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        個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


           

               女性労働男女間定年



                                  退職等年齢格差

1.ポイント


(1)男女間で定年年齢に格差を設けることは、

現在の社会秩序に照らして違法となる。

(2)退職勧奨整理解雇に際して

男女間で異なる基準を適用する場合も、違法とされることがある。

異なる取扱いや基準は、真に女性に対する差別でないなら違法ではない

(3)現在では、雇用均等法により

(1)、(2)の差別は法律上明確に禁止されている。

2.モデル裁判例

  日産自動車事件 最三小判昭56.3.24 民集35‐2‐300


(1)事件のあらまし

 自動車の製造・販売業を営む第一審被告である会社Y の就業規則は、

「男子は満55歳、女子は満50歳を定年とし、同年齢に達した月の末日に

退職させる」と定めていた。

 昭和44年1月15日に満50歳に達した第一審原告である女性労働者Xは、

同月31日限りでの退職をYから命じられた。

 これに対しXは、男女別定年制は公序良俗(民法90条)に反し無効である

と主張し、Yの従業員としての地位確認などを求めた。

一審二審ともに、本件男女別定年制は合理性がなく公序良俗に反し

無効と判示したため、Yが上告したのが本件である。



(2)判決の内容

 労働者側勝訴

 Yにおいては、女性従業員の担当職務は相当広範囲にわたっていて、

従業員の努力とY の活用策によっては貢献度を上げうる職種が

数多く含まれている。

そして、女性従業員各個人の能力等の評価を離れて、

女性を全体としてYに対する貢献度の上がらない従業員と断定する

根拠はない。しかも、女性従業員について労働の質量が向上しないのに

実質賃金が上昇するという不均衡が生じていると認められる根拠はない。

また、少なくとも60歳前後までは、男女とも通常の職務であれば、

企業経営上要求される職務遂行能力に欠けるところはなく、

各個人の労働能力の差異に応じた取扱いがされるならともかく、

一律に従業員として不適格とみて企業外へ排除するまでの理由はない。

 以上のことを考えると、Yの企業経営上の観点から定年年齢において

女性を差別しなければならない合理的理由は認められない。

 すると、Yの就業規則中、女性の定年年齢を男性より低く定めた部分は、

専ら女性であることのみを理由として差別したということになり、

性別のみによる不合理な差別を定めたものとして

公序良俗(現在の社会秩序)に反して無効である。

3.解 説


(1)定年年齢の男女格差

 均等法による規制が行われる前も、男女間で定年年齢に格差を

設けることが公序良俗、つまり、

「現在の社会秩序」に反して無効とされていたのは、

モデル裁判例にみる通りである。

 さらに、男子62歳、女子57歳の定年年齢をともに60歳に変えるに当たり、

男子は13年、女子は3年かけて徐々に解消するという経過措置期間の

長さにおいて男女間で格差を設けることも、公序良俗に反し無効と

されている

放射線影響研究所事件 広島高判昭62.6.15 労判498‐6)。

 また、職種の名前の変更に伴って、職種別に男女一律の

定年年齢を設け(65歳と60歳)、従来は比較的高い定年年齢

(65歳)が適用される職種に従事していた女性を、

定年年齢が低い(60歳)職種へと名称を変更されたという

事件がある。

この事件について、裁判所は、職種の名称変更は、就業規則を

変えることにより、女性の定年年齢が満65歳になることを避け、

男女間で格差のある従前の定年年齢を維持・存続する目的で

行われたもので、性別を理由とする合理性のない差別待遇である、

と述べ、このような取扱いは、民法90条および男女雇用機会均等法

(以下、「均等法」)11条1項により無効と判断した

大阪市交通局協力会事件 大阪高判平10.7.7 労判742‐17)。

 なお、就業規則等において、女性労働者にのみ結婚を退職事由と

定めたり

住友セメント事件 東京地判昭41.12.20 労民集17‐6‐1407)、

男性の定年年齢が55歳であるのに女性は30歳で定年すると定めたり

すること

東急機関工事件 東京地判昭44.7.1 労民集20‐4‐715)は、

ともに公序(社会秩序)に反して違法である。



(2)退職勧奨年齢の男女格差

 女性が男性よりも若い年齢で退職することを勧めることも違法とされる場合が

ある。例えば、退職勧奨(退職を勧めること)において3〜7歳の男女差を設け、

勧奨に応じない女性職員には、退職に際し優遇措置を講じないことは

違法であると判断された事案で、裁判所は次のように述べている。

男女間で退職勧奨に年齢差を設けるとしても男女構成比に著しい不均衡を

もたらさないこと、退職勧奨の基準を設けた当時や退職勧奨を行った当時は

夫婦役割観が相当強かったとしても、これを理由に直ちに男女一律の

年齢差を設ける合理的理由があると判断するのは早計である

鳥取県教員事件 鳥取地判昭61.12.4 労判486‐53)。

 なお、男性より10歳も若い女性の退職勧奨基準は違法であり、

女性職員が退職勧奨を拒否して以降、昇給させないのは、

違法な不利益取扱いであるとした事案がある。

鳥屋町職員事件 金沢地判平13.1.15 労判805‐82)。

 一方、事業の合理化・簡素化計画の一環として、

原則として一定年齢以上の全職員を対象に退職の意向等を

確認する方法で退職勧奨を行うことは違法ではない

(40歳以上という基準につき、

全国商工会連合会事件
 東京地判平10.6.2 労判746‐22)。


(3)人員削減基準等の男女異なる取扱い

 この問題に関しては、裁判所の判断は分かれている。

しかし、基本的には、男女間での異なる取扱いは違法とされる。

 例えば、「有夫の女子、30歳以上の女子」という希望退職の基準と、

これによる退職の合意は、憲法14条、労働基準法3条4条の精神に反し、

民法90条により違法である

小野田セメント事件 盛岡地一関支判昭43.4.10 判時523‐79)。

また、同じ理由から、「有夫の女子、27歳以上の女子」という基準による

指名(名指しの)解雇

日特金属工業事件 東京地八王子支決昭47.10.18 労旬821‐91)、

「既婚女子社員で子供が二人以上いる者を解雇する」

コパル事件 東京地決昭50.9.12 判時789‐17) という基準が、

無効とされている。
 但し、会社の再建や経営の立て直しに当たって、

女性労働者の職種が本当の意味で余剰化した場合に、

退職勧奨や整理解雇を行うことは違法ではない

小野田セメント事件 仙台高判昭46.11.22 労民集22‐6‐1113。

古河鉱業事件
 最一小判昭52.12.15 労経速968‐9。

日本鋼管京浜製鉄所事件 横浜地川崎支判昭57.7.19 労判391‐45)。










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