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        個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ



               懲戒処分


                          経歴詐称

1.ポイント


(1)労働契約締結にあたり使用者が経歴の申告を求めた場合

労働者は原則としてこれに応ずべき義務を負う。

(2)経歴詐称に対する懲戒解雇が有効かどうかの判断は、

真実を告知していたならば採用しなかったであろう

重大な経歴の詐称であったかどうか

を基準とする。

(3)学歴や職歴の詐称は、

労働力の適正な配置を誤らせるような場合には、

懲戒解雇有効となる。

(4)履歴書の賞罰欄にいう

」とは一般に確定した有罪判決(いわゆる「前科」)を意味する。



2.モデル裁判例

  炭研精工事件 最一小判平3.9.19 労判615‐16

(1)事件のあらまし

 一審原告側労働者X( 控訴人・上告人) は、中学または高校卒業者を

募集対象者としてプレス工または旋盤工の求人申し込みをしていた

一審被告側使用者Y( 被控訴人・被上告人) に応募し雇用された者である。

Xは、応募の際提出した履歴書に最終学歴を高校卒業と記載し

大学中退の事実は記載せず、また、有罪判決を受けることになる

刑事事件の裁判の最中であり保釈中であるにもかかわらず

「賞罰なし」と記載していた。

Xは、軽犯罪法違反及び公務執行妨害罪で逮捕され欠勤した。

Yは、経歴詐称、7日以上の無断欠勤等が

就業規則上の懲戒解雇事由に該当するとしてXを懲戒解雇した。

 そこで、Xは、従業員地位確認等請求の訴えを提起した。



(2)判決の内容

 労働者側敗訴

 使用者が、雇用契約の締結に先立ち、雇用しようとする労働者の経歴等、

その労働力の評価と関係のある事項ばかりではなく、当該企業への適応性、

貢献意欲、企業の信用の保持等企業秩序維持に関係する事項について

必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合には、

労働者は、真実を告知すべき義務を負っているというべきであるとし、

Xに対する懲戒解雇を有効とした二審の判決を肯定した。

 最終学歴は、Xの労働力の評価及び企業秩序の維持に関係する

事項であることは明らかであるから、

Xは、これについて真実を申告すべき義務を有していたということが

できる。

しかし、履歴書の賞罰欄にいういわゆる罰とは、一般的には確定した

有罪判決をいうものと解すべきであり、

係争中の事件についてはいまだ判決が言い渡されていないことは

明らかであるから、Xが賞罰なしとしたことは事実に反するものではない。

したがって、Xが学歴を秘匿したことは、就業規則所定の懲戒事由に

該当するが、裁判の最中であることを告げなかったことは懲戒の事由に

該当しない。


3.解 説

(1) 経歴詐称が懲戒処分の対象となる場合

 すべての経歴詐称が懲戒処分の対象となるわけではなく、

真実を告知したならば採用しなかったであろう重大な経歴詐称に

当たる場合に懲戒解雇が有効とされることが多い。

経歴詐称の事件でもっとも問題になるのが、学歴・職歴・犯罪歴である。


(2)学歴

 1) 学歴詐称に基づく解雇が有効とされる場合

  学歴に関しては、労働力の適正な配置を誤らせる等の理由がある場合には、

これに基づく解雇を有効とする裁判例が多く見られる。

  次のような場合は、いずれも秘匿に基づく解雇または懲戒解雇を

有効としている。

  すなわち学歴により別個の職位を設定している場合

三菱金属鉱業事件 東京地決昭46.11.25 労経速777‐3) や

高卒・中卒のみを採用する人事労務管理体制を一貫している場合

硬化クローム工業事件 東京地判昭60.5.24 労判453‐62)、

学歴を確定的な採用条件としている場合

スーパーバック事件 東京地判昭54.3.8 労判320‐43)、

特定の学歴を重視している場合

相銀住宅ローン事件 東京地決昭60.10.7 労判463‐68)、

学歴が適格性判断の上で重大な要素の場合

正興産業事件 浦和地川越支決平6.11.10 労判666‐28)などである。


 2)学歴詐称に基づく解雇が無効となる場合

  次のような場合には、秘匿に基づく解雇または懲戒解雇が無効とされている。

  すなわち、学歴の詐称により経営の秩序が乱されたとはいえない場合

西日本アルミニウム工業事件 福岡高判昭55.1.17 労判334‐12) や

学歴・職歴が労働力の適正評価に何ら影響がない場合

マルヤタクシー事件 仙台地判昭60.9.19 労判459‐40) である。

また、税理士の資格および中央大学商学部卒を詐称したことが、

業務遂行に重大な支障を与えたことにはならないとして、

このような事柄の詐称を理由とする解雇を無効と判断した事例

中部共石油送事件 名古屋地決平5.5.20 労経速1514‐3)がある。


(3)職歴

 職歴に関しては、経験者であることを隠した事件と

経験者であると虚偽の申告をした事件と

両方が存在している。

 1) 経験者であることを隠した事例

  経験者であることを隠した事例として、タクシー運転手に関する事件が

いくつか見られる。

  経験者を雇用しない方針のタクシー会社が採用面接の際にその旨を

伝えていたにもかかわらず、以前別のタクシー会社に勤務し

懲戒解雇されたことを秘匿していたタクシー運転手に対する懲戒解雇が争われた

弁天交通事件
(名古屋高判昭51.12.23 労判269‐58)では、

単に労働契約時の信義則違反にとどまらず、入社後においても

労使間の信頼関係を損ない、企業秩序を乱すものとして、

懲戒解雇が有効と判断されている。

  また、タクシー乗務経験の職歴を秘匿して採用された者に対する

懲戒解雇の当否が争われた

都島自動車紹介事件
(大阪地決昭62.2.13 労判497‐133)においても

懲戒解雇が有効と判断されている。

さらに、乗車券不正使用、自家用車の飲酒運転等を理由に解雇された

職歴を秘匿して採用され、これを理由とする譴責処分の当否が争われた

立川バス事件( 東京地八王子支判平元.3.17 労判580‐34) でも、

譴責処分が有効であるとされている。

 2) 経験者であるとの虚偽申告に関する事件

  経験者であるとの虚偽の申告をしたことを理由とする解雇に関する

環境サービス事件
(東京地判平6.3.30 労判649‐6)において

裁判所は、解雇を有効とし、また、解雇予告手当に関しても、使用者が

どのような条件で雇用するかを決するための重要な判断証拠となる事項に

ついて虚偽の申告をし、これを信用した使用者が労働者の労働条件の決定を

誤らせたものであり、労基法20条1項但書の

「労働者の責に帰すべき事由」に該当する場合であるとし、

解雇予告手当の支払いを認めなかった。



(4)犯罪歴

 犯罪歴に関して、モデル裁判例以前の、

大森精工機事件( 東京地判昭60.1.30 労民集36‐1‐15) では、

起訴され裁判の最中であることは

「罰」には含まれないとされ、また、前掲マルヤタクシー事件においても、

履歴書の賞罰欄に

起訴猶予事案等の犯罪歴(いわゆる「前歴」) まで記載すべき義務はない

とされている。さらに

西日本警備保障事件( 福岡地判昭49.8.15 労判208‐31) は、少年時代の非行に関す

る申告義務はないとしている。





           

                
        













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