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        個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


           

                              懲戒処分


                                               所持品検査

1.ポイント


(1)企業が金品の不正隠匿防止等のために

従業員に対して行う所持品検査人権侵害のおそれがある。

したがって、企業の経営維持にとって必要かつ効果的な措置であり

就業規則に基づき労働者の代表の同意を得ている場合であっても

当然に適法とはならない


(2)所持品検査が適法とされるためには、

次の4つの要件が満たされなければならない。

@所持品検査を必要とする合理的理由に基づくこと、

A一般的に妥当な方法と程度で行われること、

B制度として職場従業員に対して画一的に実施されるものであること、

C就業規則その他明示の根拠に基づき行われること。



2.モデル裁判例

  西日本鉄道事件 最二小判昭43.8.2 民集22‐8‐1603


(1)事件のあらまし

 一審原告側労働者X(控訴人・上告人)は、

大手私鉄会社である一審被告側使用者Y(被控訴人・被上告人)の

電車運転士である。

Yの就業規則は、

「所持品検査を求められたときは、これを拒んではならない」と規定していた。

Yは、所持品とは身に付けているものすべてのものを指すものとして、

乗務員の鞄等の携帯品や着衣・帽子等にわたり検査を行ってきたが、

靴の中の検査は画一的には行われておらず、

これをめぐりトラブルが生じていた。

そこで、

Yは、組合の同意を得た上で、

改めて脱靴検査を実施することにした。

 乗車勤務終了後、Xは上司に所持品検査を受けるように指示を受けたが

帽子とポケット内の携帯品を差し出しただけで、

靴を脱ぐことには応じなかった。

Yは、Xのこの行為は就業規則所定の

「職務上の指示に不当に反抗し職場の秩序を乱した」に該当する

として、Xを懲戒解雇処分にした。

そこで、Xが懲戒解雇無効確認を求めて訴えを提起した。


(2)判決の内容

 労働者側敗訴

 Xに対する懲戒解雇を有効とした。

 企業が従業員に対して金品の不正隠匿防止等のために行う

所持品検査は、その性質上人権侵害のおそれがある。

したがって、それが企業の経営・ 維持にとって必要かつ効果的な

措置であり、就業規則に基づき従業員組合ないし当該職場従業員

の過半数の同意を得ている場合であっても、当然に適法とはならない。

 問題は、その検査の方法ないし程度である。

所持品検査は、これを必要とする合理的理由に基づいて、

一般的に妥当な方法と程度で、しかも制度として、職場従業員に

対して画一的に実施されるものでなければならない。

所持品検査が、就業規則その他、明示の根拠に基づいて

行なわれるときは、他にそれに代わるべき措置をとりうる

余地が全くないとは言えない場合であっても、

労働者は、個別的な場合にその方法や程度が妥当性を

欠く等の事情がないかぎり、検査を受け入れるべき義務がある。

 この検査には、その方法や程度が妥当性を欠いたというべき

事情が認められない。

Xの脱靴拒否は懲戒解雇事由にあたり、本件懲戒解雇は有効である。



3.解 説


(1)所持品検査

 モデル裁判例は、職務中現金を取扱う機会が多い

労働者に対する所持品検査の適法性について明確な基準を

設定したものである。

労働者の所持品を検査するには、

ポイントの示す4つの要件が満たされていなければならないと

している。その後の裁判例においてもこの基準が示す枠内での

判断がなされてきている。

(2)所持品検査の必要性判断

 所持品検査が必要とされる場合として、

裁判例は以下のように判断している。

 まず、芸陽バス事件( 広島地判昭47.4.18 労判152‐18) では、

所持品検査は乗務と密接に関連する物に限られ、

通勤用自家用車内の検査を行うには

客観的に不正取得を疑わせる行為が行われた場合に限られる

とし、自家用車内の点検を拒否したことに基づく

解雇が無効とされている。

 また、入門時の私物点検に関する

神戸製鋼所事件
( 大阪高判昭50.3.12 労判226‐48)では、

持込みの許されない物品を所持していることを疑うに

足りる相当な事由がある場合に限り

これを行うことができ、単なる会社側の見込みだけに

よって所持品検査をすることは許されないとされ、

所持品検査のために就労が遅れたことによる

賃金カット分の支払が認められている。


(3)所持品検査の妥当な方法

 裁判所は、所持品検査の妥当な方法に関して以下のように判断している。

 まず、東陶機器事件
( 福岡地小倉支判昭46.2.12 労判152‐27) では、

従業員の工場出入の際に行われる所持品検査は

身体検査に類するようなものではなく、

被検査者に不当に羞恥心、屈辱感を与えるものでもなく、

検査を違法と断定することはできないと判断されている。

しかし、同判決は、労働者の携帯品検査拒否に関し、

それが意識的に悪意をもってなされたものではなく、

衝動的にとられた行動で情状はさほど悪質とは思われない

こと等から懲戒事由には該当しないとしている。

 また、電子機器の部品の製造を行う会社での

退門時における守衛による労働者の私品の検査に関する

帝国通信工業事件
(横浜地川崎支判昭50.3.3  労民集26‐2‐107)では、

企業の機密漏洩を未然に防止するために検査を行うことが

就業規則および服務規律に定めてあり、退門時の労働者に

対して画一的に行われていることは適法としがならも、

検査方法は直接強制するものであってはならず、

労働者が進んでこれに応ずるよう納得させるための説明等が

なされるべきであって、検査方法がやや妥当性を欠いていたとして、

懲戒解雇は客観的妥当性を欠き権利の濫用であり無効である

とされている。

 このほかに、懲戒処分が争われた事件ではないが、

検査の妥当性について検討した事例として参考になると考えるので、

以下に2件を紹介する。

 サンデン交通事件

( 山口地下関支判昭54.10.8 労判330‐99) では、

着衣の上から手で触わったり私物の提示を求めてポケットを

裏返しさせたりする確認行為が、被検査者に泥棒視された

屈辱感を与えるものとしてこのような所持品検査のやり方は

著しくその方法・程度を逸脱するものであるとされ、

慰謝料30万円の支払いが認容された。

また、日立物流事件

( 浦和地判平3.11.22 労判624‐78) では、

財布がなくなったとの顧客からの連絡により引越作業員に

行った所持品検査が就業規則等の明示の規定に基づかない点で

違法であり、また明示の同意なくして身体に触れたもので、

方法としても妥当ではなかったとして、慰謝料30万円の支払いが認められた。













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