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        個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                  懲戒処分


                          企業の風紀を乱す行為

1.ポイント


(1)男女関係が懲戒の対象となるのは

会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると

客観的に評価される場合である。

(2)会社に及ぼす悪影響に関する裁判所の判断基準としては、

@抽象的危険説―会社経営に与えた損害が抽象的であっても懲戒解雇を有効

とするもの

A具体的危険説具体的な損害を与えたという事実がない限り懲戒解雇を無効

とするもの、.等がある。

(3)従業員同士の不倫関係は、企業運営に具体的な影響を与える

場合に限り解雇が有効になることがある。


2.モデル裁判例

  繁機工設備事件 旭川地判平元.12.27 労判554‐17


(1)事件のあらまし

 離婚歴のある債権者側労働者X(女性)は、水道の本管・配水管の敷設を

おもな業とする債務者側使用者Yに雇用されていた者である。

XはYの妻子ある同僚Aと交際するようになり、やがて肉体関係を含む

恋愛関係に至った。

このことは従業員、取引先にも知られるようになり、噂の種にされるように

なった。

Yの代表者Bは、Aに対し、X との交際をやめたほうがよい旨を忠告し、

Xに会社を辞めるように話をしてもらいたいと申し向けた。

Xは、Bに説明を求めたところ、

Bは、Y内外で非難の声が上がっていること、

交際により社内風紀が乱されている等の理由をあげて

Xに退職をして欲しい旨を伝えた。

しかし、Xがこれを拒否したため、妻子ある男性と恋愛関係を続け

会社全体の風紀・秩序を乱し、企業運営に支障をきたしたことを

理由にXを解雇する旨記載した解雇通知書を手渡し、Xを解雇した。

 そこで、Xは、個人の恋愛は解雇理由とはなりえず、本件解雇は

これを理由としてなされたものであり無効であると主張して、

雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める地位保全と

賃金(基本給・住宅手当・通勤手当)の仮払いを求めて

仮処分を申請した。


(2)判決の内容 

 労働者側一部勝訴

 Xの雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定め、

賃金仮払いについては通勤手当の仮払いの申請を却下し、

基本給と住宅手当についてのみ仮払いを命じた。

 Xが妻子あるAと男女関係を含む恋愛関係を継続することは、

社会的に非難される余地のある行為であり、Yの就業規則所定の

「素行不良」に該当する。

しかし、就業規則規定の懲戒事由である

「職場の風紀・秩序を乱した」場合とは、Yの企業運営に具体的な影響を

与えるものに限られると解すべきである。

X及びAの地位、職務内容、交際の状況、会社の規模、業態等に照らしても、

XとAとの交際が会社の風紀・秩序を乱し、その企業運営に具体的な影響を

与えたと認めることはできない。

3.解 説

 
本件解雇は無効であり、Xは依然としてYの従業員の地位を有する。


(1)従業員同士の恋愛・情交関係

 労働者による企業の風紀を乱す行為が問題とされるおもな事件は、

従業員同士の恋愛・情交関係(不倫)に関するものが多い。

モデル裁判例も、職場における従業員の不倫関係を理由にして

企業が従業員を解雇することが可能かどうかが争われた事案である。

 裁判所は、職場の不倫は社会的に非難される余地のある行為であるから

Yの就業規則所定の「素行不良」に該当するとしながらも、

「企業の運営に具体的な影響を与えたか否か」の観点からこの行為を

検討し、具体的に影響を与えたものではないと判断して、

本件解雇を無効とした。


(2)社会的評価に及ぼす悪影響

 最高裁は、労働者による企業の風紀を乱す行為に関し、

このような行為が会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大である

と客観的に評価される場合に懲戒の対象とすることができるとしている

日本鋼管事件 最二小判昭49.3.15 民集28‐2‐265)。

 労働者による企業の風紀を乱す行為に関する裁判例は、

観光バス会社の運転手と車掌との関係についてのものが多い。

裁判所の判断は、会社に対する損害が抽象的なものでも解雇有効とする

ものと、具体的損害の事実がない限り、解雇を無効とするものに分かれる。


(3)抽象的な損害であっても解雇有効とする裁判例

 会社に対する損害が抽象的なものであっても解雇有効とする見解に

立つ裁判例として、

長野電鉄事件仮処分申請事件
(東京高判昭41.7.30 労民集17‐4‐914) がある。

これは、バス運転手が若年の女子車掌と不倫な関係を結び、

妊娠中絶させたことなどが、

解雇事由の「著しく風紀・秩序を乱して会社の体面を汚し、損害を与えたとき」に当る

としこれに基づく解雇を有効としたものである

(同旨、長野電鉄事件 長野地判昭45.3.24 判時600‐111)。


(4)具体的な損害でなければ解雇を有効としない裁判例

 会社に対する損害が具体的なものでなければ解雇有効とはならない

という見解に立つものとして、

井笠鉄道事件( 岡山地判昭41.9.26 労民集17‐5‐1223) がある。

この事件において裁判所は、バス会社の妻子ある従業員が

バスガイドと情交関係をもち同女に妊娠させたことは懲戒事由に当るが、

企業秩序が現実に侵害されたという事実が一応確からしいものと

されない以上、解雇に値するほど悪質な行為があったということは

できないとした。


 また、長野電鉄仮処分事件

(長野地判昭40.10.19 労民集16‐5‐747)では、

妻子のあるバス運転手が女子車掌と長期にわたり情交関係をもち

同女に妊娠させたことが懲戒事由に該当しないとされ、

さらに、石見交通事件(松江地益田支判昭44.11.18 労民集20‐6‐1527)

では、バス会社の女子従業員(ガイド) が男子従業員と会社外で

情交し妊娠したことが、会社の運営と関係のない私行上の問題であって、

そもそも懲戒事由に該当しないと判断されている。


 このほかに具体的影響を考慮するものとして、

豊橋総合自動車学校事件
(名古屋地判昭56.7.10 労判370‐42)

では、既婚従業員が女子教習生と情交関係をもち近隣の人々の噂と

なったことが企業運営に具体的な影響を与えたか否かが判断

されなければならないとして、結論としては解雇が無効とされている。


(5)特殊な職務

 以上に対し、職務の特殊性から判断したものとして、

日航機長解雇事件
(東京地判昭61.2.26 判時1186‐138) がある。

この事件において裁判所は、近隣の主婦と情交関係に陥った

航空会社の機長が問題をこじらせ、機長としての適格性に欠けると

してなされた解雇を安全運行体制の特殊性を考慮し有効と判示

している。

また、大阪府教委(池田高校) 事件( 大阪地判平2.8.10 労判572‐106) では、

教え子との卒業後の男女関係を理由とする妻子ある高校教諭に対する

免職処分につき、教員に要求される高度の倫理性に反し

社会の期待と信頼を著しく裏切ったものとして、有効と判断されている。

(6)男性労働者のわいせつ的行為

 男性労働者のわいせつな行為はセクシュアル・ハラスメントの事件に

おいて問題とされることが多いが、企業の風紀を乱す行為を理由とした

解雇の事件として争われた珍しい事件として、

コンピューター・メンテナンス・サービス事件
(東京地判平10.12.7 労判751‐18)

があげられる。

この事件では、派遣先企業の女性従業員に対し強制わいせつ的行為を

繰り返した男性労働者につき、企業の風紀を乱す行為等を理由とする

懲戒解雇が有効とされている。




           

                 
        








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