社会保険労務士田村事務所トップへ



        個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


 

                          懲戒処分



                                                内部告発

1.ポイント




         内部告発が認められるか否かについては、

@告発内容の真実性…… (真実と信じるに足る相当な理由があるかどうか)

A目的の正当性………… (公益性があるかどうか)

B手段方法の妥当性……
 
    (内部手続きを経ているか。不特定多数に告発する場合の正当性があるか)

       などの点がポイントとなる。




2.モデル裁判例

  大阪いずみ市民生協(内部告発)事件 大阪地堺支判平15.6.18 労判855‐22

(1)事件のあらまし

 生協の職員である原告側労働者Xらは、

生協の役員である被告側使用者Yらが

生協を私物化する背信行為を行っているとして、

500名以上の生協総代らに告発文書を送付するなどした。

これに対し、YらがXらを懲戒解雇、長期間の自宅待機処分等に

付したところ、Xらは、これらは報復的行為及び

名誉侵害行為であり、精神的損害を被ったとして、

Yらに対し損害賠償を請求する訴を提起した。

なお、懲戒解雇に関しては、地位保全の仮処分が容認され、

大阪いずみ市民生協が

Xらの懲戒解雇を撤回し、

Xらは職場復帰している。


(2)判決の内容

 労働者側勝訴

 YらのXらに対する懲戒解雇等の行為を違法とし、

Yらに損害賠償の支払いを命じた。

 内部告発においては、その内容が虚偽事実である場合には、

組織体に大きな打撃を与える危険がある一方、

それが真実を含む場合には、組織体の運営方法等の改善の

契機ともなり、

また、内部告発を行う者の人格権ないし人格的利益や

表現の自由等との調整の必要も存することなどから、

次の要件が満たされれば、内部告発行為は正当な行為となり、

告発行為を理由に懲戒解雇することは許されないことになる。

 @告発内容の根幹的部分が真実ないし、告発者からみて

真実と信ずるについて相当な理由があること、

A告発の目的が公益性を有すること、

B告発の内容が組織側にとって重要であること、

C告発の手段・方法が相当であることである。

 この枠組みに照らし本件を検討すると、

@に関しては、役員らの生協の私物化は真実と信じるに足りるものであり、

ABについて、告発後私物化が阻止され、生協運営に一定の改善が

あった点を考慮し、公益性を認め

、Cについて、生協の管理する文書や職員の私物を無断で

利用するなど相当性を欠く面もあったが、全体としてはそれほど著しいとはいえない。

 Xらの内部告発が正当である以上、

これを理由とする懲戒解雇は無効であるとともに、

雇用契約上の権利および職業生活上の利益を侵害する違法があった。

これらの処分を主導したY1・Y 2は連帯して、

X1 に150万円、X2 に140万円、X3に120万円の支払いを命じる。

また、Y2のXらの行為を不当に批難した発言が名誉毀損の行為に

該当するとしてY2に各自にそれぞれ30万円の支払いを命じる。





3.解 説

(1)内部告発行為が懲戒処分を免責される場合

 労働者の内部告発は、誠実義務違反となる可能性が高いが、

公益を優先させる見地から、内部告発が真実と信じるに足る相当な

理由があり、目的が正当であり、手段・方法が妥当である場合には、

誠実義務違反が免責される場合がある。


(2)告発の真実性

 告発内容が真実と評価されれば問題がないが、

告発内容が真実でない場合であっても、真実と信じるに足りる

合理性があるとされるときには、この要件が満たされる。

具体例として、精神病者でないものを精神病者と診断させて

本採用を拒否した旨を職業安定所に申告した者に対する懲戒解雇に関し、

申告者が真実と考えたことに相当性があるされた

ソニー懲戒解雇事件(仙台地判昭38.5.10 労民集14‐3‐677)、

工場廃水と稲作被害の因果関係を暗示するビラに関し、

多少の誇張はあるが、真実と信じる合理的理由があると判断された

日本計算器峰山工場事件
(京都地峰山支判昭46.3.10 労民集22‐2‐187)

などがある。

 これに対して、真実性が否定された例として、

新聞投書内容が著しく事実に反するとされた

首都高速道路公団事件
( 東京地判平9.5.22 労判718‐17)、

原発の危険性に関して地域住民に配布したビラの内容が

真実に基づかないと判断された

中国電力事件(最三小判平4.3.3 労判609‐10)、

地域住民に配布したビラが病院で死亡事故が発生したと

誤解させるものであるとされた

九十九里ホーム病院事件
(千葉地判昭54.4.25 労判333‐7)、

学校に対する行政指導の申込書の内容が虚偽であるとされた

延岡学園事件(宮崎地延岡支判平10.6.17 労判752‐60)などがある


(3)内部告発の目的

 内部告発の目的には、公益性があることが必要である。

この点に関し、会社が古米を混入して新米を販売しているという

不正の告発を目的として労働組合が顧客に文書を送付する行為

に関与したことには、相当な理由があるとされた

杉本石油ガス(退職金)事件
(東京地判平14.10.18 労判837‐11)、

自己の労働条件を守るために信頼がおけない経営者の

経営意欲・能力・方針に対して意見表明を行った行為が

正当とされた

株式会社重光事件( 名古屋地決平9.7.30 労判724‐25)、

労働条件を改善する目的での出版物による会社経営姿勢の

批判が正当とされた

三和銀行事件
(大阪地判平12.4.17 労判790‐44)

などがある。

 これに対して、社長の失脚を目的とする週刊誌への情報漏洩

千代田生命保険(退任役員守秘義務) 事件 東京地判平11.2.15 労判755‐15) や、

私利を目的とした恐喝的な内部告発

ジャパンシステム事件 東京地判平12.10.25  労判798‐85)は

正当性を欠くと判断されている。


(4)内部告発の方法

 内部告発の方法の妥当性に関し、

宮崎信用金庫事件
(福岡高宮崎支判平14.7.2 労判833‐48)では

、従業員の会社の文書を持ち出した等の行為が、

内部の不正を糾すという観点から信用金庫の利益に合致するもの

であり、違法性が大きく減殺され、懲戒解雇が無効とされている。

また、モデル裁判例でも、文書の無断利用などの行為が相当性を

欠くものの、全体として著しいものではないと判断されている。

さらに、保健所に病院の治療方法等について申告した

医療法人思誠会(富里病院)事件(東京地判平7.11.27 労判683‐17)では、

申告内容が世間一般に流布することを意図していなかったとして、

このような行為が正当なものとされている。

 これに対し、

毅峰会(吉田病院・賃金請求) 事件( 大阪地判平11.10.29 労判777‐54)

では、監督官庁などではなく付近住民に病院の不正に関するビラを

配布したことを正当な行為とはいえないとされ、また、

群英学園(解雇)事件
(東京高判平14.4.17 労判831‐65) では、

予備校の不正経理問題に関し、内部の調査書記官の手順を

踏まず、いきなりマスコミ等に公表すると申入れた行為が、

雇用契約上の誠実義務に違反するものであり、これに基づく解雇が有効とされている。


(5)公益通報者保護法

 平成16年6月18日、公益通報をしたことを理由とする

公益通報者の保護を図る

「公益通報者保護法」が成立している。

@ 保護される通報の対象として、

個人の生命・身体・生活環境・公正競争等に関わる犯罪行為の

事実がある場合をあげ、

A保護内容として、従業員の解雇、不利益取扱いの禁止、

B保護される通報者として、従業員、派遣労働者、

C通報先として、所属企業内部・行政機関・その他の者への

通報があげられている。

特に、最後の

「その他の者」への通報に関しては、

企業内部・行政機関に通報したら不利益を受けたり、証拠の隠滅の

恐れがある等の事情が要求されるとしている。



  









     社会保険労務士田村事務所
               
       〒531-0072     大阪市北区豊崎三丁目20−9 (三栄ビル8階)
   
     TEL(06)6377−3421         FAX(06)6377−3420
  
     E−mail tsr@maia.eonet.ne.jp URL http://www.eonet.ne.jp/~tsr   


                                       所長  特定社会保険労務士 田村 幾男


           お問合せは、下記メールをご利用下さい
     
                                             





                                            社会保険労務士田村事務所の営業区域

     (大阪府)
      大阪市(北区・中央区・西区・浪速区・天王寺区・都島区・旭区・鶴見区・城東区・東成区・生野区・平野区・東住吉区
       全区
            住吉区・阿倍野区・西成区・住之江区・大正区・港区・此花区・福島区・西淀川区・淀川区・東淀川区)
     
      豊中市・吹田市・箕面市・池田市・茨木市・摂津市・高槻市・枚方市・交野市・寝屋川市・守口市・門真市・大東市

      四条畷市・東大阪市・八尾市・藤井寺市・柏原市・羽曳野市・松原市・富田林市・大阪狭山市・河内長野市・和泉市

      堺市・高石市・泉大津市・岸和田市・貝塚市・泉佐野市・泉南市・阪南市・
     
       島本町・美原町・忠岡町・熊取町・田尻町・岬町  

    (兵庫県)

      神戸市・尼崎市・伊丹市・川西市・宝塚市・芦屋市・三田市・西宮市・明石市・加古川市・高砂市・姫路市・
      
      播磨町・稲美町・猪名川町


社労士に委託するメリット      トピックス      トピックス(2)     国民年金・厚生年金保険      健康保険制度
社会保険労務士業務  取扱い法律一覧      個人情報保護方針      就業規則    社会保険労務士綱領の厳守      
助成金概要      助成金診断について      リンク集へ       報酬額表     最新NEWS  サービス提供地域
田村事務所へようこそ   田村事務所運営理念  社労士業務(その二)  特定社会保険労務士    産業カウンセラー
代表者プロフィ−ル   田村事務所アクセス   大阪の社労士からの、発信    お問合せ
     キャリア・コンサルタント

 あっせん代理      改正雇用保険法    メンタルヘルス対策      中小企業労働時間適正化促進助成金

短時間労働者均等待遇推進等助成金         均等待遇団体助成金   外国人雇用状況届出制度      常用雇用転換奨励金

                                                                           社会保険労務士田村事務所トップへ

本ページトップへ



          お願い:当事務所のホームページの記載事項に関しましては、充分に細心の注意を払い記載しておりますが、

           万が一記載内容により、発生した損害につきましては、責任を負い兼ねますので、ご留意・ご了承下さい。
          

             copyright(c)2007-2008 Ikuo Tamura All Rights Reserved 社会保険労務士田村事務所