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        個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                             労働者の人権・人格権



                                                職場での嫌がらせ

1.ポイント


(1)嫌がらせを目的とした仕事外し職場からの隔離は、

通常甘受すべき程度を超えて精神的苦痛を与えるものであり、

これにより労働者が被った精神的苦痛は損害賠償により

慰謝されなければならない

(2)使用者は職場の内外で労働者を継続的に監視したり、

種々の方法を用いて従業員を職場で孤立させる等の行為をしては

ならない。

またそのような場合は損害賠償の対象となる。

(3)配置転換等により勤労意欲を失わせ、やがて退職に追いやる

意図をもってなされる行為や、退職に追いやるための行為等を

してはならず、そのような行為を受けた場合には損害賠償請求が認められる


2.モデル裁判例

  松蔭学園事件 東京高判平5.11.12 判時1484‐135


(1)事件のあらまし

 原告側労働者X(被控訴人)は、被告側使用者Y(控訴人)の設置する

高等学校の教諭である。産休を自制するような雰囲気が教職員の間に

あったにもかかわらず、産休を2回取得し、かつ産休期間である6週間

すべてを休み、

「産休は権利です」と主張するようなXの態度をYは、快く思っていなかった。

Yは、産休を取った者は人の2倍働かなくてはいけないと述べ、

X に1 日で行うことは到底履行不可能な

職員室の時間割ボードの書き直しを命じた。

Yは、Xがその日の内に命令を履行しなかったことに関し、

「仕事をしなかった」という始末書の提出を求めたが、

Xは、後日ボードの書き直しを履行していたため、

このことは事実に反するとして始末書の提出を拒否した。

また、Yは、生徒らにXについて感想文を命じたが、

労使の問題に生徒を巻き込むことになるとして、

Xは、これに応じなかった。

 以上のような経緯の後、Xは、それまで担当していた学科の

授業、クラス担任その他の校務分掌の一切の仕事を外され、

席を他の教職員から引き離されて配置された上、

何らの仕事も与えられないまま4年6か月間にわたって

一人だけが別室に隔離され、更に5年余の長期間にわたる自宅研修が命じられた。

 Xは、業務命令権を濫用した違法な命令により人格権、自由権、名誉等を

侵害した不法行為に該当すると主張して、Yに対し、慰謝料の支払いを請求した。


(2)判決の内容

 労働者側勝訴

 Xに対する慰謝料600万円の支払いをYに命じた。

 ボードの書き直しに関し、全体として見てXにはあえて業務命令に

さからったと評すべきところはなく、また、感想文の提出の命令は、

始末書の提出に応じなかったことの代償のようなところもあり、

学園側と教師との間の問題の処理のために、生徒を巻き込んだ形で

感想文を書かせることは教育の現場を預かる者として適切でないと

Xが判断したことも理解できないではなく、感想文を書かせなかったこと

自体につきXには強く責められるべき点はない 。

 Xが二度にわたって産休をとったこと及びその後の態度が気にくわないと

いう多分に感情的な校長の嫌悪感に端を発し、執拗とも思える程始末書の

提出をXに要求し続け、その行為は、業務命令権の濫用として違法、

無効であることは明らかであって、Yの責任は極めて重大である。

このようなYの行為により、Xは、長年、何らの仕事も与えられずに、

職員室内で一日中机の前に座っていることを強制され、他の教職員からも

隔絶されてきたばかりでなく、自宅研修の名目で職場からも完全に

排除され、かつ、賃金も昭和54年度のまま据え置かれ、

一時金は一切支給されず、物心両面にわたって重大な不利益を受けてきた

ものであり、Xの被った精神的苦痛は誠に甚大であると認められる。

Xの精神的苦痛を慰謝すべき賠償額は、Yの責任の重大さにかんがみると

金600万円をもって相当とする。

3.解 説


(1)執拗な退職勧奨・孤立化・職場八分・共同絶交

 企業によるいじめは、退職を強要しようとする過程で生ずることが多い。

この問題に関しては、執拗に退職勧奨行為を繰り返したことが違法であるとし、

1名に対して4万円、他の1名に対して5万円の慰謝料を命じられた

下関商業高校事件
( 最一小判昭55.7.10 労判345‐20)などがある。

 また、孤立化・職場八分・共同絶交などが問題となった

中央観光バス事件
(大阪地判昭55.3.26 判時968‐118)において裁判所は、

会社およびこのような行為を幇助した管理職1 人につき慰謝料5万円の支払いを

命じている。
 
また、

国際信販事件( 東京地判平14.7.9 労判836‐104) では、

労働者の職場内でのいじめ・孤立化に関し、そのような事実を知りながら

特段の防止措置を取らなかったこと、および一部の行為は業務命令と

して行われたことから会社の代表取締役らに対し、約183万円の損害賠償の

支払いが命じられた。


(2)苦痛な仕事への業務命令

 企業の人事権の行使も、それが社会通念上著しく妥当を欠き、

権利の濫用に当たると認められる場合には違法となる。

いじめを目的とした企業の人事権の行使は、当然に違法となる。

 この点に関し、

バンク・オブ・アメリカ・イリノイ事件(東京地判平7.12.4 労判685‐17)では、

銀行の機構改革の一環として課長職であった者を

総務課受付へ配置転換した銀行の措置が、勤続33年に及び

課長まで経験した者に相応しい職務であるとは到底いえず、

元管理職をこのような職務に就かせ、働きがいを失わせるとともに、

行内外の人々の衆目にさらし、違和感を抱かせ、やがて退職に

追いやる意図をもってなされたものであり、銀行に許された裁量権を

逸脱する違法なものであるとして、慰謝料100万円の支払いが銀行に

命じられている。

 また、

エフピコ事件(水戸地下妻支判平11.6.15 労判763‐7)では、

執拗な退職強要および退職強要に応じない労働者には草むしり等の

雑用の仕事しか与えず嫌がらせをした行為が、使用者の

「労働者がその意に反して退職することがないように職場環境を整備

する義務」に違反するとして、逸失利益として労働者らの平均賃金6ヵ月分、

および慰謝料として50万円ないし100万円が認められている。

この事件は、東京高裁(東京地判平12.5.24 労判785‐22) で労働者側が

敗訴したが、最高裁で和解が成立し、第一審が算定した額の半分の水準で解決をみている。
 
このほかに、

J R東日本(本荘保線区) 事件( 最二小判平8.2.23 労判690‐12)において

最高裁は、国労マーク入りのベルトの取り外し命令に応じなかった組合員に

就業規則全文の書き写しを命じたことは、見せしめをかねた懲罰的目的

からなされた人格権を侵害する行為であるとした第二審の判決を支持し、慰謝料20万円と弁護士費用5万円の支払いを認めている。

 これに加え、

神奈川中央交通(大和営業所)事
件(横浜地判平11.9.21 労判771‐32) では、

乗用車との接触事故を理由に上司によってなされた炎天下での草むしり

作業等の業務命令が違法な業務命令であるとして、

原告の受けた精神的損害に対し60万円の慰謝料が認められている。

そして、

フジシール事件
( 大阪地判平12.8.28 労判793‐13)では

、退職勧奨を拒否した労働者に対する遠方の工場への配転命令が

、配転先での業務が労働者の経験・経歴とは関連しない単純作業で

あったことが考慮され、退職勧奨拒否に対する嫌がらせとして発せられた

ものと認められ、権利の濫用にあたり無効であるとされた。

 また、ネッスル(専従者復帰) 事件( 神戸地判平元.4.25 労判542‐54) では、

組合専従復帰後の労働者に隔離的措置が講じられ、劣悪な職場環境での

苛酷な職務が与えられたとして、労働者らそれぞれに対する

50万円・70万円の慰謝料の支払いが認められ、さらに、

J R西日本吹田工場事件( 大阪高判平15.3.27 労判858‐154)では、

踏切横断におけるトラブルが原因でなされた上司による炎天下での踏切での

点検業務命令が、著しく過酷なもので、労働者の健康に対する配慮を欠き、

使用者の裁量権を逸脱する違法なものであるとされ、慰謝料約22万円が

認められている。

 ついで、東芝府中工場事件( 東京地八王子支判平2.2.1 労判558‐68) では、

労働者が心因反応を起したのは製造長の叱責および反省書の要求が

原因であると判断され、製造長に労働者が被った精神的損害を賠償すべき

義務があることを認められたが、他方で、労働者の側にも叱責に対して

真面目な対応をしなかったり不誠実な態度も見られ、これらが過度の叱責や

執拗な追及を自ら招いた面もあることが考慮され、15万円に限り慰謝料請求が

認められている。

           

 








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