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        個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


 

                                             懲戒処分



                                                      懲戒権

1.ポイント


(1)懲戒処分を課すには就業規則の定めが必要である。

(2)始末書不提出を理由とする,懲戒処分認められない可能性がある。

(3)降格処分職種の変更に限られる,とされている。

(4)業務上の必要があれば,出勤停止自宅待機が認められるが、

           原則として賃金は支払わなければならない

(5)懲戒解雇の場合、

退職金の不支給が認められるのは、就業規則に定めがあること、

及び、実際も永年勤続の功労を抹消(全額不支給の場合)

ないし減殺(一部不支給の場合)するほどの不信行為がある場合に限られる。

(6)特段の事情のない限り、懲戒当時に

使用者が認識していなかった違反行為によって

既になされた懲戒の処分理由を追加することはできない

(7)処分の有効要件として

   @罪刑法定主義

   A平等取扱いの原則

   B相当性の原則

   C適正手続

などがあげられている。



2.モデル裁判例

  関西電力事件 最一小判昭58.9.8 労判415‐29

(1)事件のあらまし

 労働者Xが、他の労働者らとともに、就業時間外に、社宅でビラ約350枚を配布した。

これに対し、エネルギー供給業を営む使用者Yは、

就業規則に定める懲戒事由である

「その他特に不都合な行為があったとき」にあたるものとして、

就業規則に定める

6種の懲戒のうち最も軽い懲戒である

譴責(始末書を提出させて将来を戒めること(解説.参照))を課した。

そこで、Xが譴責処分の無効確認を求めて提訴した。


(2)判決の内容

 労働者側敗訴

 Xは、労務提供義務を負うとともに企業秩序を遵守する義務を負い、

使用者は、企業秩序を維持し、企業の円滑な運営を図るために、

労働者の企業秩序違反行為を理由として、労働者に対し懲戒を課する

ことができる。職場外でされた職務遂行に関係のない労働者の行為で

あっても、企業の円滑な運営に支障を来すおそれがあるなど企業秩序に

関係を有するものもあるから、使用者は、そのような行為をも対象として

労働者に懲戒を課すことも許される。

上記のような場合を除き、労働者は、職場外における職務遂行に関係の

ない行為について、使用者による規制を受けるべきいわれはない。

 本件では、ビラの内容が大部分事実に基づかず、又は事実を誇張歪曲

して被上告会社を非難攻撃し、全体としてこれを中傷誹謗するものであり、

ビラの配布によりXの会社に対する不信感を醸成して企業秩序を乱し、

又はそのおそれがあったものと認められない訳ではない。

したがって、本件ビラの配布は懲戒事由にあたり、譴責を課したことは,

懲戒権に認められる裁量権の範囲を超えるものではない。


3.解 説

(1)懲戒権の根拠

 使用者は企業秩序維持のために懲戒処分を課すことができ、

職場外でされた職務遂行に関係のない行為であっても対象となることがある

(モデル裁判例)が、懲戒事由及び懲戒の種類・内容を就業規則に定めておく

べきである

国鉄札幌運転区事件 最三小判昭54.10.30 民集33‐6‐647、

JR東日本(高崎西部分会)事件 最一小判平8.3.28 労判696‐14を参照)。

 ただし、懲戒事由及び懲戒の種類・内容は予め就業規則に定めておくことが

必要である。

この点につき、判例は、一般的に規則をもって定めてある場合には

これに従って懲戒処分を行うことができるとしたもの

(前掲・国鉄札幌運転区事件)、

就業規則等に規定がない厳重注意処分について、相当な根拠・理由も

ないままそのような措置を執ってはならないとしたもの

(前掲・JR東日本(高崎西部分会)事件)があり、これらの判例を前提とすると、

最高裁は懲戒事由及び懲戒の種類・内容は予め就業規則に定めて

おくことが必要であるという立場を取っていると解釈されていたが、

近時最高裁は、上記・国鉄札幌運転区事件を援用した上で、使用者が

労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び

事由を定めておかなければならないことを明言した

フジ興産事件 最二小判平15.10.10 労判861‐5)。

(2)始末書不提出

 始末書を提出させて将来を戒めることを譴責(けんせき)といい、

始末書の提出を伴わない戒告と区別される(前掲書403頁) が、

始末書不提出を理由とする解雇は懲戒権の濫用となり効力がない

福知山信用金庫事件 大阪高判昭53.10.27 労判314‐65)。


(3)降格

 降格処分は、労働契約の内容の変更とみられる職種の変更に

限られる

倉田学園事件 高松地判平元.5.25 労判555‐81)。


(4)出勤停止・自宅待機(賃金支払義務との関連)

 業務上の必要があれば出勤停止・自宅待機が認められるが、

賃金は支払わなければならない

ネッスル事件 東京高判平2.11.8 労民集41‐6‐980、

星電社事件
 神戸地判平3.3.14 労判584‐61を参照)。

賃金が支払われなくても許されるのは、

就労拒否が使用者の帰責事由(責められるべき理由)によらないときに

限られ(民法536条2項、労働基準法26条)

京阪神急行電鉄事件 大阪地判昭37.4.20 労民集13‐2‐487)、

不正行為の再発、証拠湮滅のおそれなど緊急かつ合理的な理由が

必要である

日通名古屋製鉄作業事件 名古屋地判平3.7.22 労判608‐59)。


(5)懲戒解雇

 懲戒解雇は、解雇予告も予告手当の支払いもせずに即時になされ、

退職金の全部または一部が支給されない(前掲書405頁)が、

退職金の不支給が認められるのは、就業規則に定めがあり、

功労を抹消(全額不支給の場合)・減殺(一部不支給の場合)するほどの

不信行為がある場合に限られる

日本高圧瓦斯工業事件 大阪高判昭59.11.29 労民集35‐6‐641、

トヨタ工業事件 東京地判平6.6.28 労判655‐17、

旭商会事件
 東京地判平7.12.12 労判688‐33を参照。

退職金不支給が認められたものとして

岳南鉄道事件
 静岡地沼津支判昭59.2.29 労判436‐70)。


(6)処分理由の追加

 例えば、懲戒解雇後に年齢詐称が発覚しても、当該懲戒解雇の理由に

追加することはできない

山口観光事件 最一小判平8.9.26 労判708‐31)。


(7)処分の有効要件

 一般には、ポイント(7)の@〜Cが懲戒処分の有効要件とされる

(菅野和夫「法律学講座双書 労働法 第6版414〜415頁)。

要件Bに関し、

ダイハツ工業事件 最二小判昭58.9.16 労判415‐16、

要件Cに関し、

守谷商会事件
 大阪地決平元.3.6 労判536‐31 、

中央林間病院事件
 東京地判平8.7.26 労判699‐22を参照。



          









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