられることがあると規定
され、別会社、関連会社各社への

出向はYらの3 社連名での辞令で行われていた


ところがYがXに関連会社への出向を命じたところ、Xは「出向は、使用者が

変更するから、その都度の同意がなければできない」と拒否
し、異議を留めて

関連会社に赴任した上で関連会社への出向命令の無効を求めて提訴した

のが本件である。

Yは、上記採用経緯、就業規則の定め、出向の運用実態を指摘して出向命令の

有効性を主張した。


(2)判決の内容

 労働者側敗訴

 Xは、本社たるYに採用資格社員として採用された。

その際Xは、Yから、次のような説明を受けた。本社採用資格社員は

勤務地及び職種を特定せず、別会社など3 社の幹部候補社員として採用すること

及び本社採用資格社員は、将来3 社間を社内転勤と同一手続によって異動を

命ぜられることがあり、その異動は社内で頻繁に行われていることなどである。

これに対しXは、承諾の意思を表明し、その結果Yに採用されるに至ったことが

認められる。以上の事情から、Xは採用の際にYの出向制度を理解し、将来に

おける関連会社等への出向について予めグループ企業内での全体的な出向に

ついての全般的な同意を会社に与えていたものと解される。

 本件では、入社の際明示の全体的な同意があり、就業規則上出向に関する

規定がおかれ、社内の出向手続も制度として確立していた。

又、Y内で、同手続に従って多数社員が関連会社に出向していた実績があった。

出向先は3 社と限定されており、この3 社間では労働条件は大部分が共通であり、

出向によって特に経済的不利益はなかった。更に、Xに対しては十分なる説明が

されていた。これらの状況から、YはXに対して、入社時の契約に基づき

包括的出向命令権を取得していたものということができ、本件命令は同権限の

行使としてこの同意の趣旨の範囲内において行われたものと認めるのが相当である。

 よって、本件出向命令は、業務上の必要に基づき人選に合理性があり権利の

濫用とはいえない。


3.解 説


(1)出向の意義

 出向とは勤務する会社に雇用契約上の地位を保有(在籍)したまま、他の会社に

就労することをいう。勤務する職場が同一会社内の場合の配転(転勤) と異なり、

他の会社の事業所等に勤務し、出向先の会社の労務指揮に服する場合である。

出向先の会社には、系列会社、子会社等が多いが、その他の会社に出向する場合も

ある。

(2)出向命令の有効要件としての同意

 このような出向に対して裁判所は、出向が当初労働契約上労務提供を約束した相手

以外の者に対して労務提供関係を発生させる点で、前掲(33)[ 異動] の配転とは

質的に異なる性格(労務提供の相手方の変更)を持っていることを意識した判断を

示していた。

つまり、出向と配転とは根本的に異なるものとして取り扱い、企業において実際上の

同種の出向が多数行われてきたとしても、就業規則等に使用者が出向を命じることが

できるとの明確な定めがない限り使用者の出向命令権は認められない、としてきた

のである。そのような考え方から、就業規則中に会社外の業務に従事するときは

休職にする旨を定める休職条項の間接的な規定があるだけでは、出向命令の根拠に

ならないとされてきた

日東タイヤ事件 最二小判昭48.10.19 労判189‐53等)。


(3)出向への受容の必要等

 裁判例では、以下のような判断枠組みに沿って出向命令の有効要件が判断

されている。

第一に、.で前述した通り、諸規則や採用時の合意である。「出向を命じ得る」との

規定だけでは不充分である。出向義務を明確にし、出向先での労働条件の基本

事項が、就業規則等で明確にされたり、各会社での出向の実情、採用時での説明と

同意、職場労働者の同種出向の受容(モデル裁判例参照)などによって出向が

労働契約の内容となっていることが必要である。

出向命令の有効要件につき、最近の

新日本製鐵事件
( 最二小判平15.4.18 労判847‐14) は、

ここでの「出向への受容」については触れていない。しかし、同事案が巨大企業

グループで企業間の出向が頻繁に行われている実態や、これを反映した出向関連

諸規程の整備に言及していることを踏まえると、この要件を踏まえた対応が妥当と

解される。

 第二に出向を命じる時も、出向命令が業務上の必要性に基づき、出向者の選定にも

合理性があることが必要である。更に出向者側の事情(出向先での賃金、労働

時間、休暇などの待遇、出向期間、更に、復帰の仕方や復帰後の待遇など)について

の配慮が必要である

東海旅客鉄道事件 大阪地決平6.8.10 労判658‐56、

前掲新日本製鐵事件参照)。

特に労働条件が大幅に下がる出向や復帰が予定されない場合は、整理解雇の

回避など特別な事情が認められない限り、原則として個別的な同意があって初めて

行うことができるとされることもあるため、このような特別の事情の存否が問題と

なる

新日本製鐵(三島光産・出向) 事件 福岡高判平12.2.16労判784‐73等参照)。


(4)密接なグループ企業間の出向

 なお、出向が、親子企業間や密接な関連企業間での業務提携、技術修得、

人事交流などのために配転と同様に日常的に行われ、従業員も採用時からこれを

当然のこととして受け入れているという場合、就業規則などの明確な規定がない

場合でも、採用時や入社後の勤務過程の従業員の包括的同意(それによる出向

義務の発生)の可能性を認める裁判例もある(モデル裁判例等)。


(5)出向命令の権利濫用としての無効

 出向命令も権利濫用として無効とされることがある。

例えば、川崎製鉄事件(大阪高判平12.7.27 労判792‐70) では、

結論は権利濫用なしとされたが、出向先の労働条件が通勤事情等を考慮して

出向元と比べて著しく劣悪となるか否か、出向対象者の人選が合理性を有し妥当な

ものであるか、出向の際の手続に関する労使間の協定が遵守されているか否か等の

諸点を総合考慮すべし、との一般論が示されている。


(6 )出向期間の延長命令の有効性

 なお、出向の延長により、出向期間の長期化があっても、出向元との労働契約

関係の存続自体が形がい化しているとはいえないときは、直ちに転籍と同視する

ことはできず、出向延長措置を講ずることに合理性があり、これにより出向者が

著しい不利益を受けるものとはいえない事情の下では、出向延長措置も権利の

濫用に当たらないとされている

(前掲新日本製鐵事件)。







     社会保険労務士田村事務所
               
       〒531-0072     大阪市北区豊崎三丁目20−9 (三栄ビル8階)
   
     TEL(06)6377−3421         FAX(06)6377−3420
  
     E−mail tsr@maia.eonet.ne.jp URL http://www.eonet.ne.jp/~tsr   


                                       所長  特定社会保険労務士 田村 幾男


           お問合せは、下記メールをご利用下さい
     
                                             





                                            社会保険労務士田村事務所の営業区域

     (大阪府)
      大阪市(北区・中央区・西区・浪速区・天王寺区・都島区・旭区・鶴見区・城東区・東成区・生野区・平野区・東住吉区
       全区
            住吉区・阿倍野区・西成区・住之江区・大正区・港区・此花区・福島区・西淀川区・淀川区・東淀川区)
     
      豊中市・吹田市・箕面市・池田市・茨木市・摂津市・高槻市・枚方市・交野市・寝屋川市・守口市・門真市・大東市

      四条畷市・東大阪市・八尾市・藤井寺市・柏原市・羽曳野市・松原市・富田林市・大阪狭山市・河内長野市・和泉市

      堺市・高石市・泉大津市・岸和田市・貝塚市・泉佐野市・泉南市・阪南市・
     
       島本町・美原町・忠岡町・熊取町・田尻町・岬町  

    (兵庫県)

      神戸市・尼崎市・伊丹市・川西市・宝塚市・芦屋市・三田市・西宮市・明石市・加古川市・高砂市・姫路市・
      
      播磨町・稲美町・猪名川町


社労士に委託するメリット      トピックス      トピックス(2)     国民年金・厚生年金保険      健康保険制度
社会保険労務士業務  取扱い法律一覧      個人情報保護方針      就業規則    社会保険労務士綱領の厳守      
助成金概要      助成金診断について      リンク集へ       報酬額表     最新NEWS  サービス提供地域
田村事務所へようこそ   田村事務所運営理念  社労士業務(その二)  特定社会保険労務士    産業カウンセラー
代表者プロフィ−ル   田村事務所アクセス   大阪の社労士からの、発信    お問合せ
     キャリア・コンサルタント

 あっせん代理      改正雇用保険法    メンタルヘルス対策      中小企業労働時間適正化促進助成金

短時間労働者均等待遇推進等助成金         均等待遇団体助成金   外国人雇用状況届出制度      常用雇用転換奨励金

                                                                           社会保険労務士田村事務所トップへ

本ページトップへ



          お願い:当事務所のホームページの記載事項に関しましては、充分に細心の注意を払い記載しておりますが、

           万が一記載内容により、発生した損害につきましては、責任を負い兼ねますので、ご留意・ご了承下さい。
          

             copyright(c)2007-2008 Ikuo Tamura All Rights Reserved 社会保険労務士田村事務所