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        個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                                         退職



                                           退職勧奨

1.ポイント


(1)繰り返し執拗半強制的退職勧奨違法である。

(2)退職の勧めを拒否した者に対する不利益な措置違法である。

但し、対象となる労働者や使用者側の事情によっては

不利益な措置が違法ではない場合がある


2.モデル裁判例


  下関商業高校事件 最一小判昭55.7.10 労判345‐20


(1)事件のあらまし

 市教育委員会Aは、第一審原告の男性教諭Xらに対して、

退職勧奨(退職を勧めること)の基準年齢である57歳になったことを

理由に、2〜3年にわたり退職を勧めてきたが、両者とも応じなかった。

この間、所属校の校長やAが、Xらに退職を勧め、優遇措置などについて

話をする程度であった。

しかし、その後、AはXらに対して退職を強く勧め始め、

3〜4ヵ月の間に、11〜13回にわたりAへの出頭を命じ、

20分から長いときは2時間にもおよぶ退職勧奨を行った。

その際Aは、退職勧奨を受け入れない限り、

Xらが所属する組合の要求に応じないと述べたり、

提出物を要求したり、配転をほのめかしたりした。

そこでXらは、これら一連の行為は違法であり、精神的苦痛を受けたなどとして、

市Y1、同市教育長および次長Y2らを被告として、Yらに対して、

各自50万円の損害賠償の支払いを求めて訴えを起こした。

一審二審ともにXらの請求を認めたところ

(但しY2らに対する請求は棄却されている)、

Y1 が上告したのが本件である。



(2)判決の内容

 労働者側勝訴

 二審の判決が受け入れられて、X らの請求が認められた

(賠償額は、X1について4万円、X2について5万円の計9万円)。

以下は二審判決の要旨。

 A の行った退職勧奨は、多数回かつ長期にわたる執拗なもの

であり、退職の勧めとして許される限界を超えている。

この事件の退職勧奨は、従来の取扱いと異なり、年度を超えて

行われ、また、Xらが退職するまで続けると述べられており、

勧奨が際限なく続くのではないかとの心理的圧迫をXらに加えた

ものであって許されない。

Xらが勧奨に応じないならば、組合の要求に応じないと述べたり、

提出物を要求したり、配転をほのめかしたりしたことを考えると、

Xらは退職勧奨によりその精神的自由を侵害され、

また、耐えうる限度を超えて名誉感情を傷つけられ、

さらには家庭生活を乱されるなど、相当な精神的苦痛を受けたと

容易に考えられる。よって、この事件における退職の勧めは違法で

あり、Y1は、X らが被った損害賠償の責任を負う。

3.解 説

 
モデル裁判例の事案のように、繰り返してなされる執拗で半強制的な

退職の勧めは、違法である。

そして、退職勧奨を行った者は、損害賠償責任を負う。

以下、退職勧奨にかかわるその他の問題を見る。

(1)退職勧奨基準の合理性

 原則として、退職勧奨の対象となる基準の年齢において、男女間で

年齢格差を設けることは、違法である

鳥取県教員事件 鳥取地判昭61.12.4  労判486‐53

(詳しくは(86)[女性労働]参照)。

また、女性に対して妊娠を理由に退職を勧奨したり、

さらに退職を強要したりすることは、女性が婚姻・妊娠・出産を理由に

退職すると定めたり解雇したりすることを禁じた

雇用機会均等法8条の趣旨に反するので、違法な行為として

会社の損害賠償責任が生じると述べた判決がある

今川学園木の実幼稚園事件大阪地堺支判平14.3.13 労判828‐59。損害賠償額280万円)。

 なお、退職勧奨の域を越えて退職を強要することは違法な行為である

とされうる

( 衆人環視の下でことさら侮蔑的な表現を用いて名誉を毀損する

態様での退職強要行為につき、

東京女子醫科大学(退職強要)事件
 東京地判平15.7.15  労判865‐57。損害賠償額450万円)。


(2)退職勧奨の拒否を理由とする不利益な取扱い

 退職勧奨を拒否し続けた後に退職した者に対して、

退職勧奨に応じた場合に与えられる優遇措置が与えられない

不利益な措置は違法である

(前掲鳥取県教員事件)。

また、退職勧奨を拒否した者に対して、業務上の必要性のない

嫌がらせ目的の配転を命じたり、懲戒手続をふまずに、

懲戒処分として労働者の降格を行ったりする場合には、

それら命令や処分は違法である

フジシール事件 大阪地判平12.8.28  労判793‐13)。

さらに、女性職員が違法な退職勧奨を拒否して以降、

昇給させないのは、違法な不利益取扱いであり、

使用者は損害賠償責任を負う

(慰謝料を含む約80万円を差額賃金に相当する損害賠償額として原告の請求を一部認めた、

鳥屋町職員事件
 金沢地判平13.1.15 労判805‐82)。

 他方で、満65歳に達した従業員に対する退職勧奨について、

これを承認しない者に対する賃上げ不実施と、定額の一時金支給を

定めた労働協約の定めは、従業員の高齢化による労務費の

高騰と経営状態の悪化から取り結ばれたものであって、

動機や目的に不合理な点はないと判断されている事件もある

東京都十一市競輪事業組合事件 東京地判昭60.5.13  労判453‐75)。

もっとも、この事件については、裁判所が、加齢に伴う労働能率の

低下と適切な処遇、協定を結んだ手続きやその過程、他の競輪場

および他産業での高齢従業員の取扱い・賃金水準を細かく検討

          

 







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