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        個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ

    

                                      懲戒処分



                                               情報機密の漏洩

1.ポイント


(1)労働関係継続中は、

労働者に使用者の営業上の秘密を保持すべき義務がある。

(2)労働者が秘密保持義務に違反した場合

労働者は懲戒処分の対象とされ、

債務不履行不法行為による損害賠償を請求されることもあり、

更に、差止請求の対象となる。

(3)労働関係終了後においては、

不正競争防止法によって

営業機密は保護される



2.モデル裁判例


  美濃窯業事件 名古屋地判昭61.9.29 労判499‐75


(1)事件のあらまし

 プラント主任の地位にあった労働者が、その台湾出張中に、

使用者が台湾で特許権を持つ生産技術設備についての技術指導をなし

一定の利益を得ていたことに関して、

使用者が労働者と機材納入業者を共同被告として、

損害賠償の支払いを求めた事件である。


(2)判決の内容

 労働者側勝訴

(但し、秘密漏洩義務違反自体の存在は認められている点に注意)


 「労働者は、使用者の承認を得ないで使用者以外の業務に従事したり、

使用者の不利益になる事項および業務上の機密を漏洩したり、

職務を利用して私利を謀ったりなどしてはならない義務を

使用者に対して負っているというべきである。

本件労働者は、遅くとも昭和44年2 月以降、

使用者に対し、エンドレスキルン(窯業用連続焼成炉等の商品)に関する

使用者の業務上の秘密が漏洩しないように十分な注意を払うべき

義務を負うに至ったものというべきである。

ところが、労働者は、昭和44年5 月頃、

前回の訪台の際に世話になった者の依頼を断りきれず、

同人の求めに応じてエンドレスキルン建設のために必要な設計

および技術指導を行った。

このような労働者の行為は、労働者が使用者に対して負担していた

前記義務に違反したというべきである。」

(なお、結論的には損害が認定できないとして使用者の請求を棄却した)。


3.解 説


(1)秘密保持義務の根拠と違反の効果

 判例・学説は、就業規則上や労働契約に規定がなくとも、

労働関係継続中は、労働契約の付随的義務の一種として労働者に

使用者の営業上の秘密を保持すべき義務を負っていることを認めている

(我妻栄・民法各論(中)568頁)。

労働者が、このような秘密保持義務に違反した場合は、

使用者は、就業規則の定めに従って労働者を懲戒処分の対象と

することができるし、労働者に対して、債務不履行や不法行為に

基づく損害賠償を請求することもできる。

更に、秘密保持義務が債務として明確である場合には、

その履行請求としての差止請求も理論的に可能である。


 次に、労働関係終了後の場合、まず、一定の秘密保持義務が

明示的に約定されていたと認められる場合は、公序良俗に違反しない限り、

当該義務の存在が肯定される。

しかし、そのような明示の特約が存在しない場合においては

見解の対立があった。

 そこで、平成6年の不正競争防止法改正により、労働者が使用者から

取得又は開示された営業秘密を、不正の競業その他の不正の利益を

得る目的で又はその保有者に損害を加える目的で使用ないし

開示する行為は、労働関係の継続中および終了後を通じ、

営業秘密に関する不正行為の一類型とされ(同法2条1項7号)、

使用者は、差止め(同法3条1項)、損害賠償(同法4条)等の請求が

可能となった。


(2)従前の裁判例

 まず、労働契約継続中の労働者の守秘義務を認めた判例として、

古河鉱業足尾製作所事件
(東京高判昭55.2.18 労民集31‐1‐49)がある。

ここでは、労働者(管理職も含む)は労働契約に基づく付随的義務として、

信義則上、使用者の業務用の秘密を漏らさないとの義務を負うとした。

(3)本判決の意味

 本判決は、労働契約継続中の秘密保持義務の根拠を雇用契約の

本質から導き出しており、基本的にはこれまでの判例の延長線上にある

と思われる。

(4)その後の判例の状況

 モデル裁判例の直後、退職者の秘密保持義務に関する判例

アイ・シー・エス事件
(東京地判昭62.3.10 判タ650‐203、判時1265‐103等)

が出た。 

本件は、労働者が使用者に対し、労働契約継続中に機密保持に関する

誓約書を差し入れていた例で、機密保持義務の存在はこれを前提とし、

むしろ、労働者は、退職後であっても使用者に対する誓約書の差し入れに

より機密保持義務が存続中である場合、自ら機密を漏洩しなくとも、

機密を保有している第三者に働きかけて機密を漏洩させてしまえば、

その行為も機密保持義務違反に問われるとしたことに大きな意義がある。

 また、弁護士への書類開示等が懲戒解雇するまでの守秘義務違反には

ならないとされた判例として、

メリルリンチ・インベストメント・マネージャーズ事件

(東京地判平15.9.17 労判858‐57)が挙げられる。

 更に、平成16年6月に成立した公益通報者保護法に関連する判例として、

内部告発理由の解雇が客観的合理的理由を欠き社会通念上相当で

なくて無効とされた

カテリーナビルディング(日本ハウズイング)事件(東京地判平15.7.7 労判862‐78)、

ごみ収集問題について記者会見を開いて虚偽の事実を開示したとしてなされた

懲戒解雇が懲戒権の濫用に当たるとして無効とされた

生駒市衛生社事件
(奈良地判平16.1.21 労判872‐59)等がある。


(5)不正競争防止法による機密保護と判例

 不正競争防止法の営業秘密にかかわる判例として、

西部商事事件
(福岡地判平6.4.19 労旬1360‐48) がある。

本件においては、労働者が、退職に際し、使用者の機密事項を厳守し

これを漏洩しない旨と使用者を退職して3 年間は使用者と事業を競合する

同業他社には就職しない旨を定めた秘密保持および競業避止契約を締結した。

しかし、労働者は、退職後わずか4 ヵ月余りで使用者と事業が競合する

金融会社の営業職として就職したことから、

使用者が、使用者の営業秘密の漏洩等の不正行為等の差し止めを

求めた。

 判決においては、労働者の従前の勤務形態からして労働者が

使用者の営業秘密を不正取得したとはいえないとして差止請求を退け、

更に、損害賠償請求についても、労働者の競業他社での営業行為は

本件秘密保持契約違反になるほどの違法性はないとした。

また、競業避止義務違反については、本件競業避止契約が競業避止

義務を場所的に無制限・3 年間もの長期間同業者への就職を制限する

のであれば憲法の保障する職業選択の自由に対する不当な制約として

公序良俗に反する無効と解すべき余地があるとした。

そして、これに労働者の年齢やこれまで金融業一筋で働いてきており

他の業種への転職には年齢的にも困難な状況等があること等を加えて

考え、本件競業避止契約はその必要性から見て合理的な範囲に

制限されることによりはじめて有効となると考えられるとの一般的判断を

示した。

そして、本件の労働者の同業他社への就職態様は、使用者に対する関係で

これを禁止しなければならないほど顕著な背信性は伺われず、違法とは

評価されないとして、使用者の請求をすべて退けた。










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